第120話魔法少女編 エピローグ 前編
サイド:森下大樹
『過去の文明破壊の歴史は知っているわね? で、だからこそ、何故に勝手な次元転移が重罪とされるかも。次元転移の影響を考えて、私はすぐに帰るわ。でもダイキ――? さすがの私でも妹ちゃんをあの短時間で完全に解呪できたわけじゃない。システムと切り離す際、多少無茶をしたわ。魔法少女に関連する全ての記憶を……断ち切ったわ。いや、そうせざるをえなかった。脳の記憶を司る領域と呪術式が雁字搦めになっちゃってて……で、それは生き返った数人の魔法少女と一緒よ』
そうして、アナスタシアは向こうの世界に帰った。
で、そこから時は流れ解散となって、俺は真理亜を抱きかかえて家に帰ったわけだ。
「とにかく――疲れた」
MP節約のために沖縄から泳いで九州まで渡ったわけで、俺も肉体的に疲弊している。
で、真理亜を部屋のベッドに寝かせて、そうして俺も自室に戻って、ベッドに横になった。
「記憶の消失……か」
明日からは面倒なんだろうな。とりあえず、できるフォローはしてやらなくちゃならねえ。
そんなことを考えながら、俺は――眠りについた。
「きゃあああああああっ!」
と、夜中に悲鳴が聞こえてきた。
真理亜の部屋からだ。急いで俺は真理亜の部屋に向かうと、おびえた表情でベッドから上半身を起こしている真理亜がそこにいた。
「お……兄ちゃん?」
「どうした、真理亜?」
俺の姿で安堵したように真理亜はため息をついた。
「ねえお兄ちゃん?」
「ん?」
「――怖い夢を見てた。へへ、来月には中学生になるっていうのに……ごめんね?」
「……そっか。怖い夢か」
「魔法少女がどうのこのうとか……そんな夢物語なんだけどさ」
意識が混濁してやがるな。それに、こいつが中学生になったのは何ヶ月も前のことだ。
まあ、記憶が改ざん……消去されてて明日からこいつも大変だろう。
「あのね? お兄ちゃん? こっち来て? 本当に怖い……怖い夢だった」
「おう」
俺は真理亜のベッドに腰掛けて、震える肩を抱いてやった。
「ずっと、何かに追い立てられていて、大事な人たちが変わり果てていって……頑張っても頑張っても……どうにもなんなくて。状況は悪くなる一方で」
「……」
「それでも、抗い続けるしかなくて。闇の中を一人でずっと走り続けるしかなくて。怖くて、しんどくて、心細くて……ずっと、ずっと……私……泣いてたんだ」
「……安心しろ」
「……え?」
「全部、終わったよ。今、お前は起きてるだろ? 怖い夢は――終わったんだ」
「……そっか」
それでも、真理亜の肩の震えはとまらない。
「ねえ、お兄ちゃん? ごめん。まだ……怖い。今日は……一緒に寝てほしい」
「分かったよ」
そうして、俺は真理亜の布団に潜り込んだ。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「何だ?」
「あのね。怖い夢が――終わる前さ」
「本当にどうにもならない悪夢の中、最後に西洋の天使様と、日本の神様の使い……巫女様が私を助けようとしてくれたんだ。でも、それでもどうにもなんなくてさ」
「……うん」
「――そして光が溢れて……最後の最後に白銀の鎧を身にまとって、白銀の剣を持ったお兄ちゃんが現れて助けてくれたんだ。まるでゲームの勇者様……笑っちゃうよね?」
俺は笑いながら優しく真理亜の頭を撫でてやる。
「ああ、そうだな」
「ねえ、お兄ちゃん?」
「何だ?」
「少し前、漫画ばっかり描いてて……キモいって、いじめられた私をよく助けてくれたよね」
「……そんなこともあったっけかな」
そこで真理亜はクスリと笑った。
「お兄ちゃん自体が同級生にいじめられたのにね。本当に笑っちゃうよね」
「つっても、まあ、さすがに下級生の女子相手には負けねえだろう」
言っても、さすがに下級生女子を殴ったりはしていない。口で負かせただけだが。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「12歳にもなるっていうのに怖い夢を見て、お兄ちゃんに一緒に寝てもらって……」
まあ、12歳じゃなくて13歳なんだけどな……と、俺は苦笑した。
「んでもって、夢の最後でもお兄ちゃんに助けてもらって。きっとさ、心の深層意識のどこかでさ――あの時から、私はお兄ちゃんのことを頼りにしちゃってるんだね」
「なあ、真理亜?」
「何?」
「頼りにしても、良いんだぞ?」
「……え?」
「俺はお前の兄ちゃんだからな。お前が大人になっても、おばさんになっても、おばあちゃんになっても、俺はお前が死ぬまでずっとお前の兄ちゃんだ。だから、死ぬまで俺を頼りにして良い。だって俺はお前の兄ちゃんなんだからな」
「うん……そだね」
しばし何かを考えて、再度……真理亜の震えがこちらまで伝わってきた。
「ねえ、お兄ちゃん? 夢……本当に怖かったんだ」
「……そっか」
「はは、変だよね? 震えがまだとまんないよ。変だよね?」
「……変じゃねえよ」
気づいてあげられなくてごめんな。
こんなに怯えて震えてしまうまで……助けてあげられなくて、本当の本当にごめんな。
「ごめんな、真理亜」
「何でお兄ちゃんが謝るワケ?」
「――ごめん。真理亜。本当に――ごめん」
「……」
「……」
しばらくの無言の後、真理亜は再度……震えを強くし始めた。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「何だ?」
「はは、本当に怖い夢。まだ――震えが止まんない。駄目、私……怖い。こんままじゃ寝られない」
「……」
「ねえ、お兄ちゃん?」
「何だ?」
「ギュっと……して?」
小動物のように小刻みに体を震わせて、涙を流しながら真理亜は俺にそう言った。
「今日だけだぞ」
強く、強く真理亜を抱きすくめてやる。
「もっと……強く……ギュっとして」
すると、少しずつ真理亜の震えが止まって――。
「不思議だね。お兄ちゃんにこうしてもらえると……安心できるんだ。ねえ、お兄ちゃん?」
「なんだ?」
「私ね……」
「ん?」
「お兄ちゃんが私のお兄ちゃんじゃなかったら、きっと――好きになってかもしんない」
「馬鹿言ってんじゃねえ。寝るぞ」
「はは。そだね。でも、このまま……私が眠りにつくまで、ずっと――そのままで」
そうして、真理亜が寝息を立てるまで、俺はずっと真理亜を強く抱きすくめていた。
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