第95話魔法少女システム 中編

「スキルを使いやがっただとっ!?」「忍術を使いやがっただとっ!?」


 服部雅と名乗った美少女は絶句している。

 そして、俺もまた彼女と同様に絶句する。

 ってか、この子……さっきレベルアップって言ったよな? オマケに魔法少年は術ポイントが吸い上げられるとかも言ってた。


【スキル:堅牢が発動しました】


【スキル:大防御が発動しました】


【スキル:物理半減が発動しました】


【スキル:HP自動回復が発動しました】


【スキル:神龍の結界が発動しました】


【スキル:聖騎士の大盾が発動しました】


【スキル:金剛神力が発動しました】


【スキル:武神が発動しました】


【スキル:パーフェクトガードが発動しました】



 おいおい、防御スキルも勝手に作動かよ。

 セラフィーナ先生もニンジャはヤバいって言ってたし、これは結構ガチでヤバい相手なのかもしれん。

 ふーむ……と俺は考え込んだ。

 と、同時に服部雅も何やら考え込んでいる。


「おい、お前? あちきの知らない防御系忍術を発動させまくりやがったな?」


「いや、それはお互い様だろ?」


 俺と同時に、あちらも結構な数の防御スキルを周囲に展開させたのは分かっている。

 そんでもって、どうやら俺とはスキルの系統が違うらしく、何を発動させたまではこっちも分からない。


「で、お前は本当に何なんだよ?」


「へへ、魔法少年……いや、魔法少女はあくまでも経験値の肉袋だ。ステータスの上昇はするがスキルポイントは完全に吸い上げられる。なるほど――確かにお前は魔法少年なんかじゃねえな」


「だからさっきからそう言ってんだろうが」


「大当たりだ。どうにもお前は魔法少女システムの製作者だったらしい。あちきがわざわざ出てきた甲斐があるってもんだなっ!」


 と、そこで俺は頭を抱えて……天を見上げた。


「あああーー! もう、本当に――ワケわかんねえっ!」







 時系列は遡り、1日前――場所は病院。



 サイド:レーラ=サカグチ



「で、魔法少女システムってのは一体何なのよ?」


 老婆になった黒ギャルを眺めながら、私は阿倍野輝夜に尋ねた。


「前提として、かつて……始皇帝やキリストを初めとして、ありえない力を持った異能力者が発生したのよ」


「日本で言うと卑弥呼もそうだよね」


「何故に彼らが強大な力を持ちえたか……森下君やリンフォードを見て、そして私自身もレベルアップを重ねて推論を立てることができたのよ」


「だから、それを私はさっきから聞いてるんじゃん。異世界の魔物からは経験値を得ることはできるけど、地球の妖魔からは経験値を得ることはできないワケでしょ?」」


「ええ、でも……魔法少女はレベルアップをしているの。そして恐らくは……始皇帝を初めとする連中もね」


「地球で……レベルアップ?」


 ええ、と阿倍野輝夜は頷いた。


「恐らく、何らかの方法を使って、彼らは妖魔から経験値を抽出することに成功したのよ」


「そんなことって……」


「実は阿倍野家の過去の文献を紐解くと、それらしい記述もあるのよね。討滅するほどに強くなる一団の記載が……日本で言えばアマテラスと呼ばれる最上位の退魔集団」


「……」


「どうしたの?」


「日本派遣の時、アマテラスって言う存在を察知した瞬間に撤退しろっていう命令を受けたわ。その場合は埋葬師団に引き継ぐからって……」


「埋葬師団って言うと……ヴァチカンの秘密組織よね?」


「ええ、キリストがゴルゴダの丘で処刑されたちょっと後から、あの連中の系図は続いているって話ね。で……別名で連中は黄泉帰りって……言われてるわ」


 ここで、私の頭の中で色んなことが有機的に結びついてきた。

 そもそも、私は異世界からケルベロスの呪縛という術式でこちらに渡ってきた。

 魔術師のアナスタシアさんは、その時に確かに黄泉の河を渡って……みたいなことを言っていた。


 そして、ロンギヌスの槍に貫かれたキリストは……死亡後に復活したということになっている。

 更に言うと、私はヴァチカンから特別待遇を受けている。

 天使としての奇跡認定もひょっとすれば……ヴァチカンは私があっちで生まれたって事を全てを知っていて……。


「黄泉帰り……か。ねえ、阿倍野輝夜?」


「どうしたのかしら? レーラ=サカグチ?」


「私たちさ……森下大樹がいれば、MPの問題さえクリアーすれば、揉め事のドンパチ系は力で余裕で何とかなるって思ってるじゃん?」


「ええ、そうね」


「実は……私たちは……末端としての限られた情報しか知らなかっただけで、そんなに簡単な話でもないんじゃないかな?」


「……ええ、そうかもしれないわね。まあ、それはともかく」


「魔法少女の話ね?」


 コクリと阿倍野輝夜は頷いた。


「結論から言うと、あくまでも推論なのだけれど、魔法少女のシステムとは……経験値を取り出すために卑弥呼の体質を利用した陰陽の術式よ」


「体質?」


「卑弥呼は何らかの方法で妖魔の討伐から経験値を得ていた。そして、平安時代に卑弥呼の墓を暴いてその細胞を手に入れた者がいるのよ」


「墓を暴くって……」


「そうして、今回の件が阿倍野家の恥部というところにつながるのだけれど……ねえ? レーラ=サカグチ? 貴方はドーマンセーマンと言う言葉をご存知かしら?」


「アンタが使っている札に描かれている五芒星のことでしょ?」


「ええ、陰陽道の術式の全ての起点よ。セーマンは安倍晴明、ドーマンは蘆屋道満の名に由来しているわ」


「蘆屋道満っつったら、阿倍野清明のライバルよね?」


「そのとおりよ。そして、陰陽道と卑弥呼の躯を使って、最初の人修羅……魔法少女を産み出したのが……彼なの」


「えっ……?」


「当時の京都で人修羅が発生して、大問題になったわ。妖魔を狩るためなら集落一つを妖魔ごと焼き払うなんてザラだったから」


「魔女狩りが行われた理由と一緒ってワケね。まあ、そりゃあ……人に紛れた妖魔を狩るのに集落一つを殲滅したって良いって思っちゃうでしょうね」


 老婆と化した月宮雫を見て、私は溜息をついた。


「そして、原因である蘆屋道満は朝廷に目をつけられ、安倍晴明率いる陰陽師集団による制裁が行われたんだけど……」


「それで?」


「ウチのご先祖……追い詰めたところで取り逃がしちゃったのよね。異常に高度な術式だったみたいで、術式の変更……あるいは停止ができるのは術者だけで……そうしてシステムだけは生き続けた。1000年以上経過した現在も、場所を変えながら魔法少女は産まれ続けている。だから、これは阿倍野家の責任でもあるの。迷惑をかけ続けている以上、ケリは……私がつけなきゃいけないの」


「なるほど。大体の事情は分かったわ」


「でも、蘆屋道満は何のために魔法少女を作り出したの? そんな物騒な連中を量産したって……ただ、世間を騒がせるだけでメリットはないんじゃないの?」


「私もそれは気になっていた。でも、ちゃんとした理由はあったのよ。やっぱり推論にすぎないのだけれど、それはつまり――」

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