第77話VS レーラ=サカグチ その7

 サイド:森下大樹



 光の蛇が10匹こちらに突撃をしかけてきた。


 が、スキルオープン状態の俺にとってこんな攻撃は本当に春のそよ風に等しい。

 まあ、フルオープンって言っても、戦闘時に常時かけているようなスキルを発動させているだけなんだけどな。

 攻撃の瞬間限定に動作する系統はMPを食いすぎるし、何よりも常時かけてても意味がねえ。


 エクスカリバーは先ほど森の中に飛ばされたので、今は丸腰だ。

 だが、蛇を相手にするのに得物は必要ない。


「よいしょっと」


 裏拳で全ての蛇を地面に叩き落して、俺は阿倍野先輩に語りかけた。


「ありがとうございます。おかげさまで窮地を脱することができましたよ」


 そこで阿倍野先輩は渋い表情を作った。


「魔力譲渡の術式はロスが多いわ。それに聖騎士は基本的に脳筋側で元々のMPも低いし、貴方とはレベルも雲泥の差がある」


 ははっと俺は呆れたように笑った。


「ええ、そのとおりです。MPにして200程度しか回復していませんよ。雷神一閃(トールハンマー)は使えませんし、スキルフルオープン状態も長くは持ちません」


「そして、スキルフルオープン状態の稼動時間内で、エクスカリバーが無い状態ではあの金髪ロンゲの優男を沈める事はできないということね?」


「何でもお見通しなんですね。武器が無いというのが一番不味いですね。反射スキルは無効化しましたが、スキルレベル10の奴の防御術式の数々は生きています。それに、スキルを乗せての攻撃はそれだけでMPを食います。拳の連打にしてその数は50発程度でしょうか。それじゃあ恐らく奴を沈めきることはできません」


 そこで阿倍野先輩はバサリと長髪を右手でかきあげた。


「武器ならあるわ」


「知っています。しかし、どうしてすぐに渡さないんですか?」


 さっきのアイコンタクトとその後のみんなの動きで大体の戦況は既に把握しているが、敢えて俺は阿倍野先輩にそう尋ねた。


「金髪ロンゲが警戒してしまうからよ。奴は貴方が丸腰だと思って油断しているはず。時間をかけて武器の特性に特化した防御術式を練られた場合、最後の一撃の効果は半減してしまうわ」


「ええ、そうでしょうね。しかし、蛇をかいくぐって本当に?」


「その為に私がいるわ。必ず貴方の元に得物を届けてみせるわ。最終確認よ森下君?」


「何でしょうか?」


「雷神の力はトールハンマーだけではないのよね? それ前提で私は今回の策を組み上げているわ」


「ええ、そして……そこにしか勝機はないでしょう。ああ、後……先輩?」


「何かしら?」


「本当に……喧嘩が上手いんですね。俺一人だけならさっきので終わってました。ありがとうございます」


 そこで阿倍野先輩は微笑を浮かべてこう言った。


「――そういう台詞はきちんと奴を沈めてから吐きなさい」


「それでは始めますか」


「ええ、これが正真正銘のラストアタックよ」






 サイド:レーラ=サカグチ



 森下大樹が蛇を叩き落としながら、私の眼前20メートル程度の距離のリンフォードに向けて音速を遥かに凌駕する速度で駆け出していく。

 そうして私はふらつく膝を叩きながら内臓のダメージを確認する。


 ――やはり、良くない。


 肝臓破裂一歩寸前で、常人だとICUに缶詰状態だろう。

 後、数時間もすれば自動回復で普通に歩くこと程度ならできるようになるかもしんないケド……。


「エクスカリバーなしの素手では私を沈めることはできませんっ! せいぜいがMPの回復は300程度! ギリギリには変わりませんっ! ここを凌げば私の勝ちですっ!」


 森下大樹の怒涛の連打を食らいながら、フルボッコ状態のリンフォードがドヤ顔でそう叫んだ。


「ああ、そのとおりだ! だが、武器ならあそこにあるっ! サカグチさんっ!」


「分かってるわよっ!」


 私はロンギヌスを片手に、体躯を捻らせて投擲の体制に入る。


「ロンギヌス……っ!? そうかっ! そういうことかっ! 不味い……っ! それは不味いっ! 蛇よっ! 飛来するロンギヌスを――空中で迎撃し叩き落せっ!」


 光の大蛇が10匹、こちらに向けて猛烈な速度で飛んできた。


 ロンギヌスは聖遺物、そしてエクスカリバーもまた聖遺物。

 正直、私の力じゃロンギヌスが使用者に要求するステータスを満たすことができず、その本来のポテンシャルの30パーセントも使いこなせていない。

 でも、勇者としての人類最強のステータスを持つ森下大樹なら話は違う。


「オーバードライブっ! 第4階位:主天使(ドミニオンズ)から第三階位:座天使(オファニム)にギアチェンジっ!」


 これが、今の私にできる全力全開。

 半端な速度では蛇に空中で叩き落される公算が高くなる。

 そう、だからこその、ここ一度だけの最後の無茶だ。

 限界を超えた霊圧をまとい――通常時でもキツイってのに――筋組織が悲鳴をあげる。


 そして、オリンピックの槍投げばりの……投擲の為に捻りに捻った無茶な体制。

 内臓が圧迫され、ゴフリと肺から血液が漏れる。


 ――強くて優しい勇者様。

 今も変わらずあの人に憧れているから、だから、私の体よ……お願いだから言うことを聞いてっ!


 圧迫された内臓、激痛が全身を襲い、もはや何がなにやら分からない。

 けれど……私は折れない、諦めない。


 ――強くて優しい勇者様。

 あの人を死なせたくないから……だから、お願い……私の体よ、ここ一度だけ乗り切ってっ!


 ――強くて優しい勇者様。

 あの人を2度と失いたくないから、離れ離れになりたくないから……だから、お願い――



 ――私のロンギヌスよ――あの人の下へ――必ず届いてっ!



 そうして私は血を吐き出しながら、ロンギヌスの槍を森下大樹に向けて投擲した。


「受け取りなさいっ! 森下大樹いいいいいいいいいいいいっ!」


 





・作者からのお知らせ

 新作始めております。呆れるほどにお馬鹿な作品で、頭空っぽにして読めると思います。


 

・タイトル

エロゲの世界でスローライフ

~一緒に異世界転移してきたヤリサーの大学生たちに追放されたので、辺境で無敵になって真のヒロインたちとヨロシクやります~



・リンク

https://kakuyomu.jp/works/1177354055461804147



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