第92話魔法少女システム 前編

・サイド:レーラ=サカグチ


「これは優しさに付け込み、人を修羅へと変えるシステムよ」


 月宮雫の病室内で私はため息をついた。


「……枯渇したエネルギーを老婆とした魔法少女に分け与えることで延命させる。本人もギリギリの収支状況の中でやってるってのに……」


「ええ、オマケにバースト2を使うと5感が強制的に失われ、フルバーストとなれば収支状況を無視して老婆化してしまう」


「でも……どうしてそんなシステムが組まれてんの? 別に魔法少女はどこの組織に属してはいないワケでしょ? 妖魔を半強制的に殲滅させまくってもメリットなんて無いわけじゃん?」


 コクリと阿倍野輝夜は頷いた。


「それはずっと私も気になっていた。でも、森下君に出会って、私自身も経験値を得ることによって、私はこの魔法少女のシステムに対しての仮説を立てることができたのよ」


「仮説?」


「経験値のシステムよ。妖魔を魔法少女が死に物狂いで殲滅することによって、少なくとも――システムの作成者には絶大なメリットが発生するわ」


「どういうこと?」


「真理亜と呼ばれる魔法少女――あれが今回のジェノサイダーの正体よ。私の鑑定眼によると、あの子のレベルは12だった」


「やっぱりレベルアップをしていたのよね。でも、異世界の魔物以外は経験値を持っていないはずでしょ? どうしてそんなことが?」


「あの子は妖魔から経験値を取得してレベルアップをしているってことよ」


「……妖魔を倒しても経験値なんて入らないじゃない。それができてれば私のレベルなんてとんでもないことになっているはずよ? なんせキャリア9年で常に激戦区に飛ばされまくっていたし……」


「ええ、そうね――だからこそ、魔法少女の核として卑弥呼が採用されている」


「卑弥呼……?」


「歴史上、本来ありえない能力を発揮した異能力者は複数確認されているわよね?」


「始皇帝、あるいはキリスト……そして、日本では卑弥呼……か。なるほど、ようやく私にも話が読めてきたわ」


「ええ、そういうことね。そしてこの場合問題なのが……特異点の発生なのよね」












 時刻は1日前、場所は京都。

 かつて、御所と呼ばれた場所の程近く。

 自衛隊の施設の一室でスーツ姿の男が土下座をしていた。


「頭をあげろよな! あちきは10歳だぜ? お前は45歳はいってるだろっ!?」


 ソファーに腰を落とし、玉露をすすっていた黒装束に身を包んだ少女。

 身長は140センチもないだろう――そして腰までの美しい白の絹髪だった。


「年のタカは関係ありません。貴方様はそういう存在なのですから」


「チっ」と少女は舌を打つ。


「で、魔法少女対策の首尾はどうなってんだよ?」


「既に自衛隊に手を回しています。阿倍野家本家からの出向のトップエリートの特務1尉率いる……魔戒特化の自衛隊特殊部隊員20名がキンダーガーデンに向かっていますよ。せっかくのご足労ですが……貴方様の出番はないかと」


 深いため息と共に白髪の少女は言った。


「今すぐ辞めさせろ」


「と、おっしゃいますと?」


「あちきは、無駄に死人が増えるって言ってんだよ」


「……自衛隊と阿倍野家本家のトップエリートの共同戦線ですよ? 無論、表と裏の社会に影響は甚大……官邸にまで話は通っています」


「だから、あちきは雑魚を行かせても……しゃあねえって言ってんだ」


「雑魚?」


「ああ、めっちゃ雑魚じゃねえか」


「お言葉ですが、貴方たちの一族が現役だった頃とは……表の世界の最上位戦力……特殊部隊の装備も違いますよ? 和洋のあらゆる術式で洗礼と祝福された……銀と水銀と劣化ウランを混合させた弾丸で身を包んだ対妖魔のプロフェッショナルです」


 ふぅ……と少女は再度ため息とついた。


「アメリカやソ連の特殊部隊の連中とは冷戦の時に、あちきの一族と何度かドンパチやったことがある。そこから技術が多少進んでも知れてるっつってんだよ」


「冷戦……? 貴方達も参戦していたと?」


「あちき達は世界のバランスディフェンサーだ。キューバ危機は流石に肝を冷やしたってじっちゃんが言ってたぜ」


「……今の発言は上には報告はしません。貴方達が表に出ると……世界のバランスが……過去のこととは言え、官邸は大パニックに陥るでしょう」


「だ・か・ら! あちき達はバランスディフェンサーなんだよ! 日本にも国連にもあちき達は縛られないんだっ! 誰に許可を取る必要があるっつーんだ?」


「それはまあ……そうでしょうが」


「それに、ヴァチカンにもいるだろう? 似たようなのが? ヴァチカンの埋葬師団って言葉くらい聞いたことあるだろうが。日本で言うとアマテラスの連中だな」


「埋葬師団……? 6天聖ではなく?」


 そこで少女は露骨に表情を崩した。


「おい、お前? お偉いさんなんだよな? こっちはお偉いさん以外とは話をしねえって矢文を送ったはずなんだけど?」


「私は阿倍野当主……ですが?」


「当主ですらも、今はこの程度の情報しか把握してねえのか。ったく、かつては……あちき達を寄ってタカっての袋叩きで、挙句の果てには合戦の数万の死者の全ての魂を大量に使って……エゲつない方法で不動明王と毘沙門天まで召還して追い込んだって聞いたが……アベノの一族も腑抜けたもんだな」


 その言葉でクスリとスーツの男は笑った。


「あの大戦は御伽噺の伝承でしょうに? 生贄を大量に使っても、超高位存在である不動明王の力を御すなどナンセンスに過ぎる」


「事実だぜ? むしろ、それくらいしないと、あちき達をパンピーがどうにかできるわけがねーだろう? ったく、第六天魔王……ルシファーの分体を宿した信長のオジキがあんなマヌケな死に方をしなけりゃ、あちき等も里に引きこもらなくて良かったのによ」


「……信長公の伝説も本当であると?」


 絶句した表情でスーツの男に向かって、白髪の少女は言葉を続ける。


「ちょっち喋りすぎたみてえだな。まあ……里の外の連中はモノを知らないってのは本当だったみたいだな。で、お前等はヴァチカンで言う埋葬師団……日本で言うアマテラスとのパイプはどんなもんなんだ?」


「完全上位組織です。相互の人的交流もありません」


 ははっと少女は笑った。


「あの集団……昔から徹底した秘密主義ってのは変わってねえみたいだな。まあ、あちき等も……テンカワケメのセキガハラ以来は里に引っ込んでたワケだからお互い様か」


「……そして、何故今回は顔を出されたのですか?」


「ああ」と少女は頷いた。


「良いか? 今すぐ下っ端共は全て引き上げさせろ。今の魔法少女は最高位に達している。オマケに奴等はバーストできんだぜ? 当然、お前等の常識のまともな戦力じゃあ話になんねえ」


「しかし……キンダーガーデンへの戦力派遣は宮内庁と官邸の決裁もおりていて……そもそも、これは阿倍野家の過去の清算です。僭越ながら、突然に横槍を入れてきたのは貴方達でしょう?」


「面倒くせえ野郎だな。分かってんのか? こんままだったら、特異点が発生してめっちゃ無駄に人が死ぬんだぞ? 魔法少女だって人間を殺したくはねえだろうがよ。それに……あのシステムは危険なんだよ。あちき等も似たような異界化システム使ってるから危険性は十分承知してんだ」


「しかし……」

 

 と、そこで少女は溜息をついて――


「なっ? 後ろ?」


 突然にスーツ姿の男の頚動脈に小太刀の先端が突きつけられた。


「勘違いしてんなら教えてやる。あちきはお前にお願いしてんじゃなく、命令してんだ。で……お前が今までマヌケに喋っていたのは人形だ」

 

 少女の言葉通り、先ほどまで男が喋っていた相手――ソファーには日本人形が座っていた。


「忍術:ウツセミレベル10。あちきの一族でこれができなきゃただのモグリだ」


「あ……あ……阿倍野家当主の私が……一瞬で生殺与奪を握られた……?」


「一瞬で生殺与奪を握ったんじゃねえ。会話を始める前から、あちきはテメエの首筋に刀を押し付けてんだよ。なあ? これで……めっちゃ分かったよな? 雑魚が口出すと面倒なだけなんだよ。ハッキリ言っちゃうと、めっちゃ迷惑」


「あ……あ……」


「昔――信長のオジキという後ろ盾を失った……あちきの一族が徳川によってたかってボッコボコにやられちまったからな。力を持ちすぎるってのは……それだけでややこしいんだ。管理できない異界化システムが野放しにされるなんざ考えられねえ。だから、魔法少女のシステムはここであちきが終わらせる」


「貴方は……本当に伝説のとおりの力を?」


「ああ」と少女は頷いた。


「だから、あちきが派遣されてきた。今ではアメリカ映画でファンタジー扱いだが……かつて、確かにこの日本に確かに実在した最強の戦闘集団――」



「――リアルニンジャ……その中でも神童と呼ばれる――忍(しのび)系美少女:服部雅(はっとりみやび)がなっ!」





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