第21話 ネクロマンサーとの戦い ①
その村はミラノーマという名前らしかった。
小さな村とはいえ、数十人から100人程度の村民が住んでいたという。
「この村は確か、エウロペの国王や大賢者に愛想を尽かした人々が集まる、魔法使いの集落が元となった村だったはずよ。
魔王が生まれた直後だったと聞いているわ。
きっと、とても頭のいい人たちだったのでしょうね。
魔法を捨て、自給自足の暮らしを送りながら、常にエウロペを見張っていると聞いたことがあるわ。
もしかしたら、わたしやピノアがこの村に住むような未来があったかもしれないわね」
レンジのせいではないとはいえ、ステラには朝からずっと悲しい顔ばかりさせていた。一部レンジが原因のものもあったが。
ピノアも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
村民がすべて殺されていると決まったわけではないが、生き残りがいる可能性は限りなく低いだろう。ステラとピノアの判断は同じだった。
「ピノア、むしゃくしゃしてるわよね? わたしやレンジさえ巻き込まなければ、好きに暴れていいわよ」
「そういうステラこそ、はらわたが煮えくり返ってるんでしょ? わたしやレンジさえ巻き込まなければ以下同文だから」
死霊使いとも屍術師とも呼ばれるネクロマンサーは、死者や霊を用いた術(ネクロマンシー)によって、死体をアンデッドやスケルトンに変えて操ることができるという。
アンデッドとは、死体が動きだし人間を襲う、ゾンビのようなものだそうだ。
リバーステラで流行っているゾンビものの映画や海外ドラマと違って、噛まれたところでゾンビウィルスに感染し、自分がゾンビになるというようなことはないという。
スケルトンとは骨だけの戦士だという。
剣や盾を持ち、鎧を着ていることもあるそうだ。
基本的には腕は2本だけだが、動かなくなったスケルトンから腕だけを拾い、4本や6本に増やすといったことをして戦闘能力を高めることが可能らしかった。
それらは、ネクロマンサーの魔法によって動かされているだけの死体に過ぎず、「動植物がエーテルによって進化し、自我や高い知性を手に入れた」という、この世界における魔物の概念から外れた存在だった。
ステラやピノアは、ネクロマンサーが使うような闇の精霊の魔法は使えない。
それが精霊なのか死神なのか悪魔なのかさえも知らなかった。
レンジは国王との謁見をせずに旅立ってしまったし、大賢者のことも知らない。
だからふたりとは全く面識がなく、ステラやピノア、レオナルドから聞いた話程度の知識しかない。
人から聞いた話だけで、会ったこともない人についてあれこれ言うのはどうかとは思うが、国王も大賢者も人の上に立ってはいけない人間であり、目的のためなら手段を選ばない人間だということはわかった。
9998人のリバーステラからの来訪者と、同じ人数のテラの巫女の命を、レンジやステラのために犠牲にしてきたことからもそれは明らかだった。
ピノアさえもステラのための犠牲にしようとしているかもしれないのだ。
そのような人間が、闇の精霊の魔法に手を出さないということがあるだろうか。
手を出したくても、手が出せなかったのではないか。
「ふたりは、まだ国王や大賢者にだまされていることがあるのではないか?」
レンジは考えていたことを思わず口にしてしまっていたが、そのことに気づかず、ステラやピノアの視線にも気づいてはいなかった。
「仮に、闇の精霊の魔法が、エーテルを触媒とするものではないとしたら、エウロペの大賢者ですら使えなかったんじゃないだろうか?
エーテル以外に触媒になるものはダークマターしかない。
いや、エーテルとダークマターの扱い方は同じだということはすでに判明している。
ステラが、昨日そう言っていた。
つまり、大賢者は闇の精霊の魔法を使えるが、あえて使わなかった?
リバーステラからの来訪者しかダークマターを扱えないということにしなければいけない理由があった?
その理由はなんだ?
ダークマターが、本来テラには存在しないものだからか?
国王の命令で、レオナルドが人工的にエーテルを産み出そうとした結果、ダークマターは産まれてしまった。
ダークマターは、二角獣バイコーンをヒト型にまで進化させた。父さんを魔王にもした。
そんなものが、この世界にあってはならない。
必ずすべて浄化しなければならない。
それは確かにそうだろう。
だが、父さんやその後の9998人の来訪者だけにすべてを背負わせず、大賢者や巫女たちもダークマターの魔法を使っていたなら、父さんが魔王になることもなく、すべてのダークマターを浄化できていたかもしれない。
でも、そうはしなかった。
つまり、ダークマターの浄化を国王や大賢者は望んでいないということだ。
レオナルドの発明こそが、国王や大賢者にとって存在してはならないもの……
レオナルドを殺したのは、ネクロマンサー。
ダークマターを使用することを国王や大賢者に認められた魔法使いで、ネクロマンサーは国王や大賢者の命令でレオナルドを殺した……」
レンジ、とステラは彼を呼んだ。
「あなた、さっきからずっと考えていることをしゃべってしまってるわよ」
レンジは指摘されてようやくそのことに気づいたが、彼を見つめるステラとピノアの表情は真剣そのものだった。
「ピノア、好きに暴れるのはなしにしてちょうだい」
「ステラもね。必ずネクロマンサーは生け捕りにすること。
生け捕りにできたら、ステラにはレンジといちゃいちゃできる時間をあげる」
そしてふたりは、
「どうやら、わたしたち巫女がレンジを導く存在という認識は改めなければいけないわね」
「そうだね、レンジがわたしたちを導いてくれてるみたいだもん。
わたしもレンジのこと好きになったらごめんね、ステラ」
そう言った。
ステラは笑って聞き流していたが、その目は笑ってはいなかった。
ピノアもそれは同じだった。
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