第113話VS 卑弥呼 そして――。 その3

 サイド:レーラ=サカグチ


 地面に転がり、腕を押さえながらのたうち回る卑弥呼。

 その光景を見ながら、ヒュウと阿倍野輝夜が口笛を吹いた。


「極まったわ――美事な脇固めよ」


「いや……極めたどころか……折ったんじゃん?」


「体術だけではなく、魔力操作まで流れるような動きね。これは一朝一夕でできることではないわ。繰り返したのでしょうね。気の遠くなる時間――鍛錬に」


「……うん。多分……あの子は必死だったんだと思う」


「生き残るためにね。しかし、対人戦で関節がこんなに有効だったとは……さすがの私もビックリよ」


「正直、この戦い方が対人の異能力者戦で有効に働く手法、いや理論だったという結果……そのこと自体はマグレだったんだろうね」


 コクリと阿倍野輝夜は頷いた。 


「でも……それでも生半可な気持ちと技術じゃこの理論を……マグレとは言え体現できないでしょう。それこそ、彼女たちは必死に考えて、生き残る方法を模索したのよ。賞賛に値するわ」


 私もまた、コクリと頷いた。

 そして阿倍野輝夜が、折られていない方――左手で札をダース単位で取り出した。


「ええ、だからこそ、彼女たちの思いと……今、訪れたこの千載一遇の好機を無駄にはできないわっ!」


「分かってるわよっ! 阿倍野輝夜っ!」


 私は立ち上がり、白翼を大きく広げた。

 そうして、後の攻撃の為の加速度を得るために、大きく上方に羽ばたいた。


「レーラ=サカグチっ! 必ず、ここで決めなさいっ!」


「委細承知っ!」


 そうして、阿倍野輝夜はありったけの札を宙にバラまいた。


「阿倍野流符術――大爆符――格熱……メギドっ!」


 メギドの炎の灯った札はその場では爆発せずに、私の槍の周囲を旋回し始めた。

 そして、天に飛んだ私もまた、重力加速度を乗せて――ロンギヌスを片手に地に向けて、ありったけの力を共に羽ばたいた。


「第三階位:座天使(オファニム)っ! 信じてるわよっ! 聖遺物としての根性見せなさいっ! 私の相棒――ロンギヌスっ!」


 ロンギヌスの周囲を旋回していた札が、槍の穂先にまとわりついていく。

 これで、阿倍野輝夜の符術が――格熱の力がロンギヌスに宿ったことになる。

 聖遺物と、そして超小型とはいえ、それでも、腐ってもソドムとゴモラの……伝承上の終焉の火の力だ。

 ロンギヌスから伝わる力を受けて、私は大きく頷いた。


 ――いける。


 これなら――例え、神が相手でもっ!


 狙う先は、腕を破壊されて地面をのたうち回る卑弥呼の頭部だ。


「「「いっけえええええええええええええええええっ!」」」


 三人の叫びが重なり、木霊となって空間に響き渡る。

 そして、地面に到着と同時に上半身のバネを全力で使い、槍を卑弥呼に向けて繰り出した。

 



「「核熱一閃(ホーリー・ニュークリア)っ!」」




 終焉の火にふさわしい大爆発と共に私と――阿倍野輝夜と森下妹はその場から勢い良く吹き飛ばされた。


 ロンギヌスが皮膚と肉を切り裂き、頭蓋骨に進入したところでの限定的核攻撃だ。


 これで無理なら、もうどうしようもない。


 そうして、爆発が晴れて――




 ――卑弥呼の姿が跡形もなく消失していたところで、私たちは安堵のため息をついた。



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