第24話 ネクロマンサーとの戦い ④

 レオナルドが人工的にエーテルを産み出そうした際、どれだけのダークマターが産まれたのかはわからない。


 産み出せるかどうかもわからないものを産み出そうとしていたのだから、結果として違ったものが産み出されてしまったとはいえ、おそらくは少量だったはずだ。


 だとすれば、それ以降一度もダークマターや、エーテルと融合することによってダークマターとなるもうひとつの魔素が産み出されていないのならば、すでにダークマターは世界から失われていてもおかしくはなかった。

 失われていなければいけなかった。


 父はその魔素を放射性物質と考えていた。


 仮に父の考えが正しかった場合、放射性物質をリバーステラからテラへと招き入れることができるのは、レンジが知る限りひとつだけだった。


 ゲートだ。


 レンジの住む街には原子力発電所があり、父はそこで働いていた。


 レオナルドがダークマター(あるいは放射性物質)を産み出してしまった(呼び出してしまった?)のは、おそらくは偶然だったのだろう。


 しかし、それによって大賢者や国王は、リバーステラの存在に気づいてしまった。


 そして、レオナルドがゲートを産み出してしまったのは偶然ではなく、おそらくはそうなるように仕組まれていたのだ。


 ゲートとは放射性物質をリバーステラから招き寄せ、ダークマターを産み出し続けるためにその存在があり、レンジやレンジの父をはじめとする来訪者はその副産物に過ぎなかったのだ。



 おそらく魔王とは、ダークマターを管理するシステムのような存在であり、テレビゲームに登場するような魔王ではない。


 最初こそ父は本当に魔王であったかもしれない。

 二角獣バイコーンがヒト型に進化したときとは比べ物にならない量のダークマターを取り込んだであろう父ならば、そう呼ばれるだけの力を持つ存在であったかもしれない。


 しかし今となっては、大賢者を名乗る目の前の愚者にとって、彼にとってだけ必要不可欠な存在でしかないが、精霊たちと同じ、世界を管理するシステムのひとつに過ぎないのだ。



「父さんはいつまで生きられる?

 ぼくが今すぐ魔王になれば、父さんは元に戻れるのか?

 何年か、いや何ヵ月かでもいい。

 生きることができるのか?」



「確かサトシには君の他に産まれたばかりの娘がいたね。

 なるほど、君は自らを犠牲にしてでも、妹に父親という存在や父親からの愛というものを教えたい、そう考えているわけか。

 妹だけではないな。母親もか。

 自分たちは、夫や父に捨てられたわけではない、そう教えたいわけだね。

 素晴らしい家族愛だ。

 虫酸が走るほどにね。

 残念だが、君の父親はもはや元の姿に戻すことはできない。

 その唯一の方法を、わたしが今ここで破壊するからね」




「だってさ。どうする? にーちゃん」



 レオナルドの声がした。


 頭の中に直接語りかけてきている、そんな声だった。


「こいつはここで始末しておくべきだと思うぜ。思ってた以上にやっべーわ。

 あのバカ国王よりも頭が悪い。

 そのくせ自分のことを頭がいいと勘違いしてやがるから手に負えねぇ」


 甲冑の狼が、まっすぐレンジを見ていた。


「そうだね」


 と、レンジは笑った。


「何を笑っている? 気でも触れたのか?」


 愚者は言った。



「俺が隙を作る。今の俺は、たぶん残留思念みたいなもんだからな。そこまでが精一杯だ。

 あとはねーちゃんたちとうまくやれ。ふたりともこっちに向かってきてるみたいだからよ。

 あと、俺の一世一代の発明品、名前がないと不便だろ? レオナルド・カタルシスとでも呼んでくれ。それが名前で、発動させるときの合言葉だ」


 レンジがうなづいた瞬間、甲冑の狼は飛び上がり愚者の首筋に噛みついた。



「レオナルド! カタルシス!!」



 レンジが叫んだ。


 甲冑の狼の全身から発射された無数のレオナルド・カタルシスは、愚者の身体中に突き刺さった。


 それは、愚者がすでに取り込んでいるだろうダークマターを浄化し、魔法を発動しようとした瞬間にはもうその手に集めたダークマターを浄化する結界のようなものだった。


 甲冑の狼は、愚者から離れると、レンジの体に甲冑の姿に戻った。

 そのときにはもう、レオナルドの残留思念のようなものは感じられなかった。


「あんたの馬鹿さ加減に飽きれてただけだよ。

 そのレオナルド・カタルシスは、あんたの体の中のダークマターも、あんたが使おうとするダークマターの魔法も、すべて浄化して無効化する」



「私が馬鹿だと? 私は大賢者だぞ!!」


 愚者はレンジに向かって魔法を放とうとしたが、それが発動することすらできないとわかると、ダークマターではなくエーテルの魔法を放った。


「業火連弾! アブソ・リュゼロ!!」


 しかし、レンジがみにまとう甲冑は、エーテルの魔法はすべて無効化する。


「テンペスト!! テラクエイク!!!」


 無効化すると同時に、魔法をエーテルへ還元し吸収する。

 魔法を受ければ受けるほど、その甲冑は進化する。


「無駄だよ。エーテルの魔法は、この甲冑には効かない。

 あんたは、あんたが散々馬鹿にしていたレオナルドやサトシの息子に負けるんだ」



「レンジ!」


 ステラとピノアが駆けつけてきていた。


「何が起きてるの?」


 レンジはふたりから剣を受けとると、


「あとでゆっくり話すよ」


 愚者の体を切り裂いた。




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