第118話お兄ちゃん その5
サイド:阿倍野輝夜
「で、森下君?」
「何でしょうか先輩?」
「いろいろ話はあるけど、まず……貴方、どうやって沖縄から帰ってきたのよ? 台風で飛行機全便欠航だったんでしょ?」
「え?」
森下君は少しだけ考えて、そして軽く頷いた。
「泳いで鹿児島まで18時間かかりましたよ。おかげでスマホも壊れちゃったし……で、まあ、鹿児島について、そっから先は新横浜まで新幹線ですよ」
呆れた……と私は笑った。
「ははっ! ははははっ!」
この人、700キロ近く……台風の中を一晩と少しで泳いだの来たの?
いや、まあ――できちゃうんでしょうね。人類最強だったらそのくらい。
「で、どうするの?」
「どうするっていうと?」
「妹ちゃんを人質に取られちゃってるわよ? で、アレの言葉は嘘か本当かもすら分からない」
「ええ、そうですね。甘い言葉も混ざっての恫喝ですが、ここで了承するとロクなことにはならんでしょう」
「少なくとも、妹ちゃんを人質に取られ続けて延々と良い様に使われるのは確定しているわね」
「そして、先輩たちもすぐに追加で人質に取られるでしょうね」
「陰陽道の基本は搦め手……だからね。そして貴方は脳筋側よ」
「脳筋って、ちょっと俺を馬鹿にしすぎじゃないですか?」
「あら、事実じゃない?」
「一応、戦闘についてはエキスパートですよ? 先輩の喧嘩のセンスは認めますが、死線を潜ってきた数は違います」
「と、いうと?」
「こうなることは想定済みです」
荒波を泳いでいる最中、スキルで頭良くなる系を駆使して考え抜いたのは内緒だけどな。
ぶっちゃけ、地頭でこの女に勝てる気はなしない。
「と、いうと?」
「俺は最初からアレの言葉は俺は信用していませんよ。そして、先輩の言うとおりに俺は基本は脳筋寄りのステータスとスキルですから、真理亜を蝕む呪術システムにも介入できません」
「だったらどうするのよ?」
「だから、こちらはこちらで用意しました。新幹線の中であちらと連絡はつけたんですよ」
「用意って……?」
「俺にはシステムはどうにもできない。だったら――どうにかできる人間を連れてくれば良いだけです」
周囲に紫電が走り、地面も激震に覆われる。
サイド:森下大樹
「――これって次元の……歪(ひずみ)? 貴方……ひょっとして……? 呼んだの?」
おいおい、これだけで気づくのか。本当にこいつ……頭良いな。
ってか、この人、前世は孔明とか竹中半兵衛じゃねえのか?
脳に作用するスキル無しだろ?
まあ、抜けてるところがあるのは可愛らしいけどさ。
そんなことを思いながら、俺は大きく頷いた。
――そうして一面が白色の光に包まれる。
まず、現れたのは蒼と白を基調とした清廉なる金髪の爆乳のシスター。
「お久しぶりですダイキさん」
続いて、赤髪のとんがり帽子に小杖を携えた、貧乳の魔術師がその場に現れる。
「――久しぶりダイキ。まさか、帰った先でもドンパチしてるなんて思わなかったけど……まったく、アンタ、本当に忙しい男よね」
「協力要請への快諾――感謝するぜ」
「ただし、ダイキさん?」
「何だ?」
「今回限りですよ? 次元の転移術は……過去の歴史からあまりにも危険に過ぎます。そして、これで、私と彼女は重犯罪者になるのですよ?」
「相変わらず真面目だな。つっても、バレなきゃ良い話だろうに。それに、一応はここはあちらと向こうの中間だ。厳密に言えば中間ポイントへの経由だからそこまでの問題でもねーだろう」
「まあ、それはそうなんだけどねダイキ。はぁ――アンタ……手段選ばないのは変わんないね。でも……つっても、まあ――アンタの頼みなら断ることはできるわけもないけど。でも、この人は真面目だから……下手すれば馬鹿正直に世界連合に報告しちゃう。あっちはあっちで……世捨て人的な私はどうでも良いとして、まあ、私が上手く向こうでは隠蔽工作とかやっとくから……」
と、そこで阿倍野先輩は堰を切ったように笑い始めた。
「ははっ……はははっ! ははははははっ!」
笑い続ける先輩。
そして遠くにいるレーラは……涙を流して天を見上げて十字を切っている。
まあ、あいつはこの二人を知ってるからな。
そして真理亜は二人の霊圧を感じて、腰を抜かしてその場でアワを吹いていた。
「めっちゃ笑ってますが、どうしたんですか阿倍野先輩?」
「貴方……どんな隠し玉持ってるのよ。貴方……このままの勢いで……その気になれば武力で世界も獲れるわよ」
「かもしれませんね。まあ、そんなことはしませんが」
そうして俺は二人に視線を向けて頭を下げた。
「久しぶりだな姫さん。そして大魔術師――アナスタシア。俺のために危ない橋を渡ってくれて―ーありがとう」
はにかみながら、金髪の爆乳が笑った。
「まあ、そういうことで……久しぶりのパーティー再結成ですね」
「ああ、そういうことになるな」
そこで、阿倍野先輩は蘆屋道満に向けてファックサインを向けた。
「――異世界も含めて最強の戦力が集結したわ。もう、過剰戦力すぎて笑うしかないけど――槍でも鉄砲でも核兵器でも何でも持ってきなさいっ!」
サイド:阿倍野輝夜
「ったく、ダイキも隅に置けないわよね?」
「ん? どういうことだアナスタシア?」
「――こっちでも綺麗どころに囲まれてるじゃんって言ってんのよっ!」
ゴツンと森下君にゲンコツが叩き落された。
「いや、でも、この人性格最悪だぜっ!?」
性格最悪っ!? これは聞き捨てならないわねっ!
「問答無用っ!」
再度、ゴツンと森下君にゲンコツが叩き落された。
「痛ってええええっ! だから、俺を殴るときに魔力撃のスキルを拳に乗せるなって言ってんだろっ!?」
「痛くしないと意味ないじゃんっ!?」
と、そこで私は戦慄と共にその場で崩れ落ちた。
今のゲンコツ……私だったら2ミリ以内の無数の肉片となって爆裂四散しているわよ。
これが……異世界最強の領域か。
そうして、大魔術師アナスタシアは妹ちゃんに視線を送る。
「んでもって妹ちゃんも美形……と。でも、それにしても似てないわね?」
「俺が不細工だって言いたいのか?」
「不細工とは思わないよ? まあ、男前じゃあないけどね」
「やかましいわっ!」
そして――アナスタシアはレーラ=サカグチを視認して軽く涙目を作った。
「……あれって……背は伸びてるけど……アリエルなの?」
森下君は感慨深げに頷いた。
「色々あってな。あいつはこっちの世界で幸せに生きてるよ」
「そっか。うん……そっか」
姫さんと呼ばれた爆乳も、涙を流しながらニッコリと頷いた。
「……良かったです。うん。本当に……」
二人はレーラ=サカグチの所まで走って行って、そして3人で涙混じりに抱き合った。
ってか、レーラ=サカグチのあんなに嬉しそうな顔を見たのは初めてで――
――何ていうか。物凄い疎外感を感じるわね。まあ、仕方ないんだろうけど……事情は私も知ってるし。でも、レーラ=サカグチが私と一緒にいるときには絶対に見せない笑顔……良い気はしない。
そうして、ひとしきりに二人はレーラ=サカグチの頭を撫で回した後に、こちらに走って戻ってきた。
「で、ダイキ? 妹ちゃんの解呪――そろそろやっちゃって良いの?」
「ああ、構わんぞ」
「了解――スキル:魔術分析」
軽く瞳を閉じて、アナスタシアはコクリと頷いた。
「なるほど。これは脳筋のアンタじゃ解呪不能だろうね。術式自体は稚拙も良い所だけど、半端じゃない嫉妬の念と怨念が込められている。ああ、本当に嫉妬って面倒よね。しかも男の嫉妬でしょ? ったく……その上でネチネチと数十年単位かけてシステム構築したんだろうね。こんがらがりすぎて……非常に面倒よ」
「で、お前ならどうなんだ?」
そこでとんがり帽子のアナスタシアはクスリと笑って貧乳を携えた胸を張った。
「私を誰だと思ってんの? 世界最強のアンタのパーティーの魔術担当の虎の子。湖を蒸発させ、大海原を氷結させる――魔界の禁術使いマーリンの秘蔵っ娘……大魔術師アナスタシア様よ?」
そうして、アナスタシアはパチンと親指と中指を鳴らした。
サイド:蘆屋道満
親指と中指をパチン。
――ただ、それだけで、猛烈な勢いで、ワシが数十年かけて、そして1000年以上もかけて強化し続けた絶対システムが……崩壊していく。
「……ハァ?」
力ではワシはあの男には絶対に適わん。だが、ワシはこのシステムに絶対の自信を持っていた。
だが、それが――指パッチンで終了?
そこで一面に紫電が走っていく。これは、異界化の術式の崩壊を意味する。
つまりは、この空間自体が、システムの崩壊の余波を受けて――消失を始めたということだ。
だが……と、ワシは笑う。
「ハハっ! ハハハっ! システムの崩壊と貴様の妹のチャクラとは無関係! 確かにワシはこれ以上、貴様の妹のチャクラを蝕むことはできん! だが――既に貴様の妹のチャクラはフルバーストにより枯渇しているっ! いかにシステムを破壊しようが――後の祭りだっ! 老婆化は避けられんっ!」
「ダイキさん? 私も……そろそろ良いでしょうか?」
「頼んだ。姫さん」
「生命エネルギーの完全回復術式を行使します。パーフェクト・ヒール」
淡く優しい緑色の光が一面を包んだ。
そして、緑の光輝く粒子が……魔法少女の周囲を包み――。
「え?」
チャクラだけでなく、彼女が負っていた傷の全てまでもが治癒していく。
――これは伝承上の……?
ワシを陥れた安部清明の所属していた、アマテラスという組織の名前の語源であるところの――天照大御神(アマテラスオオミカミ)。
――これは――その神が行使したという、瀕死の者でも瞬く間に回復してしまうという……完全回復の術式?
「あ……あ……ありえぬ。これは……ヒト種の限界を遥かに超越した――大神(オオカミ)の所業……人の扱える……業では……な……い……ぞ?」
「まあ、過去のプリーストの歴史でも、この術を使用できるのは私も含めて……数人ですから」
そこで、ワシは完全に理解した。
今、ワシが何を相手に戦っているのか。何を相手に対峙をしてしまったのか。
――そして、ワシは何の怒りを、どのような存在の怒りを買ってしまったのか。その事実を理解した。
そもそも、これは戦いの体を為してはおらんかったのだ。
ミジンコやダニの類が、完全武装の戦車相手にどのように立ち向かえば良いと言うのだろう。
そして、戦いをダニが決意したとして、相手は――それを戦いとして認識とすら……果たしてしてくれるのだろうか。
「ハハっ! ハハハっ! ハハハハハアハハハハハハアハハハハハハっ! アハっ! ハハハハハっ!」
「だから、笑い声が不快って言ってんだろ?」
刹那、あるいは瞬きの間。
金属バットが、最強と呼ばれる聖遺物へと変異を遂げる。
――聖剣エクスカリバー。
人類では不可能と呼ばれている、聖遺物の本来のポテンシャルを十分以上に引き出した攻撃がワシの四肢を襲う。
「達磨(ダルマ)……か」
四肢を切り落とされたワシは、その場に転がりながら――そう言ったのだった。
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