第69話阿倍野先輩の異世界ド短期留学 その5
そうして私はオークバーサーカーの通り道に取り出した24枚の札を撒き始めた。
――爆符:潜土竜(せみもぐら)
阿倍野流退魔符術:レベル5により解禁された新技だ。
まあ、一言で言うと地雷のような術ね。
威力としては今の私の最大攻撃術の極獄炎にはかなり劣る。
でも、基本的に絡め手で仕留めるのが得意な私にとっては非常に有効な術という訳だ。
で、今まさに、丁度都合の良いのがこの場にいるわけだ。
異世界には気軽に何度もこれなさそうな話しだし、このチャンスを逃すと相当な経験値の損失になるのは間違いない。
札を24枚配置したところで、私は軽く息をついた。
これが今の私にできる最大の遠隔操作枚数だ。
そうして私は札を撒いた場所から200メートル程度の距離を取る。
200メートルと言えば、つまりは炎符:極獄炎の有効射撃範囲と同一だ。
そして、今の私なら極極炎の符術も3枚の同時使用も可能だ。
オークバーサーカーの先ほどのスピードからして……24発の地雷が突破されたとしても、最低でも極獄炎で3枚×5回の弾幕を張ることができる。
いくらなんでもこの布陣でどうにもならないなんていうことはないだろう。
それに、私にはこれら全てを突破された時の腹案もある。安全マージンはこれでバッチリなはず……。
と、そこで周回運動を1週終えて、オークバーサーカーが再度私の近くまでやってきた。
ドドドドドド。
重機のような爆音と共に、猛烈な速度でこちらに向かってくる。
と、同時に大爆発の音が響き渡る。
――爆符:潜土竜(せみもぐら)
炎と黒煙が5メートル以上まで噴きあがった。
「これがレベルアップか……」
この術式は極獄炎よりも威力はかなり低い。でも、明らかに今までの極獄炎よりも強い炎だ。
これってTNT火薬換算でどんなもんなんだろう……とか思いながら。次々と地雷が発動していく。
爆発の数――2,3,4,5。
「はは、頑張るわね」
あの規模の爆発の連打を受けて、まだオークバーサーカーは爆走を止めないらしい。
10、11、12、13、14……と、そこで私の背中にいやな汗が走った。
止まらないどころか……速度に変化なしっつ!?
そして、18,19,20――23,24……私の仕掛けた爆符は全弾発動した。
そこで、オークバーサーカーはしばらく走って立ち止まり、私に向けて視線を向けた。
「……不味いわね」
奴は、オークバーサーカーは……仕込んだ爆符を全て受けきった上で、その上で――私を見て、この化け物は醜悪に笑ったのだ。
見たところ、全くのノーダメージという訳でもない。
表面は焦げていて、所々肉と骨も見える。
でも、奴は――お構いなしに全速力でこちらに向けて走り出してきた。
懐から私は、再度ダース単位で札を取り出した。
「炎符:極獄炎っ!」
札を投げる。意思を持った鳥のように全弾がオークバーサーカーに向かっていく。
そして着弾。大爆発。
自分でも冗談と思えるような規模の爆破シーンが眼前に広がるが――
――でも、オークバーサーカーはこちらに向かってくる。
「もう一丁っ!」
再度札を投げる。
意思を持った鳥のように全弾がオークバーサーカーに向かっていく。
そして着弾。大爆発。
やはり自分でも冗談と思えるような規模の爆破シーンが眼前に広がるが――
――それでも、オークバーサーカーはこちらに向かってくる。右手の指を吹き飛ばされながらもこちらに向かってくる。
「効いている……確実に効いている。でも――」
――判断を誤った。私の予想よりもはるかにこの魔物は厄介だ。
「くっそっ!」
3回目の弾幕。
けれど、先ほどのリピート。
だが、今度は右耳を吹き飛ばした。
確実にオークバーサーカーにダメージは通っている。
そう、確実に効いてはいるのだ。
でも、恐らく……脳筋特有の圧倒的タフネスで歯牙にもかけずにこちらに向かってきている。
彼我の距離差は100メートルを切った。
「もう、ここらが潮ね」
そこで私は腹案を作動させた。
「森下君と相談してからスキル取得しようと思っていたけど……背に腹は変えられない! スキルポイントを全て符術に振り分けるっ!」
これで符術はレベル6、そして新技が解禁される。
大爆符:メギド
最上級に近い符術……阿倍野本家でもどれほどの人数が使用できるか分からない。
かつて、九尾の封印の際には大活躍したという、阿倍野家の虎の子となっている術だ。
ソドムとゴモラの終焉の炎、何故にご先祖である安倍清明がこの単語を知っていたかは分からないけれど……。
ともかく、ここで私の知る限りで最強の符術が解禁されたのだ。
一枚の札がオークに向かって投げられ、極獄炎×3枚の倍近くの爆発が起きる。
「やった……の?」
だが、それでも――右腕を吹き飛ばされながらもオークバーサーカーはこちらに向かって走ってくる。
「ようやく動きが……鈍ってくれた」
そう、私は確実に大ダメージを与えた。
でも、もう距離が無い。
目視する限り残り50メートルで奴の攻撃は私に届く。
「残る弾幕は後一つっ!」
再度、私はオークバーサーカーに札を投げ、メギドの炎が唸りをあげた。
そうして、爆炎と煙が晴れて、気がつけば私の眼前にオークバーサーカーが立っていた。
「仕留め損ねたみたいね」
正直、読み誤った。
そこで私は頭をフル回転させる。
刀で応戦?
いや、それは無理だ。身体能力が違いすぎる。
符術?
距離が無い。爆発系だと私も巻き添えを食らう。
――さあ、どうする?
私の焦燥が分かっているかのように、オークバーサーカーはニタリと笑った。
右手を吹き飛ばされ、全身を血と火傷で覆い、皮が焼かれて筋繊維が丸出しの状態で――それでも笑ったのだ。
そして、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「なら……これはどうかしらっ!?」
懐から特注の防犯スプレーを取り出した。
唐辛子が主成分でケミカル物質満載の大型の獣用……これなら白熊やアフリカゾウ相手でも通用するシロモノだ。
まあ、要は妖怪対策の護身アイテムって奴ね。
他には気管にも作用して、むせてしまって動きが鈍る効果もある。
地味だけど、シンプルなだけに有効なので最後の護身用に私は懐に絶対に忍ばせている。
――そしてこれが私の最後の手段だ。
サイズ的にはこいつは白熊の数分の1程度だ。
そして森下君は確かに状態異常には弱い魔物だと言っていた。
「これで駄目なら本当におしまいっ!」
プシューっとモロにオークバーサーカーの目に化学物質が吹き付けられた。
これで目が見えなくなるはず。
防犯スプレーってのは要は目つぶしだ。
防犯スプレーを盲目の状態異常だと判断すれば……この攻撃は通るはずよ!
「ドンピシャのようね」
私はバックステップで距離をとり、そして懐に手をやった。
ゲホゲホと蒸せながら、オーガバーサーカーは目を押さえてその場をのたうち回る。
「本日3度目――大爆符:メギドっ!」
そして――それから都合4発のメギドをオークバーサーカーに放った。
「どんだけタフなのよ……」
最終的に黒焦げになったオークバーサーカーを刀で滅多刺しにして、そこでようやく私はその場でペタンと膝を折った。
「疲れた……死ぬかと思ったわ」
名前:カグヤ=アベノ
種族:ヒューマン
職業:巫女
状態:恋する乙女(ヤンデレ風味)
性格:これは酷い
レベル:11→14
HP :711/711→821/821
MP :802/802→95/970
攻撃力:580→750
防御力:459→583
魔力 :669→865
回避 :415→511
阿倍野流退魔符術(レベル5→6)
合気道(レベル2)
刀術(レベル2→4)
身体能力強化(レベル2→4)
反射神経強化(レベル2→4)
索敵(レベル5)
神隠し(レベル10:転移特典)
影分身(レベル0→3)
※ スキルポイントの残はゼロ
・お知らせ
新作始めています。
主人公最強モノで商業含めて私が書いた中でも、相当完成度高い方じゃないかなと思います。
個人的に物凄く期待している作品ですので、よろしくお願いいたします。
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