第84話 幕間 二人は友達 後編
「ともかく! 私はもうアンタなんかとは友達はやってられないのっ!」
「それはこっちのセリフだわ。私としたことが……貴方なんかを一瞬でも友達と認めてしまうなんて……」
どうにも面倒くせえ空気だな。
バチバチと二人の視線の間に花火が見えるようだ。
「じゃあ、これで友人関係は消滅ね!」
「ええ、そうしましょう。願っても無い提案よ」
「もう、アンタとはやってられ――」
バシンと両手で机を叩いたレーラが「やってられない」と、断言する直前――正直、俺はウンザリしていたが――まあ……ちょっとした助け舟を出してやった。
「良いのか? お前等……ここで切れちまったら……一生ボッチだぞ? お互いに自分が強烈な性格なのは自覚してんだろ?」
そこで二人はグヌヌとした表情を作った。
「やってられないこともないわっ! でも、今のままじゃ絶対友達とか無理だかんねっ!」
「……」
「……」
「……」
二人はメンチを切りあって、そして阿倍野先輩が切り出した。
「ええ、そうね。じゃあとりあえず友達から降格して……暫定的にこうしましょうか」
「どうするってのよ?」
「私達はこれから――」
阿倍野先輩は押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。
「――友達未満、敵以上よ」
どういうカテゴリーの関係性なんだよっ!?
「そう! それよっ! それが一番シックリくるわっ!」
シックリくるのかよっ!?
心の底から俺が残念な気分になっていると、レーラが阿倍野先輩を睨み付ける。
「っていうことで、今度の日曜日も一緒にゲーセンよっ!」
「望むところよ!」
「再来週も、その次の日曜日も一緒にゲーセンなんだからねっ!」
「ええ、望むところよ!」
そこで俺は……ん? と小首を傾げる。
「お前等……仲が悪いんじゃなかったっけ?」
「仲が悪いなんて当たり前じゃないっ!」
「そうよ森下君。私達は仲が悪いわ」
「じゃあ、どうして一緒にゲーセンに?」
「ああ、そのことね! ショッピング帰りにゲーセン行ったんだけど、この女は妙に格闘ゲームが上手くてね? 私が勝ち越すまで……ゲーセンに一緒に入り浸ることにしたのよ!」
「森下君? この女はリズムゲームが上手くてね? 私が勝ち越すまで……ゲーセンに一緒に入り浸ることにしたのよ」
「つまり? 要は一緒に遊ぶってことだろ?」
「「遊びじゃなくて勝負なのっ!」」
ムキになって声を荒げる二人に……俺は思わず苦笑した。
「別に一緒にいることが苦痛って訳でもねーんだよな?」
「ええ、そうだったら一緒にゲーセンなんかには行かないわよ」
「そういうことね。でも、たまに……たまらなく気に食わない事がお互いにあるだけ」
「じゃあ、もしも九尾やリンフォードの件みたいなことがあったら?」
「まあ、借りがあるから仕方ないわね」
「ええ、既に互いに返せない借りを……作ってしまっている。やむをえないでしょうね」
「まあ、少なくともお前等は互いに互いを大事だとは思ってんだよな」
俺は更に苦笑する。
悪口を含めて、互いに思っていることを面と向かって言えて。
それでいて互いが困っているときにはキッチリと助けに行くことができて。
そんでもって共通の趣味もあって。
世間にあふれている友達関係っつーのかな。
腹の中にイチモツもったまま、上辺だけでニタニタ仲良くやっているのを取り繕うよりもよっぽどこの二人は……。
まあ、それは俺がワザワザこいつらに教えてやることでもねーか。
「どうしたの森下君? ニヤニヤして?」
「いや、なんっつーかな……」
「ん? どうしたの? 森下大樹?」
「お前等二人を助けて、そのおかげでこんな光景を見れて……良かったなって思うよ」
結局、俺は勇者になんてなりたかった訳じゃない。
世界を救うなんて大それたことをしたかった訳じゃない。
ただ、周囲の大好きな人達の幸せな日常を守りたかった。
ただそれだけの事で――
――そして、俺の歩んできた道は絶対に間違いじゃなかったと、今……確信した。
と、俺は教室の窓から見える春空のウロコ雲を眺めながらそんなことを思ったのだった。
※ 次回から新章:魔法少女編です
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