第65話阿倍野先輩の異世界ド短期留学 その1
「じゃあ先輩――レベルアップの為に……期間限定で……ちょっとだけ……行って見ますか? 異世界?」
「異世界……? そんなことが可能なの?」
「俺が帰ってこれた。いや、そもそも俺が向こうに行けたってことは先輩も当然行けますよね?」
「いや、確かにそれはそうかもしれないけれど……でも、そんなに簡単に?」
「姫さん……いや、昔の仲間曰く、魔王を討伐した関係で次元の歪みが混沌化しているんですよ。今なら次元転移魔法一発でいけるはずです。だから俺も帰ってこれた訳ですしね」
しばし考えて、阿倍野先輩は首を左右に振った。
「それが事実だとして……どうして前回の時はオークを出すなんて言う……そんなまどろっこしいことを? 要は異世界でレベリングを施すという話でしょう?」
「理由は二つあります。まず……あの世界でのレベルアップはあまりにもこの世界にとって危険です。俺みたいなのが5人もいれば世界征服もできそうな勢いでしょ?」
「それは分かるわ。で、もうひとつは?」
「あちらの世界の伝承ですよ。元々俺は異世界召還の儀式であっちに呼ばれたんですが、アレは本来禁忌の儀式なんです」
「……禁忌?」
「こちらの世界の住人のレベルアップ効率はかなり凄まじいモノなんですよ。で、昔に戦争の為に異世界人が大量召還された……そして理由は分かりませんが、あちらの世界は一度滅んでいるんです。だから、魔王の関係で切羽詰った状況で……その上で特定の条件を満たした際に認められる勇者召還……つまり俺ですね。俺だけが向こうの世界に渡ることが許されたんです」
「でも、それってただの伝承でしょう? 御伽噺の世界じゃないの?」
「ええ、ただの伝承です。でも、こちらの世界もその関係で致命的な文明の破壊が起きたとされているんですよ」
ははっと阿倍野先輩は俺の言葉を一笑に伏せた。
「文明破壊? 歴史の教科書にそんなものはのっていないわ」
「俺もそう思ったんですけど……オーパーツって言葉をご存知ですか?」
「地球の古代文明に本来ありえないような技術が施された……遺跡なり出土品のことね?」
「向こうの世界の文献にアステカとかノアの箱舟とかムー大陸とかの……それっぽい記述が色々ありましてね。向こうの人間がそんな単語知ってる訳ないでしょう?」
しばし考えて阿倍野先輩は首を左右に振った。
「まあ、確かに捨て置ける話ではなさそうね」
「それに次元転移魔法は……これまた不思議なんですが、やっていることはとんでもないのに……何故だかMPを消費しません。結論から言うと、先輩は行こうと思えば向こうに行けますが……どうしましょうか?」
そこで阿倍野先輩はニコリと笑った。
「――そんなものは決まっているわ。行くに決まっているでしょう。それしか方法が無いのなら」
「でも、それで世界規模の何かが起きる可能性もあるんですよ?」
先輩は大きく大きく息を吸い込んで――何かを決心したように軽く頷いて断言した。
「――その為の勇者でしょう? 世界を救う勇者でしょう?」
「大事なところはやっぱり俺頼みなんですか!?」
「まあ、そういうことね」
けど、まあ、阿倍野先輩の言うことに俺も賛成だ。
今の俺たちにとっては今回の件を丸くおさめることが、俺たちの周囲の小さな世界の全てなんだから。
事実かどうかも分からない伝承で、俺たちは止まることはできない。
まあ、もしもそれで今後何かが起きたら……それはその時に俺たちが対処するという形で責任を取るしかないんだろう。
「分かりました」
「それじゃあ、必ず……あの馬鹿を一発殴って連れ戻すわよ」
と、そこで俺たちは箱根の駅に到着した。
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