第35話 VS九尾の狐 その10
「くそ……くそっ……くそっ……っ!」
九尾は半泣きで俺を睨み付けてきた。
「どうしてこうなるのじゃ? 何故にこうなるのじゃ!? 我は神じゃぞ!? 人間ごときに……っ!」
「たかが人間ごときを舐めすぎた。ただそんだけの話だろうに」
「くそ、くそ……くそくそくそくそおおおおおおっ!」
と、そこで九尾は不敵に笑みを浮かべた。
「ふふ、しかし……ぬしは運が良いの?」
「運が良い?」
「我の仕掛けた先刻の罠……人質を取れなかったのは結局はただの結果論じゃ。ただ、運命の天秤がぬしに傾いただけ……頭脳までを入れた実力では我とぬしは拮抗しておった」
言葉と笑みとは裏腹に顔がひきつっている。
恐らくはこれが神としての最後の矜持なのだろう。
いや、言い換えるのであれば強がりか。
「運……ね」
と、そこで俺もまた九尾に向けて不敵な笑みを浮かべた。
「やはりテメエはマヌケ野郎だな?」
「マヌケじゃと? 都合良く魔装天使が復活し、都合良く生贄の娘が透明化のスキルを見破る術を所有していただけじゃろう?」
「だからテメエはマヌケなんだよ」
「どういうこと……なのじゃ?」
しかし本当に神の声は優秀だ。
先刻発動したスキル。
・スキル:索敵が発動しました
・スキル:気配察知が発動しました
・スキル:戦況把握が発動しました
これが無ければ本当に不覚を喫していたかもしれない。
いや、九尾の言うとおりに運頼みになっていたかもしれないな。
「つまり、俺は全てを読みきっていた。お前が展開させていた狐の分体も、透明化の土蜘蛛も最初からその存在は知っていた。そしてその二つの仕掛けを――彼女たちが完璧に対処できるところまでな」
まあ、阿倍野先輩がテンぱって自死を選ぼうとしたのは確かにキモを冷やした。
が、それ以外は全て完璧に読みどおりだ。
「そんな……馬鹿……な……?」
「負けるべくしてお前は負けたんだよ。完膚なきまでにな」
「もうおしまいじゃ……くそ、くそ……くそくそくそくそおおおおおおっ!」
九尾はその場で跪いて、ぐったりとうなだれる。
「と、いうことでそろそろ終わりにさせてもらうぞ?」
「ぐっ……ぐっ……ぐううううううっ! 終わりじゃ……もうおしまいじゃあああああ!」
跪く九尾に向けて俺は拳をゆっくりと振り上げた。
【スキル:身体能力強化が発動しました】
【スキル:勇者の一撃が発動しました】
【スキル:龍闘気が発動しました】
【スキル:力溜めが発動しました】
【スキル:鼓舞が発動しました】
【スキル:肉切骨斬が発動しました】
いや、だから神の声よ。そんなにスキル要らんから。
俺はこれでもかと拳を握りしめ、腰だめに拳を構える。
そして。
タメてタメてタメてタメてタメて――
「――と、諦めたように見せかけてえええええええっ!」
九尾が急に立ち上がる。
そして九尾の魔力が今までとは桁違いに膨れ上がった。
「ふははっ! 予想通り油断して無駄にタメと隙の多い攻撃を選んだようじゃなっ! これが我の最終手段……魔闘法じゃっ!」
九尾の右拳に渾身の魔力が集中していく。
おそらく、この技はMPの全てを攻撃力に変換する魔力撃の類だ。
正に捨て身の一撃で、瞬間的に言えば、攻撃力を10倍に増幅させることも可能だろう。
んでもって、九尾は最速のルートで左ストレートを俺に当てることができるポジショニングだ。
対する俺は振りかぶってタメにタメてタメてタメての状態だ。
最初の一撃の当てっこをするにして、スタートダッシュは九尾のほうが圧倒的に優位なのは間違いない。
100メートル走で言えば、俺はスタート地点からで、九尾はラスト40メートルのところから走り出すようなものだ。
「これで幕じゃっ! 人間よっ! 我の方が攻撃は早いっ! そして我の最後の一撃――流石に無傷とはいかんぞっ!」
「確かにお前のほうがスタートダッシュでは有利だけど……でも、まあ、間に合っちゃうんだよな」
なんせステータスが桁違いだ。
幼稚園児との100メートル走ハンデ戦をやったとしても、まあ、普通の大人は負けないだろう。
「なぬっ!?」
クロスカウンター。
いや、大分違うか。クロスカウンター気味のアッパーカットが九尾に炸裂した。
けたたましい轟音と共に九尾は垂直方向に向けて猛烈な速度で打ち上げられていく。
「1000メートルは打ちあがったか」
正にホームランってところだな。
そんでもって俺は先ほどのタメの時間で既に魔力の練成を終えている。
つまりは、勇者しか扱うことのできない禁忌の技が使用可能となっているのだ。
「極大魔法――雷神一閃(トールハンマー)っ!」
俺の掌から雷属性のエネルギー粒子砲が空中に向けて放たれる。
響き渡る爆音と轟音。
200メートル半径の大爆発が空中で発生する。
手ごたえは十分で、確実にまともに食らわせたはずだ。
と、なれば最早……九尾の存否の確認の必要はないだろう。
そうして俺は軽くため息をついた。
「九尾の狐の……最後の一撃……魔闘法か」
そうして塵のレベルまで粉々に吹き飛んだであろう、トールハンマーの爆心地に向けてファックサインを作った。
「まあ……不意打ちでクリティカルで決まれば……普通の日本人が柱のカドに頭をぶつけた程度のダメージは食らってたかもな」
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