第40話 それが私の勇者様 前編
サイド:レーラーサカグチ
そして数日後。
「これで入金は完了」
阿倍野輝夜はスマフォを弄ってコクリと頷いた。
「ネット口座に15億。確かに入金を確認したわ」
私はゴルフバッグに入れられた日本刀を受け取ってため息をついた。
「どうしたの? レーラ=サカグチ? 目の下にクマができているわよ?」
「ちょっと寝不足でね…………ここ数日でヴァチカンを往復して、日本に戻ったと同時にこの商談でしょ?」
「あら、貴方も色々大変なのね」
「まあ、そんな感じで私は帰らせてもらうわね」
――森下大樹が九尾を倒した翌日の朝。
学校で出会った瞬間に私が森下大樹を屋上まで拉致しようとしていた日のことだ。
それは、突然のヴァチカンからの電話だった。
「ハァ!? イタリア……ヴァチカンへの急な呼び出し!? 私には今日……大事な用があんだけど!?」
「ご存知の通り、ドミニオンズの量産成功で……アメリカとの関係は急速に悪化していて……貴方達と、そして正式部隊である十字軍と……暗部である埋葬師団を含めた、全ての主戦力を含めた所の緊急会議でございます」
「そんなことは知らない! 私は今日……下手すれば人生で一番大事なイベントがあるのよ!?」
「レーラ様……それがヴァチカンの意思でございます。会議への欠席は、下手をすれば……ヴァチカンへの造反と取られかれない行為ですよ?」
しばし私は押し黙り、ヴァチカンからの使いへと尋ねた。
「本当にどうにもなんないの? 私一人くらいいないくても……」
「主戦力の全参加。それが――ヴァチカンの意思でございます」
再度、私は考える。
恐らく、ここで欠席してしまえば……教会における私の居場所は相当に危うくなる。
今回のコレは、恐らくそういうレベルでの――緊急招集だ。
「……分かったわ。でも、用事が終わればソッコーで私は帰るかんね?」
「それについてはご自由に」
そうして私はヴァチカンへ向かい、深夜の成田にトンボ帰りした。
電波がつながるようになると同時に阿倍野輝夜からの電話があって、商談につかまったという訳だ。
阿倍野輝夜との商談を終え、盗品の現物をヴァチカンからの使いに引き継いだ。
それから2時間くらい経って、明朝とも言える時間になった頃にスイートポテトができあがった。
私が住んでいるのはスイートルームなので簡単なキッチンもついているんだよね。
で、まあ、再会の話をするのにいくらなんでも手ぶらで……ってのはどうかなと思ったのだ。
あ、そうだ。お気に入りのダージリンティーを魔法瓶にも入れて行こう。
ふふ。アイツは一体どんな顔でこのスイートポテトを食べてくれるんだろう。
想像すると、思わず私の頬は緩んでしまった。
そうなのだ。
今日――屋上で私とアイツは……ティータイムと洒落こんで、スイーツ片手に昔話を語らなくちゃならないんだ。
そして、これからの事もじっくりと語り合う必要があるんだからね。
『今度生まれ変わったら……お嫁さんにして……くれるかな?』
遠い日の子供心の約束。
アイツは確かに『ああ。約束だ』と言ったんだ。
だったら……私も今後の身の振り方について、色々と考えなくちゃならない。
そうして、朝7時。
私は鞄にスイートポテトとダージンリティーの入った魔法瓶を詰め込んだ。
いつもよりも何故だか朝の空気が清々しく、草花が生き生きとして見えた。
教室に辿り着いた私は一目散にアイツの席に視線を移す。
「まあ、まだ……時間……早いもんね」
今は朝の7時20分だ。
無論、私が一番乗りで……教室は誰もいない。
自分でも浮かれすぎだろうとは思うけど、やっぱり……気持ちが逸るのは仕方ないじゃん?
8時前になって、チラホラとクラスメイト達が席についていく。
8時20分になって、ほとんどのクラスメイト達が席につく。
そして――8時半。
――登校時間を過ぎても、アイツは現れない。
と、そこで私の耳に近くの男子たちが大声で噂話をしているのが聞こえてきた。
「マジだよ! 見たんだよ俺!」
「阿倍野先輩が高級喫茶店で森下と飯を食ってて、そのまま二人でどこかにシケこんだって話か? 相手は阿倍野先輩だぜ? 森下なんて相手にされる訳ねーだろ」
「いや、でもあの二人……この前一緒に飯食ってたろ? ありえない事じゃねーんじゃねーか?」
「そういわれてみれば……」
と、そこで私は吹き出しそうになった。
アイツは私の『今度生まれ変わったら……お嫁さんにして……くれるかな?』と言う問いに『ああ。約束だ』と答えたのだ。
だから、アイツが阿倍野輝夜ごときに篭絡されるようなことはありえないと私は断言できる。
「しかし本当に……どうしてアイツは登校してこないのかしら?」
そうして時間は流れてお昼休みの時間。
クラス内がざわついていたので私は何事かと窓際に視線を向ける。
「おい、マジかよ……?」
「うわァ……」
男子たちが悲壮な表情で通学路を眺めていた。
「ちょっとアンタ等? 何が起きたって言うの……って……えっ!?」
お昼休みに登校と言う大遅刻をやらかしているのに、全く悪びれる様子もなくゆっくりと歩いている男女の姿があった。
そう、そこにはまるで恋人のように手をつないで通学路を歩く阿倍野輝夜と――
――アイツの姿があった。
そうして教室に入ってくると同時、私は思いっきりに不機嫌に森下大樹を睨みつけてこう言った。
「ちょっとアンタ? 大事な話があるから屋上まで顔を貸しなさい?」
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