第36話 戦場は城下町。⑤
城下町の人々だけでなく、カオスたちまでがアンデッドと化していた。
エウロペの国王もネクロマンサーだったのか、それとも大賢者がまだ生きているのか、そこまではわからない。今はそんなことはどっちでもいいことだった。
その答えはいずれ必ずわかることだったからだ。
そして、それはそんなに遠い未来のことではないからだ。
おそらく数時間後にはわかることだった。
一時間後には、もしかしたら一時間もしないうちにわかるかもしれないことだった。
最悪のケースも既に想定済みだった。
レンジには、そのときの覚悟ももうできていた。
今はとにかく目の前の問題をどうにかしなければいけなかった。
どうにかしなければ、真相にたどり着くことができないだけじゃない。
ここで国王や大賢者を何としてでも食い止めなければ、目の前に広がるただただ地獄でしかないような惨劇を近隣諸国や世界中に広げてしまいかねないからだ。
それは、ニーズヘッグやアルマが生まれ育った、エウロペの隣国であり同盟国であるランスも例外ではなかった。
国王や大賢者にとって、もはやランスは同盟国という認識はないだろう。
動く死体となりながらも、そのカオスたちは死体であるがゆえに、ダークマターを周辺に撒き散らしていた。
それは、城下町の外から新たなカオスたちを呼び寄せ始めていた。
だからレンジは咄嗟(とっさ)に甲冑の首の後ろにあるスイッチを切り替えた。
彼らには、カオスたちの相手をしてる暇などなかったからだ。
ニーズヘッグはレンジよりはるかに強い。それはステラもピノアも同じだ。
3人が持つ力はレンジとは比べ物にならない。
いくら彼がこの世界にはなかった魔法剣を編み出し、ヒト型のカオスを倒せるようになったとはいえ、その差はいまだに桁違いだった。
だが、だからといって、どれだけ殺しても新たな仲間を呼び寄せるだけのカオスを相手に、皆がこれ以上体力を消耗し、疲弊するわけにはいかなかった。
ニーズヘッグはともかく、ステラもピノアも、そして一番弱く守られる立場にある自分も、既に丸1日以上睡眠をとっていなかったからだ。
枯渇しつつある大気中のエーテルを、不毛としか言えないこの戦いでこれ以上消費させるわけにはいかなかった。
本当に倒すべき相手は、目の前のカオスやアンデッドではないからだ。
その相手はおそらく、城の玉座に座り、レンジの謁見を待っているからだ。
甲冑はレンジの身体からパージされ、狼の姿となり宙を舞った。
「レオナルド! 大賢者にやってみせてくれたやつを城下町全体にやることはできるか!?」
レンジは、甲冑の狼・レオナルドにそう尋ねた。
レオナルドは、大きくうなづいた。
さすがはレオナルドだ、とレンジは思った。
目の前の甲冑の狼と、彼を作った魔装具鍛冶職人の、ふたりのレオナルドに対して。
「ステラ! 風の精霊の魔法でレオナルドとぼくを高く飛ばしてくれ!!」
レンジは叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます