第111話(第一部最終回) 転移者たちの帰還
一週間後が過ぎた。
ピノアは時の精霊の許しを得て、エウロペの城下町や城、そこに住んでいた人々を惨劇が起きる以前へと戻した。
カオスたちに殺された人々を生き返らせることは不可能だが、時を巻き戻すことにより、生前の肉体を復元することはできる。
それによって、アカシックレコードのデータベースの一部になっていた魂もまた戻った。
カオスたちの肉体も同時に復元されたが、復元と同時にダークマターが浄化され、魔物へと戻った。
ヒト型のカオスは、エウロペの城に仕える魔人を元に人工的に作られた疑似魔王であったから、ただの魔人へと戻った。
カオスもヒト型のカオスも、その細胞はカオス細胞にまで変異はしていなかったらしい。だから元に戻れたようだった。
本来なら許可できないことだと時の精霊オロバスは言った。
それは当然のことだった。
時を巻き戻して、死者を生前の状態に戻すということは、死者を甦らせる以上に許されることではない。
そんなことを許してしまえば、世界は不都合なことが起きる度に巻き戻せば良い世界になってしまう。
しかし、大切なものは時よりも命だと精霊は判断し許可した。
と言えば聞こえはいいが、
「オロバスちゃん、エウロペの人たちの時を巻き戻してもいい?」
「うん、ピノピノがそうしたいならいいよ!!」
という、かる~いやり取りでしかなかったことは、皆墓場まで持っていくことにした。
しかし、国王は戻らなかった。
自らの意思でアカシックレコードにとどまったそうだった。
そこには彼の友人であるブライ・アジ・ダハーカと、レオナルド・ダ・ヴィンチ・イズ・ディカプリオがいたからだ。
アカシックレコードには、オリジナル・ブライを含めた9999人のコピー・ブライの魂が、オリジナルとしてではなくステラやピノアの父として存在しているという。
魔法人工頭脳レオナルドもまた、自ら活動を停止し、オリジナル・レオナルドが存在するアカシックレコードに向かった。
「これからはお前たちの時代だ」
彼はそう言い遺していった。
俺の作った魔装具はすべて破棄してくれ、とも言った。
ニーズヘッグとアルマはランスへと帰った。
ランスとエウロペ、ゲルマーニやアストリアの4国に加え、海を挟んだ島国ギリスの5国は、ペインの復興と世界平和をテラの今後の目標として掲げた。
ステラはエウロペの新たな女王として、ピノアは新たな大賢者として、そしてアルマはペインの新たな女王として、各国の王と円卓を囲んだ。
その場にレンジもリバーステラの代表として参加したが、三人は各国の王を相手にしても一切物怖じすることはなく、尻込みしていたのはレンジだけだった。
エブリスタ兄弟はジパングに残った。
陰陽道とシャーマニズムを学んだあとは、ヘブリカへ渡り、召喚魔法や機動召喚、究極召喚を学ぶという。
世界中にはそれ以外にも、エウロペにはない魔法がたくさん存在するそうだ。
雨野タカミと雨野ミカナと山汐メイは、ジパングでふたりの女王たちと最後の時を過ごしていた。
オリジナル・ブライを倒した後、
「一週間後に迎えにきてほしい」
と、タカミはレンジにそう言った。
役目を終えたリバーステラからの転移者は、すべてを喰らう者によって、この世界に存在してはならぬ者と判断され、いつ喰われてしまうかわからないと言う。
おそらく10日後にはそれがはじまるという。
「だから、一週間だけ時間がほしい」
彼にはこの世界でまだやるべきことがあるようだった。
レンジが仲間たちと共に、飛空艇でジパングを訪ねると、女王のひとり・返璧マヨリの防人・璧隣ネイルがなぜかふたりいた。
リバーステラにおいて、タカミの恋人であり、ミカナやメイの友人でもある返璧真依には、かつて璧隣寝入という友人がいたそうだった。
彼女は一家殺人事件に巻き込まれてしまい、すでに他界していた。
だからタカミは、別の世界の同一人物であるネイルの肉体を複製した。
さらにアカシックレコードから寝入の魂を戻し、その複製体に宿らせたのだという。
「2009年の8月に帰れるようにしてほしい。
ぼくたちがこの世界に転移してきたのは……」
「8月1日の夜。
わたしとミカナは、次の日から真依とアルバイトをするはずだったから」
「場所は■■県■■■村」
レンジは、タカミとミカナとメイ、そして寝入を、魔法剣で作り出したゲートで、リバーステラへと帰した。
「結局、どっちが13人目だったのかわかんねーな」
アンフィスが言うと、
「どっちでもいいじゃん」
ピノアがそう言い、
「未来のわたしが書き換える前の、最初の預言って、確か聖者は14人だったんじゃなかったかしら?」
ステラは言った。
「あ、そうか。じゃあ、ふたりともそうだったってわけか」
彼は納得した。
そして、
「アンフィスはどうする? 元の時代に帰るかい?」
レンジは、2000年前の時代のアルビノの魔人に尋ねた。
「帰りたくなったら自分で帰るよ」
と彼は言った。
「何回告白してきても振るけど」
ピノアはそう言ったが、
「決めた。ピノアからオッケーもらうまで、この時代にいることにした」
彼の言葉に、ピノアはうげえっと言った。
「それ、オッケー出したらますます帰らなくなるやつじゃん!」
皆、ふたりのやりとりに笑ったが、誰の笑顔にもさびしさが浮かんでいた。
「ぼくらもそろそろ帰るよ」
レンジと大和ショウゴもまた、帰らなければいけなかったからだった。
レンジは、魔法剣によってゲートを作り出すと、
「剣は置いていくよ。
レオナルドの言葉通り、その剣は破棄してほしい。
ふたつの世界は二度と関わってはいけないと思うから」
剣を地面に突き立てた。
「みんな、ステラとピノアを支えてあげて。この世界のこともよろしくね」
ふたりは、さよならとは言わなかった。
そしてゲートの中に消えて行った。
「もうすぐゲートが消えるな。
本当にいいのか? ステラ」
「いいの。これは、レンジと決めたことだから」
アンフィスの問いにステラはそう答えた。
ステラのお腹の中にはレンジの子どもが宿っていた。
彼女が彼と結ばれたのは一度きりであったし、医師から診断されたわけではなかったが、結ばれた直後には彼女はそれを悟っていた。
ふたつの世界の架け橋なら、わたしのお腹の中にもういるから。
彼女はそう思った。
彼の子がいれば、自分はきっと強く生きていける。
そのことを彼女はレンジにも誰にも話してはいなかった。
だが、気づいている者がいた。
「でもさ、わたしが今受けてるストーカー被害って、ゲートの向こうにいけばなくなるんだよね?」
ピノアはアンフィスを横目で見ながら言った。
「そうだな。なくなると思うぞ。
あと、その先は異世界だからな。ピノアには保護者が必要だな」
アンフィスは言った。
「あなたたち何を言って……」
「あとはお願いね、アンフィス国王陛下兼大賢者様」
ピノアは困惑するステラの手を握り、いっしょにゲートに飛び込んだ。
「ったく、世話のかかる女王様と大賢者様だ」
アンフィスはため息をつき、そのゲートを閉じようとした。
すると、
「よいしょっと」
ピノアだけが戻ってきて、ゲートを消した。
「そんなにわたしのことが好きなの?」
ピノアは意地悪そうにそう尋ねた。
「あぁ、好きだぜ。
第一印象から決めてましたってやつだ」
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