第43話 友達以上恋人未満 後編
「ええ、クラスメイトの委員長と一緒に映画を見ていましたよ?」
「あら、意外に素直に白状したのね」
その言い草に俺は若干イラっときた。
「白状って……まあ、別に俺は悪い事してませんし、隠す必要もありませんしね。そもそも今でも俺らは付き合ってませんし……別に委員長と俺が……明日デートしたって誰にも責められる筋合いにはありません」
若干不機嫌に阿倍野先輩は片頬を含ませた。
「それは確かにそうね。で、貴方はその委員長を気に入っているの?」
「まあ、嫌いじゃありませんよ。むしろ好みです。と、言いますか……好みの女の子じゃないと俺もデートはしたくないですし」
阿倍野先輩は片頬を膨らませながら――眉間に皺を寄せていく。
「で、それで貴方は……その委員長とかいうメス豚のどこが気に入っているのかしら?」
「メス豚……」
いかん、ちょっと阿倍野先輩に反抗的なセリフを吐きすぎた。
矛先が委員長に向かいつつあるので、俺は慌てて軌道修正を決意する。
「眼鏡ですよ」
「眼鏡?」
先輩よりも大きい胸という一番大事なファクターは隠しておく。
多分、それを言っちゃうと……火に油どころか、大火事にニトログリセリン的な大変な事になってしまう。
「ええ。昔から俺は眼鏡フェチ的なところがあるんですよ。まあ、そういうくだらない理由ですよ」
「……ふーん」
先輩はしばし何かを考えて、そしてコクリと頷いた。
「それじゃあジャンクフードも無くなったことだし、そろそろお開きにしましょうか」
そうして、その日は解散となった。
――翌朝。
待ち合わせた交差点で先輩と合流して学校に向かって歩き始める。
そして俺は先輩に恐る恐ると言う風に聞いてみた。
「先輩ってコンタクトだったんですか? それで今日はコンタクトを落としちゃった……的な?」
「いいえ違うわ」
「じゃあ、どうして眼鏡を?」
ニコニコと先輩は笑顔を作る。
「昨日……急に新しいオシャレに目覚めたの。そして帰り道に買ったのよ」
「……」
「無論、伊達眼鏡よ」
「……」
何という分かりやすい女なんだ。
オシャレに目覚めたとか言う理由で俺がごまかされるとでも思っているのかこの女は!?
「主な動機は――嫉妬よ」
杞憂だった。
どうやら全て分かった上での犯行らしい。
「で、どうなの森下君?」
「どうって?」
「似合っているかしら?」
ぶっちゃけ、似合っていない。
と、いうか基本的に俺は眼鏡を取れば意外に美人というギャップに萌える派だ。
先輩の場合は眼鏡をかけても普通に美人だ。
そして、先輩は眼鏡をかけると美人のランクが1ランク下がるタイプの顔だ。
つまり、普通に似合っていないという評価以外はできない。
ランランと輝かせた瞳で、犬ならば尻尾フリフリ状態で、先輩は俺の回答を待っているが――ウソは良くない。
ここは正直に答えておこうか。
「似合って無いですよ?」
阿倍野先輩の顔色が真っ赤に染まり、そして青色へと変わった。
顔中の血管が浮かび上がり、軽く白目を剥いている。
阿倍野先輩は眼鏡を取ってそのまま――地面に投げ捨てた。
パリンと眼鏡が割れて、阿倍野先輩は俺から5メートルほど距離を取って鞄から携帯を取り出した。
そして彼女が携帯を操作すると、俺のスマホが鳴った。
「ねえ森下君?」
「どうしたんですか阿倍野先輩? ってか、どうして携帯電話ごしなんですか?」
「――メル友に戻りましょう」
「え?」
「私は深く傷ついたわ。貴方が眼鏡が好きだというから眼鏡を昨日買ったというのに……私が今朝、どれだけウキウキだったか分かる?」
「そうだったんです……か」
「だから、メル友に戻りましょう。やはり友達になるには時期が早かったのよ。もう一度メル友から初めて徐々に慣らしていきましょう」
ああ、めんどくせえ。
本当に地雷女だなコイツ。
そう思いながら、どうしたもんかと俺は思う。
が、やはりここは変に取り繕うようりも素直な気持ちでぶつかるべきだと判断した。
「先輩は眼鏡は似合いません」
「まだ言うの? メル友すら辞めるつもりなの?」
「先輩は――素顔のままが一番綺麗です。とっても……美しいです。俺は先輩の素顔が好きです。だから眼鏡は辞めましょう」
「……好……き?」
「ええ、先輩の素顔が俺は好きです」
ガチャっと携帯電話を切って、俺に向かって歩いてきた。
そして彼女は両手を俺の右手に絡ませてきた。
いわゆる、腕組みの格好だ。
「さあ、学校にいきましょうか――ダーリン」
「ダーリンっ!?」
「ええ、行きましょう」
「噂になっちゃいますから腕組みは止めて?」
「私の心は盛り上がったのよ。今日だけは絶対にこれで登校するから」
「ってか、胸が右手にあたってんですけど?」
「当てているのだけど?」
「だろうと思ったよっ!」
――正直、この女は疲れる。
でも……最近はちょっとだけ可愛く思える瞬間もあるのだから、そろそろ俺もこの女に毒されてきたのだろうか。
と、まあ、そんな感じで俺たちは全校生徒の注目を浴びながら登校したのだった。
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