第16話 勇者 VS 拳銃 前編

 ――翌日。

 登校中に、カバン持ちの男子生徒と日傘をさしている男子生徒を引き連れたレーラ=サカグチが俺に語り掛けてきた。


「ちょっとアンタ! 阿倍野輝夜とはどういう関係なの?」


「その前に俺は何故にクラスメイトの田中君がお前の鞄を持っていて、何故にクラスメイトの関口君がお前の為に日傘をさしているかが非常に気になるんだが」


 俺の質問に金髪碧眼ツインテールのチビ貧乳であるサカグチさんは、推定Aカップと言うか……ほぼ平らな胸を張った。


「こいつらは私のドレイよ」


「ドレイ?」


「日に一発の平手打ちを報酬に私の日々の小間使いをさせてあげているのよ。ちなみに私の気が向けば踏んであげているわ」


「すまんお前が何を言っているのかサッパリ分からない」


 そういえばこの前……誰かが足置きなっていたな。

 俺は田中君と関口君に視線を向ける。


「お前らはそれで良いのか?」




「「我々の世界ではそれはご褒美ですからっ!」」




 至福の表情でそう言われてはこちらも押し黙るしかない。 

 まあ、幸せそうだからそれで良いか。

 

「それでどういう関係なのよっ!」


「うーん……」


 しばし考えて俺はどう説明したもんかと悩んだ。

 そして悩んだ結果――


「メル友って奴かな」


 まあ、こう説明するしかないだろう。

 

「じゃあ、輝夜とはそこまで親密な関係ではないってコト?」


「ああ、そうなるな」


 そもそも知り合って数日だしな。

 と、そこでサカグチさんは平らな胸を張って、ヴィシっとばかりに右手人差し指で俺を指さした。


「そんな訳はないわっ!」


 自信満々の表情に俺はちょっとだけたじろいだ。


「どういうことなんだ?」


「昨日私は……輝夜と話をしたのよっ! ちなみに私と輝夜は仲が悪いわっ!」


「仲が悪いと言う心の底からどうでも良い情報をありがとう」


 まあ、この前見かけた時にサカグチさんは阿倍野先輩にファックサイン作っていたしな。 

 彼女は外国の退魔組織に所属していて、その所属組織が非常に各国の退魔組織から評判が悪いらしい。

 とにかく悪・即・斬的に世界各国に勝手に退魔師を派遣して、現地のパワーバランスやら何やらを考えずに狩って狩って狩りまくる。

 そして妖怪やら幽霊やらが少なくなったらニコニコバイバイよろしく去っていくという話だ。

 現地の組織には現地の組織なりの理屈をもって退魔活動をしていて、人間については中立を保っている妖怪なんかもいたりする話だ。

 でも、こいつらはそんな事はガン無視して、散々に現地を荒らした挙句に後始末もしない内に帰っていくと言う。


 まあ、一言で言えばジャイアニズムが半端じゃない連中という話だ。


 サカグチさんのクラス内での男子生徒に対する傍若無人な振舞からしても、阿倍野先輩の言っている事は嘘ではないだろう。


「どうでも良い情報って……何よその言いぐさはっ!」


「で、阿倍野先輩と昨日話をしてどうだったんだ?」


「あの女は……輝夜は……貴方をピチクソ野郎って言ってたのよっ!」


「ん? どういうことだ?」


「あの女が……男子をピチクソ野郎と表現するなんて……最大限の賛辞なのよっ!」


 そういえば『キミの力を認めて少しデレたのよ。ビヂグソからピチクソにランクアップしたわ。喜びなさい』って言ってたな。

 

 って、あの人――


 

 ――本当にデレてたのかよっ!



 これでデレてるとかマジで意味わかんねーよ!

 だれか俺に……阿倍野輝夜と言う珍獣についての取り扱い説明書を……授けてくれ……。


「いや、本当に何もねーよ」


「でも……そんなわけが……」


 そうこうしている内に俺たちは学校に到着したのだった。








 で、朝のホームルームが終わって1時間目の授業も終わって――


 ――クラスがジャックされました。


 自分でも何を言っているのか分からないが、俺もどうしてこうなったのかがサッパリ分からない。

 ともかく、拳銃を持った男が高校に侵入してきたのだ。

 そういえば今朝のニュースで7人を殺した連続猟奇殺人犯のサイコパスが脱獄したって言ってたな。

 阿倍野さん曰く、妖怪が異常発生すると頭がおかしくなる人が増えたり、元々頭のおかしい人が肉体的にパワーアップしたり行動的になったりするらしい。

 非常に迷惑な現象だが、多分それが原因で連続殺人犯がハッスルしちゃったんだろう。

 っていうか、異世界から帰ってきてからイベント起きすぎるだろ。

 こんなに色々と立て続けに起きるってギャルゲやエロゲの世界だけだぞ……。

 ともかく……と、俺は周囲を見渡した。

 男子が教室の後方の壁際に一列に立たされていて、女子は教壇の前に一列に立たされている。

 そうして、教壇の上には拳銃を持ったTシャツにGパン姿の40代のオッサンときたもんだ。 


「さて……どうしたもんか」


 とりあえず、現在の状況を説明すると――



 10時30分。

 まず、40代半ばの男性が校門に現れて管理作業員さんの目に留まる。

 そして管理作業員さんが話しかけた所で、男は銃をぶっ放した。

 足を撃たれた管理作業員さんはその場に倒れて、男はダッシュで校舎に侵入。

 不審に思った体育教師が男を制止しようとして肩を撃たれて、そして俺たちの教室にスクールジャック犯が乱入してきたということだ。

 そうして男は英語教師の腕を撃って、倒れた教師を教室から蹴って外に出した。

 全員がすぐに病院に運ばれたようだし、俺の見立てではまず間違いなく命に別状はないだろう。


 ――が、クラス内の状況は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


 クラスを恐怖のどん底に叩き落としたジャック犯は笑いながらこう言った。


「俺はどうせ死刑になる。それだったら……女子高生相手に最後に……楽しんだってバチは当たらねえ」


 物凄く分かりやすいスクールジャックの理由だった。

 これは早いところ何とかせんと大変なことになるな……。

 と、思いつつも、なんせ相手は拳銃を持っているのだ。

 ここで俺が下手に動くと色々と不味い。

 基本的には警察の介入を待つということにして、クラスメイトの貞操が危なそうならすぐに俺が動く。

 いや、その前にサカグチさんが動くと言うセンもある。

 ともかく、クラスに実害が出るまではここは日和見か……そういう風に俺は方針を決めた。


「男子生徒は教室の後ろでそのままだ」


 女子生徒たちは怯えた表情で俺たちの方を振り向いてくる。

 そうして、ジャック犯はまるで品定めでもするかのように――右から左へとゆっくりと上から下までそれぞれの女子生徒に舐めつけるような視線を向ける。

 男が興味を示したのは、爆乳眼鏡の委員長と、そしてイタリア育ちのフィンランド人であるところのサカグチさんのようだった。

 顔でいけばフィンランド人。

 胸でいけば委員長だろうか。

 いや、委員長も十分美人なんだけどな……。

 そうして男は教壇に立ち、女子生徒に向けて言った。


「良いか? 今から数時間……この教室では俺は絶対者だ。まずはメスガキ共は全員ブレザーの上着とブラウスを脱げ」


 清々しいまでのクズだな……だが、ここはまだ俺の動く所じゃない。

 ここでこいつを殴り倒すのは簡単だが、その後の事が面倒だ。

 やはり、ギリギリまでは警察を待つのが最善手だろう。

 言われるがままに、女子生徒たちは震えながらブレザーとブラウスを脱ぐ。

 と、ブラウスを脱いだ委員長の――下着だけとなった爆乳がブルンと揺れた。

 そこでジャック犯は舌打ちをした。

 と、言うのもブラウスを脱がない生徒がいたのだ。


「何故脱がない?」


「逆に言うけど、どうしてこの状況で私が脱がなくちゃいけないの?」


 ファックサインを決めていたのはイタリア育ちのフィンランド人だった。

 

 男とサカグチさんはしばし睨みあい――


「まあ、お前は乳が無いから良いよ。最初から守備範囲外だ」


 一部男子から強烈な溜息が聞こえてきたがそれは聞こえなかった事にしよう。

 そして、乳が無いと言われたことはサカグチさんもショックだったみたいで……っていうか、怒っているみたいで青筋も顔に幾つも浮かべた。

 が、そこでサカグチさんは首を左右に振って小声で何かを呟いた。


【スキル:地獄耳が発動しました】


「ここで目立たない方が良いわね。警察の介入を待つのが最善手……」


 くっそ……使えねえ。

 普段から無茶苦茶やってんだからお前は多少は目立っても問題ねーだろ。

 とりあえず、サカグチさん任せにして事件の解決は見込めなさそうだ。


「おい、お前」

 

 男に呼ばれて委員長はビクっと背中を震わせた。


「……は、は、はいっ……!」


「まずはお前からだ全部脱げ」


 委員長は顔面を蒼白にして、その場でへたりこんだ。


「全部脱げってだけで……ショックを受けられても困るんだがな」


 男は下卑た笑いを跪いている委員長に向けて浮かべる。


「……です」


「ん? 何て言ったんだ?」


「嫌……です」


 男は跪いた委員長の顔面に向けて……横蹴りを放った。


「きゃっっ……!」


 委員長は横倒しに蹴り倒され、男は委員長の髪を掴んで引きずり起こした。


「いいか? 他のメスガキ共も見ておけ。この教室では俺は絶対権力者なんだ。俺に逆らったらこうなる――」


 と、そこでサカグチさんの足が動こうとして――




「いい加減にしろよ生ゴミが」




 サカグチさんが一歩踏み出す前に、俺の言葉が出た。

 ってか……くっそ、サカグチ……やる気あるんだったんならもっと早くから動けよ。

 タッチの差で俺が先に動くことになっちまったじゃねえか。


「ハァ? 生ゴミ? 誰に向かって言ってやがんだ?」


 クラス全員がギョッとした視線を俺に向ける。


 ――あ、これはやっちまったっぽい。




 と、俺は銃口を向けられながらため息をついた。


 まあ……こうなっちまったんだから仕方ねえな。


 そうして俺は犯人を睨みつけて、拳をボキボキと鳴らした。





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