第94話忍ぶ者 その2
「はいなのですー殺人やきそばなのですー」
セラフィーナ先生は大きく頷いた。
「殺人焼きそば……なるほど、死ぬほど美味いということだな」
「ああ、本当に美味いぜ!」
俺も大きく頷き、セラフィーナ先生は満面の笑みを浮かべた。
「これは楽しみだ……」
そしてセラフィーナ先生は勢い良く焼きそばを頬張って――。
「ブボファっ!」
マーライオンの如くに焼きそばをそのままリバースしたのだった。
学校への道中。
セラフィーナ先生は青ざめた表情を作り、浮かない表情で歩いていた。
「どうしたんだよセラフィーナ先生?」
「……今後は……本気を出さないように伝えてくれれば助かる」
「え?」
「良いから森下母殿に伝えるのだ――」
真剣な眼差しに俺が気圧されたところで、セラフィーナ先生は言葉を続ける。
「本 気 は 出 す な と」
全く、意味の分からん事を言う人だな。
まあ、母ちゃんの本気は初めてだから口に合わなかったのかな?
確かに強烈なのは強烈だけど……クソ美味いのに。
「ところで、今日はレーラはどうしたんだ?」
「……朝帰りだ。今は仮眠を取っておられる。学校には昼過ぎからいらっしゃられるだろう」
「朝帰り?」
「ああ、姫には色々あるのだ」
まあ、ヴァチカンの関係で色々と忙しかったりするんだろうな。
「レーラのそれは仕事だろ? ウチの妹なんて夜な夜な遊び歩いてるてて……」
「そのことなんだがな森下。実は姫に口止めされていたのだが……」
と、そこで俺は絶句しながら手でセラフィーナ先生を左手で制した。
「あれは……何だ?」
「うむ? アレ……だと?」
頷く俺の、右手の指の先……道路のど真ん中では、黒装束の10歳程度の白髪の幼女が仁王立ちを決めていた。
「あ? あちきか? あちきは――ニンジャだ」
朝っぱらから道のど真ん中で忍装束の黒装束。
ぜんぜん忍んでないどころか……っていうか、目立ちすぎだろ。
「忍者……だと?」
「ああ、あちきが来たからにはここで全てを終わらせる。卑弥呼の眷属――いや、魔法少年っ!」
「卑弥呼? 魔法少年? 何を言ってやがんだ?」
「ここいらでの最強はどう見てもお前しかいねえだろうがよ? だったらテメエが卑弥呼の眷属ってことでめっちゃFAだっ! ってか、いつから少女だけじゃなくて少年もイケるようになったかはめっちゃわかんねーけどなっ!」
めっちゃ分からんと言われたが、どう考えても俺のほうが……サッパリ意味が分からん。
と、そこで俺の隣でセラフィーナ先生が血の気の引いた表情を作った。
「どうしたんだセラフィーナ先生っ!?」
セラフィーナ先生はその場に跪き、嗚咽のように声を絞りだした。
「あい……え……ぇ……」
「本当にどうしたんだ先生?」
「あい……え……え……アイエエ……何で……なんで……ナンデ……ニンジャ?」
ブルブルとセラフィーナ先生は肩を震わせる。
先生のあまりに狼狽ぶりに、俺は思わず驚いてしまった。
「どうしたんですか先生っ!?」
「――ともかく、ニンジャはヤバいのだ! 森下大樹っ!」
「え? ヤバいって?」
「忍術だぞ!? 超怪力だぞ!? 疾風の速度だぞ!?」
「おいおい、アメコミ見すぎだろうがよ。忍者っつったらただの昔のスパイ的存在だろ?」
そういや、レーラも妙に東洋のマーシャルアーツを勘違いしてるっぽかったな。
レーラの部下だけあって、先生も何やら勘違いしているようだ。
「馬鹿もんっ! 貴様は歴史を知らんのかっ!?」
「歴史?」
「鎌倉幕府の立ち上げは十名程度のニンジャのおかげだし、織田信長の台頭も十名程度のニンジャのおかげだ! 豊臣秀吉がサクっと天下取ったのも織田の十名程度のニンジャが豊臣についたからだし……そしてニンジャを味方につけることのできなかった徳川家康は……表も裏も全ての全勢力を持って……いや、日本の裏勢力だけではなく宣教師を通じて当時のヴァチカンと、中国の仙人もアホほど大量に巻き込んで……たった十名程度のニンジャを……関が原で退けさせたのだ! 壊滅ではないぞ? それだけやっても撤退させただけだぞ!? それくらい……ニンジャはヤバいのだっ!」
「それはヤベエなっ!」
ってか、忍者マジでヤバいじゃねえか。
話が事実とすると、アメコミとかの忍者像も、ひょっとすると当時のニンジャがそのまま一部のアメリカに伝わったからかもしれんな。
「そう、ニンジャは……マジでアメコミのニンジャみたいな連中なのだっ!」
と、そこで黒装束の幼女は無い乳を張り、俺に向けてファックサインを作った。
「ってことでテメエ……あちきと……めっちゃ立ち会えよなっ!」
「いや、立ち会えって言われても……初対面だし」
「ああ、そういえばアイサツが遅れたな。ニンジャは挨拶が重要なんだよ。日本書紀にもちゃんとそう書いてあるからな。ドーモ……服部雅(はっとりみやび)です」
日本書紀に忍者の記載があるだと?
一体どういうことなんだ。
とりあえず、ペコリと頭を下げて挨拶されたので、俺もペコリと頭を下げた。
「どうも服部雅さん……森下大樹です」
「なるほど、テメエはアイサツがちゃんとできるようだな。じっちゃんも言ってたが、アイサツをしないような奴はスゴイシツレイなクソ野郎だからな」
「まあ、それは良しとして、お前は一体何なんだよ」
「だからさっきからあちきは言ってるじゃんすか。お前がジェノサイダーだってことはもう……めっちゃ面が割れてんだよ」
「ジェノサイダー?」
「瞳に魔力を帯びてないのに……お前はオーラを保ってんだろ? レベルアップ以外にその現象はありえねえんだからなっ!」
「……?」
「しかし、因果なもんだよな。刹那の超人であり続けるために変身の度にめっちゃエネルギーを消費する。回復方法は妖魔の討伐だけ……」
「だから、何を言ってやがるんだ?」
「問答無用っ! ジェノサイダー! いや、卑弥呼の系譜を持ち、数多の妖魔を喰らいレベルを上げた――魔法少年っ! 忍術……ウツセミ:レベル10っ!」
俺の眼前……否、先ほどまで幼女が存在していた空間に日本人形が置かれていた。
ざわっと俺の肌が粟立つ。
【スキル:索敵が発動しました】
【スキル:危険察知が発動しました】
「後ろだとっ!?」
スキル発動とほぼ同時、俺は背後を振り返る。
小太刀を俺の頸動脈に向けて繰り出してくる幼女が見えた。
「こいつは……術ポイントをシステムに吸い上げられる魔法少年じゃあ絶対に避けられねえ! レベルアップだけでは手にいれられない……忍びの術の世界を見せてやるぜっ!」
――このままじゃ避けきれないっ!
「スキル:身体能力強化レベル10っ!」
バック転の動作で小太刀を避け、俺は幼女から距離を取った。
互いに絶句し、そして睨みあう。
「こいつ……」
「お前……」
そして、同時に同じ台詞を叫んだ。
「スキルを使いやがっただとっ!?」「忍術を使いやがっただとっ!?」
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