第42話 友達以上恋人未満 前編
学校帰りの森林公園。
俺と阿倍野先輩は森林公園にいた。
ハンバーガーショップからテイクアウトしたのはポテトとナゲット、そしてカップのコーヒーだ。
「ふふ……学校帰りにジャンクフードを食べながら公園で雑談なんて……まるで恋人みたいね」
「まあ、ハタから見たらそう見えるかもしんないですね」
「ふふ……」
嬉しそうに笑う阿倍野先輩だったが、彼女はコホンと咳ばらいをした。
そして真面目な表情を作る。
「さて、森下君」
「何でしょうか先輩」
「私たちの初体験の話をしましょう」
「毎度のことですがいきなりすぎますよっ!?」
そして毎度のように阿倍野先輩は狼狽する俺を無視して話を進める。
「そしてね、初体験のことなのだけれど少し待って欲しいのよ」
「待って欲しいと言うと?」
「私は経験が無いわ。今、一人で夜中に少しずつ慣らしているところなのよ」
「もうやめましょうよそういう話は……今後の展開で先輩が何かを予感して一人でそれに備えていたとしても、それは俺に言う事じゃないでしょうに」
「つまり私は――」
阿倍野先輩は押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。
「――拡張中なのよ」
「だから、何故にもったいぶった感じで言い直す必要があるんですか!?」
「でもね森下君。安心していいわ」
「安心……?」
「ええ」と阿倍野先輩は頷いて、言葉を続けた。
「ちゃんと破らないように気を付けているわ。だから安心して」
「そんな生々しい話聞きたくねえっ!」
「でも森下君?」
「何ですか?」
「これは私達の今後を考える上で大事な事なのよ。そう、これは……乗り越えなければいけない試練なのよ」
「っていうか、まだ俺はそういうことするつもりはありませんから、その部分を拡張しても意味がないですよ」
そこで阿倍野先輩はハッとした表情を作った。
「その部分を拡張しても意味がないって……まさか貴方……」
「何でしょうか?」
「前をほったらかして、いきなり後ろから掘ろうとするつもりなのっ!?」
「だからどうしてそうなるんですかっ!?」
「私も大概だという自覚はあるけれど……さすがに貴方には呆れるわ」
「アンタにだけは呆れられたくねえよっ!? ともかく俺はまだ先輩の処女を貰うとかそういうこと考えてませんからね?」
と、そこで先輩はコーヒーカップを手にもって蓋を取り外し始めた。
「ところで森下君――?」
「何でしょうか?」
「私は二人の初体験としか言っていないわ。どうして私の処女がどうこうという話になるの?」
「え?」
「二人の初めての砂場遊び作業の話をしていたのよ? 砂場で山を作って対面上……つまり、前と後ろから穴を掘ってトンネルを開通させるという遊びで……私が秘密裏に前の穴を拡張しているという話なの。どうして処女と言う言葉が出てくるのかしら? 全く……貴方と言う人間はどうしようもないド変態ね」
「変態と人をバカにしたいだけと言っても……流石にそれは無理やりすぎるぞ!?」
阿倍野先輩は俺の抗議をガン無視し、コーヒーカップに口をつけようとした。
「先輩?」
「何かしら?」
「砂糖とミルクはいれないんですか?」
「あら、森下君はお子ちゃまなのね?」
「っつーと?」
「ミルクと砂糖を入れるなんてお子ちゃまのすることよ」
それだけ言うと阿倍野先輩は涼し気な顔でコーヒーを一口飲みほした。
そうして、軽く頷いてクールな顔でこう言い放った。
「――とても苦いわ」
「素直に砂糖入れろよっ!」
涙目になりながら阿倍野先輩は俺の忠告に素直に従って、コーヒーに砂糖とミルクを注いだ。
「うん。美味しいわ」
「最初からそうしておけよな……」
俺がため息をついていると、パンと阿倍野先輩は掌を叩いた。
「ねえ森下君?」
「何ですか先輩?」
「私達も友達以上になったんだし、そろそろ阿倍野先輩と森下君と言うのもあんまりじゃない?」
「まあ、そりゃあそうかもしれないですね」
「そろそろ呼び方を変えましょうよ」
「良いですよ。先輩は俺にどういう風に呼ばれたいですか?」
しばし考えて、阿倍野先輩はクールな微笑を浮かべながらこう言った。
「輝夜にゃん……って呼んでもらいたいわ」
「え? 何だって!?」
阿倍野先輩は押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。
「――輝夜にゃん」
「せっかく聞こえないフリをしてあげたのに――何故にもったいぶった感じで言い直しちゃうんですかっ!?」
「ちなみに貴方の事は今後はダイキにゃんと呼ばせて貰うわ」
「呼ばないでくださいっ!?」
「ところで森下君?」
「結局ダイキにゃんって呼ばねーのかよ!?」
「そうよ。呼ばないわ。で、貴方……九尾と戦った日……」
「また急に話が変わりますね……で、何でしょうか?」
「――女の子とデートするとか言っていたわよね?」
と、阿倍野先輩は俺に突き刺すような氷の視線を向けてきた。
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