第119話お兄ちゃん その6
サイド:森下大樹
「これで完全決着だ。すぐに多量失血でこいつは死ぬ」
「ったく、ダイキは甘いよね?」
アナスタシアが小杖を掲げながらウインクと共にそういった。
「甘い?」
そうして、アナスタシアの杖から緑の――回復魔法を意味する光の粒子が蘆屋道満に向けて流れていく。
「おい、アナスタシア?」
「私たちに正面切って喧嘩売ったんでしょう? だったら、こいつには地獄がお似合いでしょうに?」
「……どういうことだ?」
「姫様? 完全蘇生は?」
そこで姫さんは首を左右に振った。
「できそうなのは……数人です。死亡から24時間を経過してしまえば、最早助けることはかないません。それが完全蘇生の縛りですから」
「だよね。まあ、助けることのできる人間だけは……助けてあげて」
「……はい。ただし――その場合は私のMPは枯渇します。そうなると、私は今後の対処はできません。戦力外になりますが?」
「構わないわ。これから先、私たちが窮地に陥ることはありえないから」
「……了承しました」
そうして、数人の魔法少女のムクロに向けて、緑色と銀色の粒子の混じった魔法が飛んでいく。
「――蘇生……魔法……? 完全回復魔法の更に上位……? 何なのだ、お前らは一体……何なのだっ!?」
蘆屋道満は大きく目を見開き、ダルマの状態でその場をのたうち回った。
「ダイキ、今の蘇生魔法で生き返った分を含めて、生存者は全員回収して」
俺は言われるとおりに何人かの魔法少女を抱えていく。
「で、それで……どうすんだよ?」
アナスタシアは不敵に笑い、周囲にMPを変換させたドス黒いオーラをまとった。
「屍霊術(ネクロマンサー)」
おいおい、禁術じゃねーか!
「そして――浄化術式:大天使の祝福。防御術式――龍式結界。範囲回復術式……ハイヒール」
なるほどな、と俺は大きく頷いた。
見る間に、300体の魔法少女たちが次々に立ち上がり、見境無しにその場の生者全員に向かって駆け出してきた。
まず、アナスタシアの回復術によって、蘆屋道満は手足の失血が止められた。
そうして、次に蘆屋道満には10時間程度継続する、そこそこ上等な防御結界がかけられた訳だ。
「それじゃあ、これでお暇しましょう」
レーラと真理亜、そして阿倍野先輩も、復活した完全アンデッド状態の魔法少女に襲われる前にこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっとアナスタシアさん? どういうことなの?」
レーラの言葉に、アナスタシアは意地悪く笑った。
「ネクロマンサーの術式でこの場で息絶える全ての少女を復活させたわ。そして、さっき発動させた大天使の祝福で、10時間程度で彼女たちは浄化されて、その後は可能な限りに幸福な状況で輪廻の道を辿るでしょう。そして、浄化までの間は、システムがつぶされた現況、マリオネットの糸が切れた状態になるわ。ただ――恨みだけを生者にぶつけるのよ」
「つまり?」
「出血は止めたし、すぐには死なないように防御術式も張ったわ。まあ、システムを作り出した全ての元凶には嬲り殺しにあってもらうということ」
「――なるほど」
おびえた表情で、迫りくる300近い魔法少女のゾンビ達を視認しながら、四肢を失って地面に転がりダルマの状態で、懇願するように蘆屋道満は言った。
「おい、お前ら? このまま……ワシをこの場に?」
狂喜に満ちた魔法少女たちは、手に獲物を持ち、こちらに向けて駆け出してきている最中だ。
俺は蘆屋道満の問いには答えず、右手を掲げて次元の狭間を渡る扉を作成した。
「それじゃあ、帰ろうか」
「そ、そ、そんな……そんな……そんなああっ! 待ってっ! 待ってっ! 待ってくださいいいいいいっ!お、お、お願いっ! お願いですからああああっ!」
「それじゃあな」
そうして――死人と化した魔法少女の群れに飲まれる蘆屋道満の悲鳴を背景に、俺たちは現実世界への帰還を果たしたのだった。
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