第17話 すべてを食らう者 ①
火、水、風、土、雷、そして光、闇。
テラには、それぞれを司る精霊が存在し、魔法使いたちは闇以外の精霊の力を借り、大気中のエーテル(魔素)を手のひらに集め、魔法の源とする。
魔法は、リバーステラの科学と同じで、まだ発展途中にあり、さらなる発展と応用が可能とされているという。
火の精霊の力を借りた最強の火炎魔法は「インフェルノ」であり、ピノアがレオナルドの店で放った「業火連弾(ごうかれんだん)」はインフェルノを2発同時に放つ応用魔法だという。
水の精霊の力を借りた最強の氷結魔法は「アブソ・リュゼロ」。
先の戦いでヒト型に進化したカオスに対しピノアが放ち、氷漬けにしたのがこの魔法だった。
水の精霊の力は治癒に借りることもでき、最高の治癒魔法とされているのが「オラシオン」。
レンジは、甲冑は無傷であったが、ヒト型のカオスの蹴り一撃で、内臓がかなり損傷していた。ステラにこの治癒魔法をかけてもらわなければ、おそらく数時間後には死に至っていたという。
しかし、魔法や精霊の力とは絵の具のようなもので、二柱の精霊の力を借りることによってより強力な魔法が使えるという。
それが、氷漬けとなったヒト型のカオスに対しステラが放った爆発魔法らしい。
火と水の精霊の力を借りることで、化学的な表現をするなら、凝縮した水素に火をつけて爆発を起こす。
そういった新たな魔法が現在研究されているとのことだった。
レンジは、ひどく落ち込んでいた。
ダークマターによる魔物やカオスの混沌化を侮っていた。
魔装具の力に頼りすぎていた。
それに焦ってもいた。
11年前に行方不明になった父が、この世界にいると知った。
その父が魔王であると知った。
一度は父を救う方法が見つかった。
しかし、その方法を知るレオナルドは殺されてしまった。
だから、レンジ自身がダークマターについて深く知る必要があった。
それにステラやピノアの足手まといにならないよう早く強くなりたかった。
だが、結果として、ふたりがいなければ自分は何もできないまま先の戦いで死んでいた。
「モノケロースを倒すまでは~、レンジも結構頑張ってたよね~」
ピノアは、そんな彼を励ますように、いつもの馬鹿っぽい口調でそう言ったが、
「でも、バイコーンがヒト型に混沌化したときに、レンジはすぐにわたしたちを呼ぶべきだったと思う」
彼女は口調はやわらかかったが、とても怒っていた。
「そうだね……ピノアやステラに頼るという選択肢が、あのときのぼくにはなかった……」
「あなたが、ひとりで戦うと言い出したときに、こうなる予感がしてた。
今のあなたは焦りすぎてる。
まだこの世界に来て2日目なのに、いろんなものをひとりで抱え込みすぎてる。
もっとわたしたちを頼ってくれていいのよ」
ステラの言う通りだった。
「でも、今回のことはわたしにも責任があるわ。
ピノアはケルベロスの群れが来たときに、あなたを助けようと言ったの。
モノケロースが来たときもね。
だけど、わたしがそれを止めた。
あなたの成長は目を見張るものがあったから。見てみたいと思ってしまったの」
危険な目に遇わせてしまってごめんなさい、とステラは言った。
謝らなきゃいけないのはレンジの方だというのに。
「でも、これでレンジはもう、おんなじ失敗はしないよね?
レンジはちゃんと生きてる。
ダークマターが一定量を超えたら、カオスがヒト型になって、あんなにも強くなるなんて報告はこれまでになかったし。
結果オーライってやつ?」
「そうね……確かにあれはただの混沌化じゃなかった」
バイコーンのヒト型への混沌化は、ケルベロスからモノケロースまでの混沌化とは違う、飛躍的な進化だった。
レンジが片手の剣を軸にして相手の背後にまわるのを見て、すぐに自分もやってみせた。
混沌化によって失われていくだけのはずの知性が戻っているように見えた。
「大賢者様に報告する必要があるわね」
ステラは手のひらの上に、エーテルを集め鳥のようなものを作ると、ヒト型のカオスの肉片を脚に握らせた。
風の精霊の魔法に、そんな風にして魔法で産み出した鳥にメッセージを込め、必要とあれば何かを持たせ、伝書鳩のように送る魔法があるのだそうだ。
その鳥が見えなくなるまで、3人は空を見上げていた。
「約束するわ。あなたを二度と危険な目に遇わせない」
ステラがレンジに言い、
「それから、ふたりは二度とわたしの前でいちゃいちゃしないこと」
ピノアがステラとレンジに言った。
そして、
「ぼくは、二度と同じ失敗をしないよ」
レンジは、ふたりに誓った。
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