第22話 ネクロマンサーとの戦い ②
すでに日は落ち夜であり、村には死体が無数にある。
ネクロマンサーにとって、たった3人の少年少女から、その命やレオナルドの発明を奪うには、最高すぎるほどの条件が揃っていた。
いくら3人とも魔装具を身にまとっているとはいえ、魔人の巫女がふたりいるとはいえ、そのひとりがアルビノの魔人とはいえ、ふたりは戦いの素人であるリバーステラからの来訪者を守りながら戦わなければならないのだ。
ステラは、光の精霊の魔法を使い、三人の目を昼間と同じとまではいかないまでも、まるで暗視ゴーグルをしているかのように見えるようにした。
それは、まるでリバーステラが科学を追い求めた先に、テラの魔法があるような不思議な感覚だった。
その不思議な感覚は、レンジにある閃きを与えた。
「サーモグラフィ……っていうのは、ぼくの世界の科学の言葉だから……
今ぼくらの目に見えているものに、さらに熱を持つものだけが色がついて見えるようにする魔法ってないかな?
できれば、障害物の向こうにあるものの熱までわかるような」
ダメ元で訊いてみることにした。
「本当にあなたはすごいわね。
それがあれば、ネクロマンサーがどこに隠れていようが、死体や家屋が持たない、生きている者だけが持つ熱を感知して、居場所を特定できるということね」
ステラは誉めてくれてはいたが、それはそういう魔法は存在しない、ということだった。
「そういう魔法は聞いたことがないけど、ステラがさっき使ったのは、光の魔法の初歩の初歩みたいなものだから、光と火の精霊の力を同時に借りれば可能だよね」
「そうね、今はない魔法も、必要なら作ればいいだけだもの。
特に熱を感知するなんて火の精霊の魔法の初歩の初歩の初歩だから、ピノアならすぐできるんじゃない?」
「いやいや、そんな初歩の初歩の初歩の初歩の魔法の掛け合わせなんて、わたしじゃなくてもステラにもできるから」
何も知らない人が見れば、ふたりはふざけているように見えるかもしれない。
けれど、ふたりとも今すべきことに精神を高く高く集中させているのがレンジにはわかった。
相手をからかうような言葉をかけあうことで、集中すればするほど狭くなりがちな視野を、広く保ち続けているのだ。
「なるべく三人で行動しましょう。
レンジは特に、わたしから絶対に離れないで」
「あと、ネクロマンサーはたぶん生きてる人間だと思うけど、村の人の死体が動き出したりしても、それはもうとっくに死んじゃってて、敵に操られてるだけだから」
ためらわずに斬れ、ということだろう。
「アンデッドやスケルトンの弱点は光。それから炎。
魔法による攻撃は有効だけれど、剣はあまり役に立たないわ。
剣で体を真っ二つにしても、首を切り落としても、敵は既に死んでいるからそれでも襲ってくる。
細切れにするくらいに切り刻んで、ようやく戦闘不能にできるの。
だから、油断しないで」
3人は、村の入り口に、それぞれ背中合わせに立っていた。
村の中に向いているのは、ステラとピノアだ。
魔法の使えないレンジは、ふたりの背中を守ると言えばかっこいいが、村の外を見張るだけだった。
レンジはふたりに、両手に持った剣を差し出した。
「剣での攻撃にあまり意味はなくても、ふたりが片手に一本ずつ持っててくれれば、この二本の剣は役に立つよね」
ふたりは、わかった、と言って、剣を受けとった。
その代わりに、ステラは自分が持つ魔装具をレンジに渡した。
ステラが持っていた魔装具は、結晶化したエーテルで作られた杖と盾だった。
「その杖は、雷の精霊の魔法を大気中のエーテルを消費することなく無限に連続で放つことができるわ。まだ魔法が使えないあなたにも。
ただし、ピノアがあなたの前で使った火や水の精霊の魔法ほど強いものじゃないの。
その杖から出せるのは三段階、四段階ある魔法の二段階目のもの。
使うときは相手に雷を落とすのをイメージして。
それと、その盾は風の精霊の二段階目の魔法が使える」
雷神の杖に、風神の盾といったところだろうか。
ピノアが持っていた魔装具は、ガントレットと呼ばれる両腕の肘から指先までを被う防具だった。
「わたしの魔装具をひとつ、ステラに貸してあげる。これは魔法の威力を高めるものだから」
ピノアは左利きだったのか、右手のガントレットをステラに渡し、ディカプリオ・ブレイドを手に取った。
「こんなときにわたしに気を遣わないで。あなたが持つのは、こっちよ」
ステラはピノアの剣を奪うと、その手にダ・ヴィンチ・ソードを握らせた。
「敵はわたしが鈍化させる。
わたしよりもエーテルの扱いに長け、魔法の才能も長けたあなたがこの剣を持つべきよ」
「わかった。もしかしたら業火連弾がインフェルノ2発じゃなくて4発になっちゃうかもしれないけど、それでネクロマンサーを殺っちゃってもステラのせいにする」
死体が起き上がる音がした。
ステラとピノアが手のひらにエーテルを収束させるのを感じた。
ふたりの手のひらから、光の精霊と火の精霊の魔法が放たれる音がした。
レンジには、それを見ている余裕はなかった。
目の前から目が離せなかった。
自分に向かって、ゆっくりと歩いてくる、フードつきのローブ姿の何者かがいた。
そのいかにもといった怪しい姿は、目の前の光景がフィクションであったなら、もっとましなデザインはなかったのかと思っただろう。
だが、現実に目の当たりにしたその姿は、得体が知れず、とてつもなくおそろしい存在のように感じられた。
ネクロマンサーは村の中になどいなかった。
「ふたりとも……ネクロマンサーはこっちだ……」
レンジはそう言おうとしたが、言葉が出なかった。
すでに、相手の術中にあり、言葉を発することができなくなっていた。
けれど、ふたりに剣を預けた自分の判断は間違ってはいなかった。
だからこそ、今レンジの手には雷を放つことができる杖があるのだ。
レンジが杖から雷を放った瞬間、ステラとピノアは振り返り、同時に魔法をネクロマンサーに向けて放った。
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