第55話新任教師
サイド:森下大樹
あの後。
俺とサカグチさんは全身を刀で斬られた。
サカグチさんは自動回復能力があるし、俺は勇者だから何とかなったが……滅多刺しの阿鼻叫喚だった。
全く、何を考えているんだあの女は。
普通の人間なら余裕で死んでるぞ。
その後、一方的にボコボコにされてブチ切れたサカグチさんが魔装化した。
ロンギヌスの槍を手に持ったサカグチさんと備前長船を手に持った阿倍野先輩は売り言葉に買い言葉で俺の部屋から飛び出して……夜の闇に消えた。
その後、何があったのかは良く分からないが、1時間後に阿倍野先輩から『誤解は解けたわ。ごめんなさいね』とのメールが来た。
しかし、あれほど烈火のごとくに怒り狂っていた阿倍野先輩をサカグチさんはどうやって鎮めたのだろうか。
まともな説得は通用しそうにないが……。
と、まあ、そんなこんなで朝のホームルーム。
いつものどおりのクラスメイトの面子に、いつものどおりの風景。
ただ一つだけ、違うことがあった。
「私が今日から新しくお前らの担任になった田中花子だ! 年齢は23歳で彼氏はいないっ!」
銀髪碧眼に赤ジャージ。
どこまでも白い肌に凛々しいブルーの瞳。
整いすぎた顔立ちに、鼻筋が日本人離れしたほどに通っている。
スラリと伸びた手足はこれまたやっぱり日本人離れしていて異次元レベルのスタイルだ。
「ちなみに実家は青森で生粋の日本人だっ!」
絶対嘘だろ!?
青森って銀髪碧眼のコーカソイドが普通に生まれたりするのか?
と、そこで俺は隣の席のサカグチさんに視線を送る。
すると、彼女はクスクスと笑っていた。
「サカグチさん?」
「ん? 何よ?」
「どうして笑っているんだ?」
「まあ、後で説明してあげるわよ。しかし……これはケッサクだわ。まるで昨日の阿倍野輝夜みたいね」
「昨日、あれから何があったんだ?」
「まずは阿倍野輝夜をボコって無力化したのよ」
「ふむ」
「そして裸に剥いて逆さづりにして――」
そこで俺は嬉しそうなサカグチさんを手で制した。
「大体分かった。それ以上は聞きたくない」
昼休み。
俺と阿倍野先輩は学校の中庭のベンチに腰掛けて昼休みを取っていた。
「お弁当美味しかった? 森下君?」
「いつもありがとうございます。美味しかったですよ」
「ふふ」
嬉しそうな阿倍野先輩を横目に、俺は鞄からデザートを取り出した。
プラスチックのカップに入った容器で、スーパーで買ってきたナタデココだ。
「あら? 森下君? 何を食べようとしているのかしら?」
「ナタデココですよ」
そこで阿倍野先輩は大きく目を見開いた。
「ナメテココですって? 始めてのペッティングが野外というのは流石の私も2の足を踏んでしまうわ」
「もう、良いからお前一回死ねよ」
「まあ、お願い自体は野外でなければウェルカムなのだけれど」
「ウェルカムなのかよっ!?」
「ええ。貴方がそれを望むなら」
ゲンナリとした俺は、ふと気になったので阿倍野先輩に聞いてみた。
「ところで阿倍野先輩は子供のときは魔法少女モノのアニメとかは見なかったんですか?」
「魔法少女?」
「そうです。魔法少女です」
子供ってアニメ見て育つからな。
先輩が子供の時に普通にアニメとかを見ていたのかどうかはすごい気になる。
「そりゃあ私だって魔法少女モノのアニメ位見るわよ。ファンシーでキラキラな感じの奴でしょ?」
「そうそう、それですよ」
「まあ、それは良しとして……ちなみに、私は札で術が使えるわ」
「そうですね」
「これって魔法少女みたいなものじゃないかしら?」
「まあ、そうかもしれないですね。高校生なので年齢的にギリギリも良いところですが」
「そうなの。高校生で魔法少女は無理があるわね」
「で、何が言いたいんですか?」
「つまり私は――魔法処女よ」
「やかましいわ!」
「いえ、少し違うわね。言い直すわ。つまり私は――」
阿倍野先輩は押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。
「――魔法処女ビッチよ」
「ファンシーさの欠片もねえよっ!」
「さて、それじゃあ散歩に出かけましょうか」
「散歩?」
「そうなの。私は食後血糖値が気になるお年頃なのよ」
と、まあ、そんなこんなで俺達は食後の校内の散歩へと出かけたのだった。
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