第96話忍ぶ者 その3

「でも、蘆屋道満は何のために魔法少女を作り出したの? そんな物騒な連中を量産したって……ただ、世間を騒がせるだけでメリットはないんじゃないの?」


「私もそれは気になっていた。でも、ちゃんとした理由はあったのよ。やっぱり推論にすぎないのだけれど、それはつまり――」





 同日、同時刻




 サイド:森下大樹




「あああーー! もう、本当に――ワケわかんねえっ!」


 俺の言葉で服部雅は小太刀を構え、俺もまた徒手空拳で構えた。


「とりあえず、やる気なんだったらかかってこいっ!」


 目前の忍者に向けて、俺はそう言い放った。

 ってか、そろそろエクスカリバーも普通に常に持っておかなくちゃならんかもしれん。

 と、そこで服部雅は首を左右に振った。


「あちきは……この場では、お前とはやる気はねえよ」


「ハア?」


「何の忍術を展開させているかも分からないような奴と、丸腰同然で立ち会えるかって言ってんの」


「いや、立ち会えって言ったのお前だろ?」


「おい、お前さ? フーリンカザンって言葉を知っているか?」


「風林火山?」


「ああ、要は地の利を利用して戦えって言うニンジャの基本的な戦術だ。あちきはあちきが最大限のパフォーマンスを発揮できる場所でお前を叩きのめすって、そう言ってんだっ!」


 風林火山ってそういう意味だっけ?

 頭の中がクエスチョンで満たされるが、そこで服部雅は言葉を続けた。


「決戦の日時は後で連絡するから……絶対に来てくれよなっ!」


「そもそも、お前は地の利を利用する気マンマンで仕切りなおし的な感じなんだよな?」


「ああ、めっちゃそうだぜ!」


「お前さ……それを俺が了解するとでも思ってんのか?」


 こっちとしても忍者の実力は良く分からん。

 わざわざ不利な場所で戦うなんてナンセンスすぎんだろうが。


「いや、絶対にお前はめっちゃ了解するぜ?」


「……?」


「お前は強いだろうな。それに、お前自身は奇襲にもめっちゃ対応できるとも思うぜ? でも、家族や友人はどうだろうな……?」


「おい、お前……?」


「あちき達は――そういう戦い方をする。だから、ニンジャなんだ」


 そこで俺の胸にドス黒い感情が芽生えた。


「やってみろよ? 俺の大切な人間に傷のひとつでもつけてみろ」


 憤怒の表情を作っているのは自分でも分かる。

 感情を見せることは戦闘の場所では良くないのは分かっているが、どうにもこれは止められそうにない。


「――テメラ全員、草の根分けても探し出し、地獄の果てまで追いかけて八つ裂きにしてやる」


「任務の為に常に冷静であることを求められるニンジャに……あちきに恫喝の気は通用しないよ」


 真っ直ぐな視線と共に俺に言葉を返してきた。

 で……瞳を見て分かった。

 こいつは……覚悟を決めてこの場に臨んでいる。

 いや、見た目が幼女ってので騙されていた部分もあるが、相当な修羅場を潜っている戦士の目だ。


「……要求は呑んでやっても良い。ただし、約束しろ。俺の周囲の人間には手を出すな」


「ああ、あちきは嘘は滅多につかない。嘘をつくのはカナリシツレイだってじっちゃんも言ってたし、エド時代の剣豪のコジーロ・ササキもハイクでちゃんとそう言ってる」


 コジーロ・ササキ?

 っていうか……と、俺は思った。

 いや、ぶっちゃけた話、今の発言で確信できたんだが、実は俺は家族の心配は本気ではしてない。

 なんっつーか……ノリが軽いっちゅうか……こいつからはある種のオーラを感じるんだよな。



 それは俺が良く知っているノリのオーラで……。

 阿倍野先輩というか、レーラとか……そっち系の……服部雅風に言うのであれば、スゴイザンネンなオーラがプンプン漂ってくるんだ。

 多分、こいつは本当に嘘をつかないし、なんだかんだ言って俺の家族に手を出す的なことはよっぽどのことがないとしないだろう。


「ともかく、あちきはこれで退散するぜ!」


「おい、立ち会うにしてもどこで立ち会うんだよ?」


「後で矢文を送るから、絶対に来てくれよなっ!」


 服部雅は俺の言葉に取り合わずに後ろ手を振りながら去っていった。


 そしてしばしの時間が経過し、その場で立ちすくんだ俺はひとりごちた。


「っていうか、何だったんだあいつは……」


 と、そこでヒュっと何かが飛んできた。

 飛んできた矢を空中で掴んで、折りたたまれた手紙が巻きつけられていたそれを見て俺は絶句した。


「ってか、矢文早えなっ! ものすげえ早えなっ!」


「おい、森下? 矢文には何が書かれていたのだ?」


「えーっと……」


 手紙を開いて、俺は驚愕の表情を作った。


「2日後に沖縄……みたいです」


「沖縄……だと?」


「何でも、ニンジャの戦闘術の基本であるカラテの発祥地である沖縄の……っていうか、沖縄が聖地みたいで忍術を使いやすいみたいです」


「なるほど」


「いや、沖縄が忍者の聖地で納得しちゃうんですかっ!? 全然関係なさそうでしょうっ!?」


「いや、でも、ニンジャだからな。例え聖地が南極と言われても私は驚かん」


 こいつらの中ではニンジャってのは一体何なんだ。

 そこで俺はため息をついた。


「そして驚くことに……飛行機とホテルの宿泊券までついています。本当に信じられませんよ。」


 ってか、この数秒の短期間に用意したのかよ。

 やはり、あいつは間違いなく残念系の側の住人だなと俺はある種の確信を強めていく。


「どうやって用意したんですかね」


「……まあ、ニンジャだからな」


 妙に納得した風のセラフィーナ先生だったが、ニンジャだからの一言で済ますのも正直どうかと思う。


 ――航空機のチケットとホテルの宿泊券だぞ。


 そうして、俺はマジマジと便箋を眺める。

 愛らしいウサギのキャラクターが描かれた便箋と、異常な丸文字で書かれた文言を見て、俺は深い溜息をついた。


「そこは森下大樹様……あるいは森下大樹殿だろ……」


 矢文にはご丁寧にも、住所と氏名欄もあった。

 住所は今現在のここの住所が記載されていて、そして氏名欄にはこう書かれていたのだ。




 住所:横浜市中区〇〇町〇丁目2-8-7


 氏名:森下大樹 want you




「遠まわしな告白かっ! ってか、なんで英語で御中なんだよっ! あー! もう、完全に意味わからん!」




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