第109話VS魔法少女300体 その4

 サイド:レーラ=サカグチ



「さて……」


 私と阿倍野輝夜はこの空間の中心部に所在する肉の塊に視線を向ける。


「後は残り40と少しの雑魚を殲滅して、システムの核を潰せばそこで終了」


「ええ、そういうことね」


 残る魔法少女はシステムの核である肉塊の周囲に散開していて、怯えの表情で私たちに視線を送っている。

 と、そこで楽勝モードに浮かれている私の全身の肌が粟立った。


「ハハっ……愉快愉快、至極愉快也」


 ブチュリ……と、肉塊の表面に亀裂が走る。

 そして、ドチュリと大量の半透明の粘液と共に、肉の塊の中から阿倍野輝夜と似たような衣装――巫女のような服の女が現れた。


「小さきモノ共よ、よくぞここまでわらわを笑わせてくれたものよのう」


 白髪の……見た目は20代半ば程度だろうか、そして、うっとおしいことに爆乳だ。

 腰までの長髪の女は粘液をぬぐいながら言葉を続けた。


「そうそうには補充の利かぬわらわの近衛……魔法少女の対価。よくもまあ好きにやってくれたものじゃ。これは高くつくぞ?」


 阿倍野輝夜に視線を送る。

 視線を受け、彼女は軽く笑って肩をすくめた。


「ねえ、阿倍野輝夜? これって……投了の局面っぽくないかしら?」


「言われなくても分かっているわ」


 何なのよこの霊圧は。

 クローンだって聞いてたのに……軽く九尾くらいはあるじゃない。


「で……アイツは?」


「残念ながら、沖縄で足止め中よ」


 九尾……邪神クラスの相手……。

 コレを私たち二人だけで何とかしろと?

 ったく、本当に中々の無茶振りよね……。

 はァ……と私はため息をついた。


「ねえ、阿倍野輝夜?」


「何かしら?」


「まともに戦っても無理よね?」


「ええ、そうね」


「でも、アンタなら……策はあるよね?」


 そこで阿倍野輝夜は軽く頷いた。


「相手は九尾と同格と考えていいわ」


「あの時は手も足も出なかったじゃん」


「でも、あの時と今は状況が違うわ」


「……そうね」


「私はあの時よりも遥かに強くなっているし、貴方も今はヴァチカンを全く気にせずに第三階位:座天使(オファニム)を解禁している。あの時は貴方は手傷を負っていたし、そもそも全力の解禁前に戦闘不能に陥った」


「で、どうするの?」


「こちらの攻撃は……最大火力なら通用しないこともない。そして、攻撃が通用するなら……生物である以上は必ず殺せるってことよ」


「……信じるわよ? アンタの喧嘩のセンス」


「任せなさい。って言ってもリンフォード戦よろしく、いや、あの時よりも結構な薄氷のバトンリレーになるだろうけれど」


 良し、と私は頷いた。

 コイツが勝機はあるというのであれば、本当に勝機はある。

 後は、私とコイツの命を……死線という状況に全力でベットするだけだ。

 と、そこで再度私の全身に鳥肌が立った。

 私はすがるような表情で阿倍野輝夜に視線を向ける。

 彼女は諦観の表情でゆっくりと首を左右に振った。


「グ……ガ……」


「ガアアアアアアアっ!」


 卑弥呼を取り巻く、全ての魔法少女達が漆黒の閃光と共に、ゴテゴテとした衣装に変異を遂げていく。


「くははっ! 驚いたか? さすがにシステムの使用可能なチャクラが尽きてしまうからの……全員をこの状態にする訳にもいかん」


 忌々し気に阿倍野輝夜は吐き捨てるようにひとりごちる。


「数が減れば……バーストセカンドが発動するということなのね」


「…………ここから先が本番ってワケね。で、どうなのよ阿倍野輝夜?」


 返事はさっきの左右の首振りで分かってるけど……。

 50体近い魔法少女が全員バーストセカンド状態……。

 一体一体が第4階位:主天使(ドミニオンズ)状態の私――ロンギヌス使用程度の力量はあるわ。

 まともに戦って対処できるにしても、せいぜいが5~6体程度。

 これはつまり――


「――ええ、流石の私でもお手上げよ。レーラ=サカグチ」


 阿倍野輝夜と私は同時に次元の穴――入ってきた入り口に視線を向ける。

 そして、私と阿倍野輝夜は同時に乾いた笑い声を発した。


「閉じちゃってるわよね」


「――ええ、退路は無いわ」


 私と阿倍野輝夜は槍と刀を同時に構える。


「実際問題……ちょっちこれは……ヤバいかな?」


 私の言葉を、阿倍野輝夜が補足するように続けた。


「卑弥呼だけで運ゲー状態なのにこの状況なのよ? これはヤバいどころか――無理ゲーよ」


「ともかく……」と、阿倍野輝夜は言葉を続けた。


「私たちの消耗が無い状態で、50近い魔法少女の防衛ラインを突破して卑弥呼の眼前に立つことができれば勝機はあるわ。あなたのロンギヌスであれば……アレ相手でも攻撃は通る」


「でも……」


「辿り着けないでしょうね。仮に辿り着けたとしても満身創痍。だから――無理ゲー」


 でも……と、私は気合の咆哮をあげた。


「できるできないじゃないのよ――やるしかないでしょうにっ!」


 そこで阿倍野輝夜はクスリと笑った。


「貴方のそういうところ……嫌いじゃないわ」







 サイド:森下真理亜


 物凄い勢いで二人が卑弥呼に向けて駆け出して行ったのが分かる。

 直後に、符術による爆発の音が一面に――地響きと共に連打で鳴り響く。


「バーストセカンドの魔法少女が50近くもいる。できるわけないじゃん……勝てる理由……なくない?」


 あの二人は強い。

 バーストセカンド状態の私よりもいくらも強い。

 それは分かる。

 でも、さすがに……あの数のバーストセカンドの魔法少女の群れ……そして卑弥呼クローンをどうにかできるとは思えない。

 仮に私が助太刀に入ったとして、せいぜいが魔法少女換算で2~3人程度の助太刀にしかならないだろう。


 ――もう、局面は完全に投了。


 と、そこで一体の魔法少女が声をかけてきた。


「真理亜……ちゃん?」 


 かつての……瑞々しい肌を伴った紫の衣装に身を包む魔法少女。

 さっきと違ってその瞳にはしっかりとした、凛とした意思の力を伴っている。

 そう、この人は――。



「マキ……姉?」


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