第110話 アンフィス・バエナ・イポトリルはかく語りき。
オリジナル・ブライは完全に消滅した。
だがタカミは、力をすべて使い果たしていた。
「おにーちゃん!」
ミカナとメイは彼に駆け寄ったが、彼はすでに息をしていなかった。
心臓も止まっていた。
アンフィスが、ミカナ、とその背中に声をかけた。
「未来のあんたに伝言を頼まれてる。
でも未来のあんたは、その内容を教えてくれなかった。
未来のあんたも自分は聖者なんかじゃないって散々駄々をこねたらしい。
で、俺は、今ここで、あんたに何かいい感じのことを言ったらしい。
でも、それを伝えたら、本来俺の言葉のはずのものが、自分から聞いた言葉になるから、この場で思ったことを思った通り思ったまま言ってくれって言われた。
まぁ、未来のあんたのときの『今』には『ブライが襲来してくることはなかった』し、ここで俺たちがブライを倒すこともなかったわけだが。
未来とか過去とか現在とかややこしいから考えるのも嫌なくらいだが、頼まれたからな。頼まれたら嫌って言えない奴なんだ俺は。
だから、言うぞ。
あんたの兄貴は、どうしてもふたつの世界を同じ時間軸から切り離す必要があった。
たぶん時の精霊か次元の精霊に頼まれたからだと思う。精霊にもできないことだからだと思う。
同じことができる力をあんたも持ってるが、たぶんあんたじゃ失敗するか、成功しても死んでた。
俺やピノアやステラでも、アルビノの魔人でもできないようなことを、ただの人間がやるんだからな。
だから、成功したことも生きてるのも奇跡なんじゃないかとすら思うくらいだ。
あんたの兄貴はそれをやり遂げた。
やり遂げただけじゃない。
なんとかして、そのあともあんたじゃなくて、自分が俺たちといっしょに戦えるようにしたかったはずだ。
妹に限らず、大事な家族を戦地に送り出さなきゃいけないってのは、相当にきついことだろうからな。
だから、未来のあんたのときの今のそいつは、なぜもっとうまくできなかったのか、戦えるだけの力を残せなかったのか、すげー後悔したと思う。
でも、今のあんたの兄貴は、未来のあんたの兄貴ができなかったことをやった。
それだけじゃない。
本来ならここに来るはずがなかっただろうブライ・アジ・ダハーカを招き寄せた。
そして、本来ならここで終わるはずじゃなかった戦いを終わらせた。
こいつには世界よりも守りたいものがあったからだ。
危険な目にあわせたくない大事なやつがいたからだ。
そいつのためなら、命をかけられるくらいに大事なやつがいたからだ。
すげーよ。まじですげーと思う。
あそこにバカ面の双子がいるだろ?
あいつらは、俺たちアルビノの魔人を、ただの人である自分たちが超えるっていうのを目標にして、公言して歩いてる。バカ面さげてな。
あいつらに教えてやりたいくらいだ。
ここまでやらなきゃ、超えたことにはなんねーってな」
「おい、聞こえてるぞ」
「あと、あんたらには無理でも俺たちなら助けられる」
「最上級治癒魔法オラシオンのさらに先の魔法があるからな」
「これのことかしら?」
ステラは、魔人専用の治癒魔法をタカミにかけた。
「え!? なんでステラがその魔法を使えるんだ??」
「え? アルビノの魔人だから? かしら?
オラシオンの先にある魔法だったのね、これ。人にも効くとは知らなかったわ」
「違うよ。わたしのステラがすごいからだよ。
ま、わたしも一回見ればできちゃうけど」
「二回がけ!? 回復するだけじゃないぞ!! ビンビンになるぞ」
「あー、ちなみに、俺もできる。これで三回がけだな。
効果が三倍じゃなくて三乗になるようにしといた」
「超えられるもんなら超えてみろ、クソガキども」
ピノアは、エブリスタ兄弟にあかんべーをした。
「……ミカナ? ……あれ? ぼくは生きてるのか?」
タカミは息を吹き返した。
「おにーちゃん……」
「全部終わった?」
「うん……おにーちゃんががんばってくれたおかげだよ」
「そっか……よかった……
ミカナが戦わないですむようにしたかったんだ」
「無理させてごめんね」
「いっしょに帰ろうな。
でも、その前に服を着てくれ。思春期の男子がたくさん見てる」
そう言われて、ミカナはずっと自分が全裸のままだったということに気づいた。
エブリスタ兄弟が自分をじっと見ていた。
「あとリサちゃんも服を着て。
マヨリちゃんは、今君がまたぐでーんてしてる、その人をダメにするソファの中にいるし」
「え? マヨリ、生きてるの?」
「一応それ、中は核シェルターになってるから。
ふたりの女王の身に危険が迫るようなことがあったら、相手にはしっかりと殺したと思わせて、自動的に反対側の塔のそのソファの中に身を隠すように最初から作ってた」
ニーズヘッグは、槍の切っ先でソファのカバーだけをうまく切った。
中には本当にマヨリがおり、リサは彼女に抱きついた。
そして彼は、よし、鳴り物入りで出てきたわりに完全に空気になってたことをとりもどせたぞ、と思った。
アルマはそんな彼を見て、取り戻せてないわよ、と思った。
自分のほうがはるかに鳴り物入りではるかに完全に空気だということに、彼女は持ち前の天然さゆえ気づかなかった。
ショウゴはカバンから、よかったらこれ、と服を一枚取り出して、リサに渡した。
すてら、と汚い字で書かれているのを見て、リサはにやっと笑いさりげなく着てみた。
が、ステラには即座に気づかれてしまった。
そして、ショウゴは10往復ビンタをくらわされた。
いいな、うらやましいな、とレンジは思った。
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