第4話

 それから私達はサウナで汗を流し、ロウリュなるパフォーマンスを受け、互いにかけ湯をして、人生で初めての水風呂に挑戦し、再び炭酸泉に浸かり、上がって館内着を来てフルーツ牛乳を飲んだ。

「ジュースもロッカーキーで買えるんだね」

「そうそう、便利だよねぇ」

 途中、小津は周囲の人から特異なものを見る目、同情をするような目を向けられていたが、気にしている素振りは見せなかった。

「恭子、アカスリに抵抗あるってことは、全身マッサージも嫌?」

「そう、だね。進んで受けたいとは思わないかも」

「それならフットマッサージとかはどうかな? せっかくこんな施設来たんだから」

「……うん。じゃあ、やってみようかな」

 正直そこまで惹かれるものはないが、怪我を理由にアカスリを断られた小津が全身マッサージを受けられるとも考えにくい。

 彼女自身が妥協した結果を私に共有してくれたのだと考え、断りづらいというのが本音だった。

「よしきた」

 ひと目で東南アジアを連想させる――独特の雰囲気を醸し出す――暖簾を潜って受付をすると、待ち時間はないらしくそのまま施術してくれることになった。

 カタコトの外国人女性がアロマオイルを使って脚部を指圧していく。

 すぐ隣では小津も同様のマッサージを受けており、完全に恍惚の表情を浮かべていた。反対に私はその痛みに顔を歪め、微かにある快感も全てを享受するのはどこかはしたなく思ってしまい、拒絶的になってしまう。

 自分の幼さに辟易しながら過ごしていると、あっという間に二十分のコースが完了し、その効果を実感することもないまま施術室をあとにした。


 ×


「さっ、たーんとお食べよ」

 じんわりと足が温まってるのを感じながら、今度は館内にあるレストランへ。

「私はどうしよっかなぁ~いっぱいメニューあるねぇ」

 向かいではなく隣に座っている小津と共に、メニュー表を眺める。値段設定は少し高めだ。

 ジュースくらいならばどうとでもなりそうだが、マッサージに夕食代、そして館内利用料が足されればそれなりの金額になってしまうだろう。

 そういえばマッサージもジュースも、小津のロッカーキーに料金を付けていたことに気づく。

「えっ、恭子ほんとにそれだけでいいの?」

「うん。もともとあんまり食べられないんだ」

 父から徹底的な節制を求められていたこともあり、医師曰く私の胃を始めとする消化器官は随分と収縮しているらしく、メニューの端から端までを頼む勢いの小津を見習うことはできない。

「最後の晩餐みたいなもんなのに~」と、どこか不満げな小津だったが、私は彼女が頼んだものを少しずつ食べられることを、少し嬉しく感じていた。

 私のものは私のもの、他人のものは他人のもの。そうやって生きてきた私が、こんな状況になって初めて誰かと何かを分け合うことができたのだから。


×


「さて、じゃあ今日はもう寝よっか」

 レストランを出たあと受付に行って何やら手続きを行っていた小津は、戻ってくるなり私の手を引いて未開のエリアへと導いた。

「今日寝るお部屋はこちらでーす」

 それは、それをそうと知らずとも、それを見た人はこう呼ぶだろう。

「これ、カプセルホテル?」

「ピンポーン。本当は一人で一室なんだけどね、恭子は一緒に寝るの、嫌?」

「嫌じゃないけど……」

 狭い。テレビか雑誌か。何かで紹介されているのを見たことはあったが、実物がこんなにも狭いだなんて思いもしなかった。先に入って寝転がった小津に私も続けば、たまらない閉塞感が押し寄せた。

「私達、一緒の匂いがするね」

 結局私が小津を腕枕するカタチとなり、極限まで密着し、匂いを共有しながら眠る。

 未知の連続だったからか心地よい睡魔が訪れたその時、小津の手が私の胸部を弄り始める。

「恭子は柔らかくて温かいね」

 掠れるような小さい声は、まるでありもしない神の愛に縋り付く子供みたいで、私は拒絶する意志も言葉もなくしていた。

「小津だってそうだよ」

「本当? 嬉しいな」

 小津は慣れない手付きで私の館内着を脱がしていく。狭い室内で、物音を立てて周囲から怪しまれないよう静かに、丁寧に。

「ねぇ、姑息でしょ? でも恭子だって悪いよね、同情して、絆されて、逃げられなくなって……そんなんだから、私なんかに犯されるんだから」

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