第73話VS レーラ=サカグチ その3

 サイド:森下大樹


 西の拠点。

 神社に到達した俺はバイクにまたがる田中先生……セラフィーナと4人の聖騎士と遭遇した。

 

「私達では貴様には勝てん。降参しよう」


 遭遇するなり、すぐに田中先生は肩をすくめてそう言った。


「え? 勝てんって言われても……」


 武装を解いて、バイクから降りて槍を地面に投げ捨てたセラフィーナ達。

 肩透かしを食らった感じの俺に彼女はやれやれだとばかりに呟いた。


「ヴァチカンの服務規程として、別途特別な命令が無い限りは明確な敗北が明らかな場合は敵前逃亡は認められている。そして今回はそのケースだ。無駄な争いは我々5人は望まん」

 

 いや、言っていることはわかるけど……と、俺は顎に手をやった。


「俺はこの場所のカタをつければ、サカグチさんのところに向かう。それでも良いのか? お前等はガーディアンズなんだろう?」


 そこでセラフィーナはフっと笑った。


「貴様は姫には危害は加えない。少なくとも命にかかわるようなことや、あるいは重症は絶対に負わせない。そのように姫から聞いているし、実際にそうだろう」


 まあ、そりゃあそうだなんだが……。


「だから、この場で俺には歯向かわないと?」


「そうなるな。我々は不要な死を是としない。そうあるくらいであればこの場をやり過ごし、今後のヴァチカンからの使命を全うするほうがヴァチカンにとっての益になる」


「……」


「ともかく、我々はこの場の神社にはこれ以降危害を加えるつもりはない。我々の言葉が信用できんのであれば縄で縛るなりなんなりすれば良い。我らはその場での矜持よりも後の利を取る。それがヴァチカンの教えだ」


「ヴァチカン。ヴァチカン。ヴァチカン……か」


 そこで、俺の胸にドス黒い何かが渦巻いてきた。

 何だろうこの感覚は……とにかく、この言い分は気にくわねえ。


「サカグチさんが困ってるのは知ってるんだよな?」


「無論だ。我々もその件には心を悩ませている」


「原因はヴァチカンなんだよな?」


「……そのとおりだ」


「それでもお前等はヴァチカンに従うんだよな?」


「……それが姫の最終判断だ」


 呆れたモノも言えんとばかりに俺は肩をすくめる。


「ヴァチカンの次はサカグチさんに責任転嫁かよ」


 そこでポカンとした表情をセラフィーナは作った。


「ヴァチカンに盲目的に奴隷のように従っているだけ。それがお前等だ。サカグチさんだってヴァチカンに従うのは本意じゃねえんだろ?」


 俺の言葉に、一瞬だけセラフィーナは押し黙った。


「……しかしそれ以外の生き方を我々は知らぬ」


「お前等がそんなんだからあいつは困ってんだろ? そんなこともわかんねえのか?」


「私達のせいで姫が……困っている?」


「俺はお前等と違った環境で生きてきた。だから生き方そのものは否定しねえよ。で、サカグチさんをお前等が大事に思ってんのも本当だろうしな」


「……何が言いたい?」


「お前等、それで生きているって言えんのか? 天寿を全うするにしろ、病死にしろ、戦死にしろさ……死ぬときに……悔いなく生きることができたって自分に嘘を無く、人生そのものを悔いなくやり切ったって……笑って逝くことができんのか? ヴァチカンに盲目的に従って、俺みたいな強者が出てきた瞬間に抗うこともなく降伏して……そこにお前等の意思はあんのかよ?」


「……」


「それじゃあ、俺はもう行く。時間がないからな。だが、絶対に神社には手を出すんじゃねえぞ?」


「ああ、約束しよう」


 そうして俺は東の神社へと向けて走り出そうとした。

 今頃、サカグチさんと阿倍野先輩のドンパチが始まっているはずだ。


「待て、森下っ!」


「なんだ?」


「我々を無力化……あるいは拘束……しないのか? このまま私達がここの神社を襲うとは考えないのか?」


 そこで俺はクスリと笑った。


「俺はサカグチさんを信じる」


「姫を信じる……だと?」


「だから、サカグチさんが信じたお前等を信じる。少なくともサカグチさんなら、約束した限りはこの後すぐに神社を襲うようなマネは絶対にしない」


「おい、お前……」


「急いでるんだ! それじゃあなっ!」


 



 サイド:セラフィーナ


 そうして、目にも留まらない速度で森下大樹は東の神社へと駆け出して行った。


「セラフィーナ様……」


「どうした? リーゼ?」


「好機です! 神社は今は丸裸……鎮祭を行う神主をこのまま全員で襲い掛かれば……」


 そこで私はゴツンとゲンコツをリーゼに落とした。


「痛っ!」


「あの男なら我々を数秒で無力化できる。つまり、我々は見逃されたのだぞ!? その上……姫の名前を出されて約束の担保を取られたのだ! 姫に外道の汚名を着せる気かっ! この痴れ者がっ!」


「どういうことで……?」


 そこで私は忌々しげにその場で首を左右に振った。


「認めたくは無いが、姫の男を見る目は確かだったかもしれん……ということだ」


「……はぁ? どういうことでしょうか?」


 そうして私はバイクにまたがり、東の神社へ向けてアクセルを吹かした。


「行くぞ」


「どちらまで?」


「姫のところへだ」


「……その心は?」


「何があっても我々は命を賭しても姫をサポートする。その為にだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る