第70話阿倍野先輩の異世界ド短期留学 その6

 そうして私は始まりの街に戻ってきた。

 帰るまでのタイムリミットは残り1時間となっている。


 私はCランク級冒険者だという大男が泊っている宿の一室のドアを叩いた。

 

「ちゃっちゃと済ませちゃいましょう」

 

 返事を待たずにドアを開く。

 中に入ると、薄汚い部屋の片隅で男が筋肉トレーニングに励んでいるところだった。

 ただでさえ汚い室内は汗臭く、不快なことこの上無い。


「約束通り来たようだな」


「約束通りに来なくちゃ呪殺で死んでしまうらしいからね」


 それだけ言うと私は男のベッドに腰をかけた。

 すると男はニヤリと醜悪に笑った。


「なあに、言う事を聞いていれば無茶苦茶はしねえ。ただし——」


「ただし?」


「はは、俺のはデケえんだ。見たところお前は処女だろう? 不可抗力の痛みについては勘弁してくれや」


「できれば優しくしてもらえるとありがたいわね」


「優しくはできねえ。せいぜい天井のシミでも数えながら悪夢の時間が過ぎるのを待つんだな」


 そうして男はベッドに腰をかけた私の眼前に仁王立ちを決めた。

 と、きせずして私の眼前には男の股間というベストポジションとなった。

 

「あら、奇遇ね? 私も―—優しくするつもりなんて無いわ」


 アッパーカット気味に男の股間に拳を放つ。


「ぐぎゃっ!?」


 グニャリと嫌な感触。男の片玉が潰れたのは間違いない。

 そのまま私は立ち上がり、男に足払いをかけた。

 そうして男をベッドの上に引きずり倒す。

 そのまま、私はベッドの上で男にマウントポジションを取った。


「ぐぎっ……て、テ、テメエっ!? どういう了見だっ!?」


 マウントパンチを叩き落としながら、私はうっすらと微笑を浮かべる。


「ええ、私はベッドは共にすると言ったわ」


 そうして更にマウントパンチを一発。

 男の表情が苦痛に歪んだ。


「でも、性行為に及ぶとは――言ってはいない。今はベッドの上で二人きりね。一応、これでベッドを共にするという約束は果たしたわ」


「な、な、なんて……無茶……苦茶……な女なんだっ……」


 再度マウントパンチを振り落としたところで、男の左掌に私の右拳を掴まれた。


「不意打ちで優位に立ったからって調子にのってんじゃねえぞ!? 力比べなら負けはしね……」


 男が力を込めて、左掌で私の右拳を押し返してくる。

 私もまた、掴まれた拳に力を込め――


 ――男の掌ごとその顔面に拳を打ち下ろした。


「アギュっ!?」


「単純な力比べでも私の方が今はステータスが上みたいね? 無理してオークバーサーカーを狩っておいて良かったわ」


「この前は俺に手も足も出なかったのに……な、な、こんな短期間に何があったんだっ!? ありえねえ、こんなのありえねえだろっ!?」


 そうして私は再度鉄槌を男の鼻っ柱に叩き込んだ。


「マウントパンチを10ダースくれてやるわ」

 

 更に連打で怒涛の鉄槌を打ち下ろしていく。


「ぎゃっつ、ぎゃっつ。ぎゃあああああああああああっ!」


 そうして、底抜けの笑顔と共に男に言った。


「まあ、せいぜい天井のシミでも数えながら悪夢の時間が過ぎるのを待つことね」



・お知らせ

新作始めています。

主人公最強モノで商業含めて私が書いた中でも、相当完成度高い方じゃないかなと思います。


個人的に物凄く期待している作品ですので、よろしくお願いいたします。


https://kakuyomu.jp/works/1177354055071490442

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