第78話VS レーラ=サカグチ  ラスト

 ――私のロンギヌスよ――あの人の下へ――必ず届いてっ!


 そうして私は血を吐き出しながら、ロンギヌスの槍を森下大樹に向けて投擲した。


「絶対にここでケリつけなさいよっ! 受け取りなさいっ! 森下大樹いいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 

 サイド:森下大樹



「蛇よ! 叩き落せっ!」


 一直線にこちらに向かってくるロンギヌスの槍に10匹の蛇が殺到する。

 と、そこで横合いから札が飛来してきた。


「させると思った? 大爆符――メギド」


 目もくらまんばかりの光と、肺までズッシリと響く重たい爆発音。

 蛇達の中心でメギドの炎が炸裂した。


 10匹の蛇の内の9匹が爆発に巻き込まれて消失する。


 そうして残り一匹の蛇がロンギヌスに向かい――蛇の頭がロンギヌスに到達する直前に、俺の手にロンギヌスは握られることになった。


「確かに受け取ったぜ! サカグチさんっ!」


「なっ!?」


 狼狽するリンフォードに阿倍野先輩はすまし顔で応じた。


「量産可能な光の蛇、これだけ何度も見せられていれば特性は嫌でも分かるわ。攻撃力は私達にとっては脅威だけれど、魔物のステータスとして捉えた場合……耐久性は異常に低い。それこそ、私でも対処できる程度にはね」


「それならば何故……さっきは煙幕のような回りくどいことを?」


 ニコリと笑って阿倍野先輩はファックサインを作った。


「2回も蛇の結界を潜る必要があったのよ? 私は最初からこちらにできることの全てを明かすようなマヌケじゃないってことよ」


「くっそ……くそおおおおっ! こうなれば……残る最後の蛇よ! 今すぐレーラ=サカグチに攻撃を仕掛けなさいっ!」


 残った一匹の蛇がサカグチに向かい、そして――


「神技:主天使(ドミニオン)に捧ぐ聖域結界(サンクチュアリ)っ! ヴァチカンの禁忌の技…魔力の代わりに命を削って作る防御結界だっ! 生半可なことで抜けるモノではないっ!」


 サカグチさんの眼前に5人が立ちふさがり、蛇に向けて面状の光の魔方陣が形成されている。

 5人が作った結界で、見たところ、彼女達の個々の実力からすると信じがたいレベルの防御術式だ。

 なるほど、ガーディアンズの名前は伊達ではないってことか。

 必然、蛇は防御結界にヘッドバットを仕掛けたが、結界を抜くことは叶わずに鈍い音と共に消滅した。


「くそ、くそ、くっそおおおおおお!」


 悔しげに絶叫するリンフォードに向け、俺はロンギヌスを構えた。


「色々あったが――どうやらここで幕みたいだぜ? 攻撃スキル発動っ!」



【スキル:勇者の一撃が発動しました】


【スキル:龍闘気が発動しました】


【スキル:力溜めが発動しました】


【スキル:鼓舞が発動しました】


【スキル:肉切骨斬が発動しました】


 リンフォードの心臓めがけて俺はロンギヌスを繰り出した。


「ゴフっ!?」


 リンフォードは半身になって槍を避け、ロンギヌスはその心臓ではなく右肩を貫いた。


「ってか、堅えっ!」


 何とかギリギリのところで貫けたって感じだ。

 相当に大量の防御スキルを展開させてやがる。

 あと一つだけでもスキルをケチってたらアウトだったな。


 そこで俺はバックステップでリンフォードから距離を取った。

 と、同時にリンフォードは喜色の笑みを浮かべる。


「離れた……? いえ、仕留めそこなったということですか? どうやら、今の攻撃スキルで貴方のMPがつきたようですね? ハハっ! ハハハっ! 手傷は負いましたがMP切れの勇者と残りは烏合の衆――これで私の勝利は確定しましたっ! ハハハっ! ハハハハハっ!」


「いいや、キッチリ仕留めたよ。終わりだ、テメエはよ」


「……?」


 既に俺の魔力の練成は終えている。

 っていうか、雷神一閃(トールハンマー)に比べれば、これは非常に原始的な魔法だ。

 この程度の威力の魔法を使うのにタメの時間はそもそも要らない。

 でも、だからこそ……この魔法で仕留めるためにここまでのお膳立てが必要だったんだがな。


 俺は頭上に右手を掲げた。


「勇者の属性魔法は――雷だ」


「知っていますよ。そして貴方の残りMPでは雷神一閃(トールハンマー)は絶対に行使できません」


「トールハンマーは使えねえ。だからサカグチさんが、阿倍野先輩が、ガーディアンズが……ここまでお膳立てをしてくれたんだ」


 俺は周囲に散会する7人に視線をそれぞれ向ける。

 勝利のためのバトンリレー。

 誰がいなくても、この結末はありえなかった。

 誰が失敗しても、この幕引きはありえなかったんだ。


 そうしてリンフォードを睨み付ける。


「知ってるか? 雷ってのは金属に落ちるもんなんだぜ? まともにお前に雷を落としても一撃で沈めるのは不可能だ。だが……槍を通して体の中から雷で焼かれると……どうなんだろうな?」


 そこでリンフォードは驚愕の表情を作った。


「まさかっ……まさか……」


 ここで仕留め切れなければ本当に全てが終わる。

 だから、俺のできる……ありったけをこの一撃にぶつけるっ!


【スキル:勇者の一撃が発動しました】


【スキル:聖闘気が発動しました】


【スキル:龍闘気が発動しました】


【スキル:魔闘気が発動しました】


【スキル:魔戦士の最後の一撃が発動しました】


【スキル:勇者の一撃が重ねがけで発動しました】


【スキル:空前絶後が発動しました】


【スキル:覇者の一撃が発動しました】


【スキル:核熱属性付与が発動しました】


【スキル:絶対破壊が発動しました】


【スキル:魔術結界無効が発動しました】


【スキル:アルティメットフォースが発動しました】


 スキルの発動を確認し、俺は頭上に掲げた右手をリンフォードに向けて、魔法のトリガーを引いた。


「これで幕だっ!」


 そうして、天からロンギヌスの槍に向けて――極大の雷が振ってきた。


「猛れ雷神っ! 雷神怒槌激(トールサンダー)!」


 呆然としたリンフォードの表情に、明らかな恐怖の色が混じっていく。



「くそ、くそ、くそ……糞共がああああああああああああああっ!」



 リンフォードの絶叫と共に、耳をつんざく雷鳴と全てを飲み込む青白い光に一面が包まれた。





 

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