第59話田中花子 ~セラフィーナ~ その2

※ 今回も下ネタ酷いです


 サイド:森下大樹



 引越しソバを受け取った後、サカグチさんからメールが届いた。

 んでもって、田中先生関係の大体の事情を聞かされた。

 ってか、まあ、覗き見した時に聞いた内容とほぼ同一の内容だった。





 翌日、朝飯はザルソバだった。

 桐の箱に入っているだけあって、相当高級なやつで普通にめっちゃ美味かった。

 ってか、阿倍野先輩曰く『宗教系は金持ってる』とのことで、本当に連中は金を持ってるんだろう。

 サカグチさんもちょっと前まで高級ホテルのスイートに泊まってるって話だったしな。


 と、それはさておき、セラフィーナこと銀髪碧眼赤ジャージの田中先生は朝のホームルームを終える前に……


「森下大樹! お前には特別指導がある! 昼休みに生徒指導室に来るようにっ!」


 と、俺を睨み付けながらそう言ったのだった。






 昼休み。生徒指導室。

 ガラガラと引き戸を開くと、対面式の机に田中先生が座っていた。


「おう、来たか森下」


「はい、それで特別指導って?」


「特別指導というか提案があるのだ。姫から事情は聞いているのだろう?」


「ええ、昨日メールが届きましたよ」


「しかし私も驚いたぞ。どこの組織にも属さず、正体不明の天然の異能者が九尾を倒すとは……」

 

 あれ? サカグチさんって俺が勇者って知ってたよな?

 なんで正体不明の天然の異能力者みたいな説明になってんだ?

 まあ、それは良いか。


「で、提案とは?」


「その前に森下。先生にお茶を淹れてくれ」


 先生の指し示す先には給湯ポットと急須があった。


「え? 俺が淹れるんですか?」


「私とお前は先生と生徒だ。上下関係を弁えろ」


「……」


 言われるとおりに俺は急須に沸騰したお湯と茶葉を入れて、2つの湯のみにお茶を注ぐ。


「ああ、森下?」


「何でしょうか?」


「ストローを頼む。アイスコーヒー用のやつがあるはずだ」


 ストロー?

 変わったオーダーだな。まあ、外国人だからそんな飲み方なのかな?


 俺はお盆にお茶の入った湯のみ二つとストローを乗せて、先生の前に差し置いた。


「はい、お茶です」


「ああ、すまないな」


 田中先生はストローを湯のみに入れて、そのまま勢い良くストローでお茶を吸い込んで――


 ――ゴブファッっとばかりにお茶を吹き出した。


「どうしたんですか先生っ!?」


「熱くて飲めるかっ!」




「アンタがストローって言ったんだろっ!?」




 ゴフゴフとむせ返る銀髪の英国人を見ながら、俺は残念な気持ちになる。


 と、そこで田中先生は神妙な顔つきを作った。


「さて、提案に入る前に――少し昔話をしようか」


「昔話ですか?」


 コクリと田中先生は頷いた。


「9年前の出来事だ。今ではレーラ様のガーディアンとしてそれなりに厚遇されて生きている」


「厚遇……ちなみに給料は?」


「私はガーディアンズのリーダーなので報酬は高額だ。日本円でいうなら月収250万円だな。ちなみに姫は月収650万円だ」


 マジで結構厚遇されてんだな。

 ってかサカグチさんそんなに貰ってたのかよ。今度……学食一緒に食べるときはおごってもらおう。


「で、そんな我々だが……昔はヴァチカンから散々な扱いを受けていた」


「散々な扱い?」


「一般的に聖騎士はドミニオンズの下部組織となっている。そして、今でこそ我々はそれなりの実力の聖騎士だが、当時は底辺の実力の聖騎士だったのだよ」


「……どういうことなんですか?」


 遠い目をして田中先生は軽くため息をついた。


「ヴァチカンは闇の社会では一大勢力を誇る。それは分かるな」


「まあ、ヴァチカンっつーくらいですからね」


「他にもアメリカの魔術結社や、中国の仙人協会……まあ、色々と勢力はあるのだ。そして、ヴァチカンは自己顕示欲が強いのだ」


「はい。それで?」


「香港の地下闘技場という言葉を聞いたことはあるか?」


「いえ、ありません」


「魔物や人間、あるいは人間同士を戦わせて賭け試合を行うという趣味の悪い施設だよ。ただし、闇社会では広告……いや、力の誇示の効果としてはそれなりのものとなる」


「自己の勢力の力を示す。デモンストレーションみたいなもん……ですか?」


 ああ、と田中先生は頷いた。


「そのとおりだ。だが、どこの勢力も本当の一線級は投入しない。デモンストレーション以上の益がないからな――我々でいえば埋葬師団や7天聖は絶対に出ない。もしも負ければ組織としての沽券に関わるからな。だが、仙人協会だけはガチな奴をそこに常駐させているのだよ。中国人は見栄っ張りだからな」


「なるほど」


「そうして、東方最強と呼ばれる仙人が地下闘技場に常駐していて常勝不敗の戦歴を築き上げている。ヴァチカンとしては面白い訳もない」


「それで?」


「ヴァチカンサイドとして……希望制でそれなり以上の実力者……例えば7天聖を目指すようなルーキーが仙人に挑戦したりすることはあるのだ。もしも最強の仙人を倒したとなれば組織としても個人としても相当なハクがつくからな。ヴァチカンとしても負けて元々なので失うものもない。で、そういった者が現れた場合は地下闘技場は盛り上がる。当然、掛け金も莫大な額となるわけだ。だが、ここで地下闘技場からの要求が生じるのだ」


「要求っつーと?」


「一晩で数百億単位で掛け金が動くビッグイベントだ。メインイベント1試合だけであればつまらないだろう? 格闘技イベントでも前座やセミメインといった風に興行が行われるている。まあ、それと似たようなものだ」


「つまりは、地下闘技場サイドとして、最強の仙人への挑戦権を承認する代わりにヴァチカンに前座試合の出場者を要求すると?」


 大きく田中先生は頷いた。


「そういうことだ。そうして、前座として底辺の聖騎士である我々が前座として白羽の矢が立った。相手はマンティコアと言うそれなりの強者の魔物だった。まあ……一方的なただの殺戮ショーだな。ただ、死ぬためだけに我々は地下闘技場に派遣されたのだ」


「でも、先生は生きていますよね?」


 先生は空を見上げて胸の前で十字を切った。


「正に神の思し召しだったっよ。マンティコアに殺されかけて、私たちは息も絶え絶えだった。血まみれの闘技場に――当時7歳のレーラ様が乱入してきたのだ」


「サカグチさんが?」


「ああ、彼女もまた当時はただの子供だった。マンティコアに抗えるはずもない。でも、姫は……『殺されるためだけに……奴隷を魔物の檻に放り込むなんて……そんなの酷いよ……辞めて……辞めさせてあげてっ!」と、泣き叫びながら我々とマンティコアの前に割って入ったのだ」


「普通に考えれば、サカグチさんもそこでお陀仏ですよね?」


「普通ならそうなるが、彼女はヴァチカンの奇跡認定局から天使として奇跡認定を受けていた。特殊な存在なのだよ……姫は。そうして、そこから先はてんやわんやの大騒ぎだったよ」


 そうして田中先生は遠い目をして優しい微笑を浮かべた。


「後から聞いた話だが、どうにも姫は、奴隷という言葉には色々と思うところがあるらしいな。そして、魔物による人間の殺戮ショーの見世物に……本当に思うところがあるようだ」


【スキル:頭脳明晰が発動しました。森下大樹の脳内でレーラ=サカグチと、記憶の中の――檻の中の奴隷の少女が……つながりかけました。もう少しで気づきそうです】


 神の声が聞こえたような気がする。

 が、まあ、それは今はまだ良い。


「そうして我々の命は助かり、姫預かりの聖騎士となった。それから我々は地獄の修練を経て、姫を守るにふさわしい力を得た……とまでは言わんが、そうあろうと努力を続けている。まあ、おかげさまでヴァチカンの中のドミニオンズのガーディアンズとしては超一流と呼ばれるレベルには達したよ」


「色々と先生とサカグチさんとの間であったんですね」


「そういうことだ。本当に姫は……心優しい御方だ。当時は誰に対しても腰が低くて、周囲の顔色を伺って……清楚と可憐……他人を立てて……まるで大和撫子を地で行くような性格だった」


 ん? と俺は首を傾げる。


「いや、あの人は今……一部のクラスメイトを奴隷にしてますよ? どちらかと言うと傍若無人を地で行くような感じですし」


「まあ、9年の間に色々あったのだ」


「色々の内容を凄く知りたいんですが」


 そこで田中先生は苦虫を噛み潰したような表情を作った。


「……私にもどうしてああなったのか分からんのだ」


「分からないって言うと?」


「本当に分からんのだ」


「参考までに聞きますが、彼女はどんな育ち方をしたんですか?」


「姫の身の回りの世話は我々がしていたので問題はない。学問も超一流の教育を受けてきたしな」


 そういえばアメリカで博士号とったんだっけ。


「身の回りの世話というとどんな感じの世話を?」


「そうだな……例えば姫の服の着替えも我々がしていた。姫は棒立ちで指一本動かさずにお着替え完了だ。そして、日傘も常に私が姫の為にさしていた。姫の美しい白肌を日焼けさせる訳にはいかんからな。それに、姫の歩む道に石ころやゴミが落ちていれば排除していたし、それは人間でも一緒だ」


「人間でも一緒?」


「……例えば、ご学友で姫に逆らう奴がいれば我々が容赦をせず、強制的に姫の奴隷にしたし……他にも姫が欲しがるのであればどんなものでも買い与えた。まあ、要するに、姫が白といえば黒いものでも白くなる。そういうことを我々はしていたのだ。つまり、我々は姫にとって最適な完璧な環境を整えていたはずだ。でも……どうして……あんな性格に……」


「大体お前らのせいじゃねーかっ!」


 ウルトラ過保護教育のせいであんな性格になったのか。

 なるほどと思いながら俺はため息をついた。


「で、先生? 俺に対する提案ってのは何なんですか?」


「ああ、そのことだな」


 先生は上下の赤ジャージをその場で脱ぎ捨てた。


 レースが過剰に施された赤色の下着に手足がスラリと伸びた純白の肌が露になる。

 素直に、非常に良い眺めだ。ってか、美人なのは当たり前として、体型がめっちゃ綺麗だ。

 俺はドギマギしながら先生に問いかけた。


「何故……脱ぐんですか?」


「さっき、先生にお茶を淹れてくれと言ったな?」


「はい、言いました」


「ならば、次は先生に挿れてくれということだ」


「えっ?」


「つべこべいわずに私を使えということだっ!」


「えっ!?」


「姫に手を出すことは許さん! だから――私を好きにしろっ!」


「えっ? どういうことなんですか?」


「まだ分からんと言うのかっ!? 姫を貴様のような輩に汚されるくらいならば私は進んで露払いをしようということだ! 貴様の薄汚い欲望の捌け口になってやろうということだ! 姫に手を出すことは許さん! だから――」


 そうして、先生は押し黙った。

 そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。



「代わりに私の穴を使え――森下大樹っ!」



「いや、先生の穴に俺……興味ありませんから」


 そこで、田中先生は絶句した。


「私の処女に――前の穴に興味がないだと!? まさか貴様……いきなり後ろから攻めるつもりかっ!?」


 あ、こいつアカン奴や。

 阿倍野先輩と同レベルの残念な思考回路や……。



「さすがの私も前は処女で後ろは済みという恥辱には耐えられぬ……まさか貴様がそこまでのHENTAIだったとは……」


 俺がゲンナリしていると、田中先生は諦めたように首を左右に振った。


「くっ……殺せっ……!」


 ハァーっと俺はため息をついた。


 残念なことに――



 ――騎士としてはお約束を完璧に演じてるじゃねえか……と。



「で、どうするのだ?」


「どうするもこうするもねーよっ!」


「くっ……」


 田中先生は深いため息をついた。


「それではやはり……3人プレイしかないということか……」


「3人プレイ? 一体どういうことなんですかっ!?」


「私が姫と貴様の初体験をサポートすると言っているのだ!」


「ハァッ!?」


 そこで顔を真っ赤にして、コメカミに青筋を何本も浮かべて、ワナワナと肩を震わせながら田中先生は叫んだ。


「本番以外の不要な接触行為は一切認めないからなっ! 絶対に指一本触れさせんからなっ! 良いな! これは先生との約束だぞっ!」


「何言ってるかサッパリ理解できねえっ!」


「何を言っているか分からないだと……? 貴様の薄汚い指と舌で姫が弄られるくらいならば……どうせ姫が汚れてしまうならば……それが避けられぬ定めであるならば……まず一番初めに……私に……汚れる前の——」


 田中先生は押し黙った。

 そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。



「――姫をペロペロさせろと言っているのだっ!」



「完全に意味わかんねえっ! 今すぐ病院に行け! 今すぐ――今すぐだっ!」


 うわァ……と俺は絶句した。

 こいつ――


 ――ガチのHENTAIじゃねーか…。



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