第112話VS 卑弥呼 そして――。 その2

 そこでクスリと卑弥呼は笑った。


「本物の阿呆のようじゃ。ならば――お望みどおりに叩き潰してやろうか」


 言葉と同時に卑弥呼の体が輝き始める。

 そうして――私と阿倍輝夜がついさっき食らった技が妹ちゃんにも襲い掛かった。



 サイド:森下真理亜


 開幕当初の全方位攻撃呪術魔法(ぶっ放し)。

 あるいは、防御を捨てていないバーストセカンド状態であれば、この攻撃は耐え切れたかもしれない。

 だが、結果として私の防御術式の全てを突破された。

 そうして、私は戦闘継続不能となって地面に膝をついたのだ。


「くふふ」


 卑弥呼の右手が私の襟首。

 そして空いた左手が私の左手に伸びてくる。


「先刻も言った通り、わらわは好きじゃ。このなぶり方が好きじゃ」


 それは知っている。


 ――だから、こうなると思って私は攻撃をワザと受けたのだから。


「ふははっ! 魔術師(シャーマン)に撲殺される気分はどのようなものじゃ?」


 そう、こいつは襟首を掴むはずと私は踏んだ。


 例え、フルバーストと言えども、まともに戦っても勝機はない。

 

 ――正直、賭けだったが……でも、賭けには勝った。


 半笑いになって、私は卑弥呼の顔面に唾を吐きかける。


「ふふっ。最後の抵抗か?」


 私の唾を避けて、卑弥呼は嬉しそうに笑った。


 そこで私は勝ち誇った笑みを浮かべた。


「分かっちゃいない……あんたさ? ド素人以外の何者でもなくない?」


「ふむ? ド素人とな?」


 不思議そうに卑弥呼は小首を傾げる。


「――武術家の襟首を掴むっていう意味が、アンタは全く分かっちゃいない――そう言ったんだよ」


 今から私がやることは――。

 そう、マキ姉から一番最初に叩き込まれた技だ。



 ――ねえ、真理亜ちゃん? 襟首を持たれたら……両手で相手の片手を掴むのよ。


 ――そして、体全体を回転させて、全体重をかけて、回転方向に相手の手首を捻る


 ――すると、捻った相手の手の肘辺りが、こちらの脇と脇腹に接着するわ。いえ、そうなるように――こちらで両手と脇腹で抱え込むことを意識して。そうすると、同時に相手の手首と肘の関節は固められる。まるで相手の腕を脇で抱え込むような姿からこの技は――


 ――脇固めと呼ばれるの。基本にしてシンプル。そしてシンプルが故に最強の――この世界に現存する対人格闘術の中で、最もポピュラーな立ち関節よっ!


「関節……?」


 キョトンとした表情を卑弥呼が浮かべる。


「みんなの思い、みんなの無念を――私が……真紀姉の技で晴らすっ!」


 一般的に、魔術障壁は主に体の表面にしか働かない。

 故に……体内で作用する関節技はほとんど全ての場合において、対峙する者にとって盲点となる。

 でも、だからこそ、圧倒的格上に対してでも、勝機がある。


 ――ねえ、真理亜ちゃん? 関節技は魔術的に言うと完全に異次元からの刃。初見で対処は不可能よ。だから、私たちは対人戦において……そこを突く。


 うん、マキ姉。私ならできる。だって、ちゃんと教えてもらったから……何千回も何万回もこの動作を練習したから。だから、今の私は相手の両手を握ってからコンマ1秒以下で相手の関節を極められるよ。


「攻性術式展開っ! 狙う先は手首と肘関節っ!」


「なっ!?」



 ――ねえ、真理亜ちゃん? 手首と肘の関節は完璧に極まったわ。なら――後は、やることは分かるわよね? 戦場にためらいは必要ないわ。



「うん、わかってるよ真紀姉っ! 後は、私の全体重と全魔力をこいつの手首と肘を支点として……全力で地面に向けてベクトルを叩き落すだけっ! これぞ必殺――脇固め……いや――」


 手首と肘をへし折るために、私は全身全力で、力任せに卑弥呼の手首に体重を落とす。


 と、同時――ミシリと卑弥呼の手首がきしみを上げる。


「ぐ……ぬっ!? ぐっ!!!!? ぐぬううううううううううっ!??? 神域の戦いで……この際(きわ)に及んで……関節技……じゃとっ!? ありえん、ありえ………ありえんじゃろおおおおおおおっ!?」」


「これが人から迫害された私たちが――運命に抗う牙として生み出した魔法少女式格闘術! その基礎にして基本中の基本、いくよっ! 今……必殺のおおおおおおおおお――」


 そうして、私は鬼神の如くに咆哮した。




「マ ジ カ ル ☆ 脇 固 め !!!」




「ぐっ……ぎゃあああああああああああああああああっ!」


 ポキリと枯れ木のような音と共に卑弥呼の右手首が折れ、続けざまに肘関節が破壊された。




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