第101話 集う救厄の聖者たち ②

 暗黒次元を破壊し、ゲートから抜け出したレンジは、リバーステラから転移してきた大艦隊がすべて元の世界に戻されていることや、空に無数にあったゲートが消えていることを確認すると、飛空艇へと戻った。


 飛空艇には、ステラやピノアとは顔見知りのようだが、彼の知らない双子の兄弟と、


「ショウゴ……?」


 彼の小学生時代の友人がいた。


「5年ぶりだな、レンジ」


 大和ショウゴは、小学生の頃と変わらない、くしゃっとした顔で笑った。


「どうしてここに?」


「俺にもよくわからないんだけどな……

 テレビのニュースでレンジが行方不明になってることを知ってから、毎日レンジのことばかり考えてたから、もしかしたらそれがきっかけになったのかもしれない……」


 テレビのニュースで取り上げられているとは思ってもみなかった。

 おそらく、祖父母が捜索願を出したのだろう。


「あ、毎日はうそ。二日に一度くらい。

 でも、最近はワイドショーも、カーズウィルスとメッキの刀のことしかやってなかったろ」


「鬼滅の刃な」


「わざとだよ。妹に散々BL同人誌を読まされたから、名前を聞くだけで思い出すんだよ。

 読んでると、たまにちんこ起つの、なんだろな、あれ」


「女の子たちの前で、ちんこ言うな」



 ショウゴにも妹がいた。確か名前はコトミだ。

 彼より2つ年下で、最後に見たの10歳の頃だ。


 レンジは妹の父代わりのようなものでシスコンというよりは親バカだったが、ショウゴとコトミはシスコンとブラコンといった感じだった。

 親バカなレンジから見ても、ショウゴの妹はかわいい女の子だった。だから、なんとなくだけれど、ショウゴの気持ちはわかる気がした。

 当時から妹が主導権を握っている感じはあったが、相変わらずどころかますます主導権を握られているようだった。



「YouTuberに続いてネット配信番組が勢いをつけてきて、テレビ離れが加速してきていたところにカーズだからな。

 3.11のときほどひどくはないみたいだけど、ワイドショーはカーズと鬼滅のことしかやらない。他にやることがないからね。

 そんなときに、親子二代で神隠しにあった家族が出てきたから、ワイドショーが飛び付いたってわけ」


 まずいな、とレンジは思った。


「実は行方不明になってた父さんもこの世界に来てて、今あっちの世界に帰したばっかりなんだよね」


「え、マジか」


「まぁ、父さんのことだから、うまく母さんや妹やじいちゃんばあちゃんを守ってくれると思うけど」


 そう願いたかったし、マスコミがしてくれたことは迷惑極まりなかったが、逆に好都合かもしれないと思った。


 父は、あの暗黒次元やダークマターが存在しなくとも、カオス細胞を使って魔法が使える。

 だから、ひとりでオリジナル・ブライを倒そうと考える可能性があった。

 そして、魔法を使えば使うほどカオス細胞は消滅し、父は死んでしまう。


 だが、母や妹、祖父母がそういう状況にあれば、父は必ず守ろうとする。

 父が日本を離れ、オリジナル・ブライをひとりで倒そうとすることはないだろう。



「レンジが10000人の転移者で、レンジが来たことによって、あのゆらぎ、ゲートって言ったか? ゲートは一度閉じられたらしいな。

 俺は本来なら存在しないはずの10001人目の転移者らしい。

 そこの、すんごい美人のお前の彼女さんが言うには、一度閉じられたゲートが、合衆国の次期大統領が大艦隊をこの世界に送り込んできたときに、一時的に開いたんじゃないかってさ。

 今はもう閉じてるだろうって」


「大統領選、終わったのか。

 ブライ・アジ・ダハーカが次期大統領になったんだな」


「ああ、まだ就任前だけど、もう世界の王様気取りだ。

 軍の兵器には使用期限があるから、そろそろ戦争をしでかす頃合いだとは思ってたけど、まさか今度は異世界が相手とはね」


 彼は、一目で魔装具とわかる翡翠色の甲冑を身にまとい、両腕に小さな盾をつけていた。

 手には銃口と刀身がふたつずつついた銃剣を持っていた。


 双子の兄弟も魔装具を身につけていた。


「こいつらが鍛冶場泥棒だ」


 レオナルドが言った。


「まぁ、でも、どうやらレンジやステラたちの知り合いっていうのは本当みたいだし、アンフィスによれば3人ともブライを追いかけて2000年前に向かった未来の俺たちといっしょにいたらしいから、まあ許してやるか」


 確か、アンフィスの時代に向かった未来のレンジたちは、未来の彼を含めて13人いたはずだった。


 レンジ、ステラ、ピノア、ニーズヘッグ、ケツァルコアトル、アルマ、ヨルムンガンド、レオナルド、そしてアンフィス。

 すでに9人が揃っていた。


 そして、さらにショウゴと、


「あ、ごめん。

 ぼくは秋月レンジっていうんだけど、君たちは?」


 双子の少年たちの名前をまだ聞いていなかったことに気づいて、レンジは尋ねた。


 ふたりは満を持してと言わんばかりの顔で、


「俺は、ライト・リズム・エブリスタ」


「俺は、リード・ビカム・エブリスタ」


『この魔法大国エウロペに、その名を轟かせる(はずだった未来の)二大賢者、エブリスタ兄弟たぁ俺たちのことよ!!』


 ふたりは芝居がかった口調で、ポーズまでしっかり決めて名乗ってくれた。

 相当練習したんだろうなと思うとおかしかった。


「クソガキ……、それ、名前聞かれるたびに毎回やんの?」


 ピノアはなぜか怒っていた。


「今日だけでもう二回も聞かされてるんだけど?」


 ただの顔見知りというわけじゃなく、仲が悪かったのだろうか。



 ショウゴは苦笑しながら、


「俺は今日だけでこれで三回目だ」


 と言った。


 リードとライトを加えたら、これで12人だった。


「あとひとりで13人揃うってことだね」


 レンジは言った。


 それは、オリジナル・ブライとの決着をつけるときが近づいているということだった。


「アンフィスは、もうひとりが誰か知ってるんだろ?」


「知ってる。だから、これからジパングに向かう」


 彼は言った。


「ジパング!? ちょうど俺たちが次に行こうとしてた国だ」


「楽しみだな。ジパングの陰陽道ってやつ」


 エブリスタ兄弟は嬉しそうに笑い、


『ピノア・カーバンクル、俺たちは必ずお前を超えてやる!』


 声を揃えて言った。


 あぁ、なるほど、そういう関係か。

 レンジは理解した。

 一方的にライバル視されていて、うんざりしている。

 そんなところだろう。


「別にいつ超えてくれてもいいよ」


 しかし、ピノアは言った。


「わたしがあんたらのことが嫌いだったのは、あんたらがわたしのステラをずっと下に見てたからだし。

 ステラは今、わたしの何倍もすごい力を持ってるし。

 確か、あんたらの目標は、魔人でもないただの人が、アルビノの魔人を超えること、だったよね?

 わたしを超えるだけで満足できるならどうぞ。どうぞどうぞ。

 あんたらに、わたしのステラは絶対に超えられないから」




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