第18話 すべてを食らう者 ②

 ピノアの氷結魔法によって上半身を氷漬けにされ、ステラの爆発魔法によって四散したヒト型のカオスは、その場には下半身だけが残り、右脚にはダ・ヴィンチ・ソードが食い込んだままだった。


 レンジがそれを引き抜こうとすると、思いの外簡単に抜けてしまい、思い切り力を込めていた彼は尻餅をついてしまった。


「あ~、やっぱり死んじゃうと~、ダークマターが身体から出ちゃうから~、あんなに硬かった身体も柔らかくなっちゃうんだね~」


 ピノアはその脚を、拾った枝でつんつんつついた。

 それはまるで、うんちをつつく昔のアニメの女の子のロボットのようだった。


「でも~、なんで~、脚だけになっても立ってるのかな~。片脚切れてるのに~」


 そう言って、しゃがみこんでいたピノアはヒト型のカオスの両脚の付け根を見上げた。


「ちんこ」


 そう言って、彼女もまた尻餅をつき、


「ん? 何? ピノア、どうかしたの?」


 ステラもまた、それを見て、


「おちんちん」


 と言って、ばたりと倒れた。



 ふたりは同時にむくりと起き上がると、


「あの……レンジ……さん……?

 ちんこってあんなにおっきいの?」


「あ、あなたのも、あんなにおおきいと、さすがに、わたしには入らないんじゃないかと思うんだけど……」


 うん、急にとってつけたように、さん付けしてきたピノアはともかく、ステラ、君の気持ちはすごく嬉しいけど、さすがにまだ、そういうのはぼくらにはまだ早いんじゃないかな。

 レンジは、そんなことを考えながら、ふたりが見たものを改めてよく見て、そして自信を喪失した。


「あ、あのね、あんなにおおきいと、わたしもこまるから、あなたのはちいさくても全然……ううん、むしろ、ちいさいほうが……」


「う……うん……この人、元は馬みたいなもんだし……馬って確か、体だけじゃくて、あれもすごく大きいって聞いたことあるから……」


 自分は一体何を言い訳しているんだろうと思いながら、レンジは引き抜いた剣を鞘に納めようとして、そして気づいた。


 手の指先まで覆う甲冑の甲から、試験管のようなものが飛び出していた。


 レオナルドが、一度だけ見せてくれた、ダークマターの浄化の際に使ったものとそれは同じものに見えた。


 レンジはそれをヒト型のカオスに向けてみることにした。


 黒い瘴気がそれに吸い込まれていき、死体からは、清き水から生まれたばかりのエーテルの蛍のような光が溢れた。



「これって、まさかゆうべの……」


「ゆうべ?」


「ピノアが寝ちゃった後、レオナルドさんが見せてくれたんだ。

 ダークマターを浄化する方法。

 ステラ、悪いんだけど、この手の甲にあるものを調べてくれない?」


 ステラはレンジの手の甲から試験管のようなものを引き抜いた。

 新たな試験管が自動的にすぐに装填された。

 手の甲には、左右に3つずつそのような仕掛けがあった。


 すでに放射性物質の封印がされているようだった。

 それも、ただ試験管に閉じ込めただけじゃない。

 試験管の中には目に見えない何かが存在し、放射性物質を食らっていた。


「これは……すべてを喰らう者?」


 ステラは、その目に見えない何かを見て、そう呼んだ。




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