第17話 勇者 VS 拳銃 後編

 ――あ、これはやっちまったっぽい。




 と、俺は銃口を向けられながらため息をついた。


 まあ……こうなっちまったんだから仕方ねえな。


 そうして俺は犯人を睨みつけて、拳をボキボキと鳴らした。



「ゴミにゴミっつって何が悪いんだよ」


「クソガキが。この拳銃が目に入らないのか? 女の前だからってカッコつけても何も得にはならんぞ?」


 勝ち誇った表情でニヤリとオッサンは笑った。


「ああ? 拳銃が目に? そんなデカいもんが目に入る訳ねえだろ。頭膿んでのか?」


 俺の言葉で、再度クラスメイト達がギョッとした表情を俺に向けた。


「おい、ガキ? 子供相手には俺も撃たないとでも思ってんのか? 俺は既に7人殺してるしこの学校でも3人撃ってるんだよ?」

 

 そう言って男は片目をつむって両手で拳銃を持った。

 照準を合わせているらしく、最低限の銃器の知識はあるらしい。


「狙いは頭だ。おい、ガキ? 名前を教えてくれねえか?」


「名前?」


「俺は寝る前に殺した連中の名前を思い出してニタニタするのが趣味なんだよ。俺に人生を奪われた善良な奴らの顔と名前を思い出したら本当に笑えるんだよ」


 完全なサイコパス野郎だな。

 これは一刻も早く刑務所に送り返す必要がある。


「森下大樹だよ」


「そうか。覚えたぞ。それじゃあサヨナラだ――」


 パンと軽い音が鳴り響き、クラスメイト達がビクリと背中を震わせた。

 

【スキル:体術が発動しました】

【スキル:見切りが発動しました】

【スキル:明鏡止水が発動しました】

【スキル:反射神経強化が発動しました】


 撃ちだされた弾丸を視認。軌道も完全に分かる。

 この程度の初速なら見てからで十分対応できる。

 っていうか、普通にまともに食らってもこのくらいの口径ならノーダメージだろう。

 重機機関銃とかなら流石にダメージ喰うだろうけど、豆鉄砲で俺はどうこうできない。

 まあ、この場合は世間体の事もあるので、ジャック犯が拳銃を外してしまったということにさせてもらう。

 俺はほんの少しだけ頭を横にして、銃の弾を避ける。

 そして、スクールジャック犯に向けて駆け出した。


「なっ」


 あっと言う間に俺はスクールジャック犯に詰め寄った。

 そしてスクールジャック犯の顎に向けて左フックを放つ。

 カスっと気の抜けた音がして――脳を揺らされたスクールジャック犯はその場で倒れた。



「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 クラス内が静まり返る。

 みんなの視線が痛い。ああ、やっぱりこれは絶対に面倒くさいことになるぞ。

 さあ、どうするか……と考えていた時、サカグチさんが俺に尋ねてきた。


「アンタ……今のは……?」


 俺はしばし考えて、考えに考えて――口を開いた。


「いや、俺……合気道とか……やってるから」


 自分でも非常に無理がある言い訳だとは思う。

 けれど、何も言わないよりはマシだ。



「……」

「……」

「……」

「……」

「……」



 やっぱりクラスのみんなの無言の視線が痛い。

 ああ、もうどうにでもなれと思ったその時――


「合気道っ! 東洋の神秘の武術ねっ!」


 レーラ=サカグチが感嘆の表情で大きく頷いた。


「まさかアンタが神秘のマーシャルアーツマスターだとは思わなかったわっ! 最初に不思議な感じがしたのも阿倍野輝夜が一目置いているのもそういうことなのねっ!」



 何やら一人で納得した感じのサカグチさんは一人でうんうんと頷いている。

 あっちゃあ、こいつ絶対……アメリカ映画とかの超人忍者を信じちゃってるパターンだな。

 合気道も妙に神格化してるんじゃなかろうか。


「ドレイ達! そしてクラスのみんなっ! スクールジャック犯を撃退した合気道の達人を――胴上げよっ!」


 サカグチさんのドレイ達6人が俺を取り囲んで胴上げを始めた。


「ワッショイ! ワッショイ! 森下ワッショイっ!」


 続けてクラスの普通の男子たちが俺に駆け寄ってきた。


「そうか! 森下は合気道の達人だったんだな! スゲェ!」


「マジで合気道半端ねえ!」


「スゲエ! マジすげえ! 合気道すげえ!」


 そうして次にクラスの女子たちが駆け寄ってきた。


「森下君! ありがとう! 合気道! ありがとう!」


「すごいわ! マジで合気道半端ないわ!」


「わっしょい! わっしょい! 森下わっしょい!」


 みんなに胴上げされながら俺は思った。


 お前ら……どんだけ素直なんだよ、騙されやすいんだよノリ良いんだよ……でも――




 ――馬鹿でいてくれて……ありがとう








 そして警察の事情聴取とかを終えて下校の途中。

 俺の目の前に金髪ツインテールのチビ女が現れた。


「合気道の達人……拳銃の弾丸も難なく避けてしまう……まったく、想定外の男がクラスメイトにいたものね」


「あ、避けたのは分かったんだ」


「輝夜に色々聞いてるとは思うけど、私も素人じゃないからね」


 そして、胸を張りながら、ヴィシっと右手人差し指を俺に向けてきた。


「ともかく、アンタは私の師匠になったんだからねっ!」


「師匠!?」


「私にも合気道教えなさいよね! 私の力に東洋の神秘のマーシャルアーツが加われば鬼に金棒よっ!」


「え……?」


「まずはアンタの電話番号とメールアドレスを渡しなさいっ!」


 おいおい勘弁してくれよ。

 この珍獣は何を言っているんだ。


「いや、でもさ……」


「アンタが私に合気道を教えるのは……私が定めた世界の真理の決定事項よ! これから……アンタの周りを色々付きまとうから覚悟しなさいよねっ!」


「お……おぅ……」


 俺は肩を落とし、ドン引きしながら思った。


 ――マジで中2ワールドの住人って……ラノベのヒロインみたいな感じなんだな。


 そんでもって実際にやられるとマジでうざい。

 半端なくウザい。

 巨乳美女ならヤンデレでなければまだ許せるが……貧乳にこれをやられるとマジでうざい。


【スキル:精神攻撃耐性が発動しました】


 ありがとう神の声。

 これほどありがたいスキル支援はないぜ。帰ってきてからポンコツとか言ってごめんな。

 俺の相棒はお前だけだよ。


「良いから電話番号とメールアドレスを教えなさいっ!」


 ゲンナリとしながら、メモ帳にアドレスと電話番号を書いてサカグチさんに渡したのだった。







 


 そして時刻は日暮れ。


 阿倍野家の血で血を争う生存競争――祭りが始まった。









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