第15話 私……輝夜。今――

 その日の夜11時半。

 阿倍野先輩から電話がかかってきた。


 ちなみに、メル友といいつつ、ほとんどメールをせずに、日に一度の午後11時半からの電話を強制させられているのが現状な訳だが……。


「こんばんは森下君」


「こんばんは……」


「突然だけど貴方に尋ねたいことがあるの」


「尋ねたいこと?」


「ステータスウィンドウのことなんだけれど……」


 ステータスウィンドウは、ゲームをやったことのある人なら少し弄ってみれば何となく全部分かる親切設計のはずだ。

 だから俺はその場で半ば説明を放棄して帰宅したわけだが……。


 ちなみに、今日は母ちゃんのカレーだったので、どうしても門限の20時までに帰る必要があったのだ。ウチの母ちゃんは門限を破ると飯を出してくれないと言う鬼仕様の母親だから……。


 と、それは良しとして……。


「何かわからないことでもあるんですか? ゲームはやったことはあるんでしょう?」


「むしろ、レトロゲーが大好きなゲーマーですが何か?」


「じゃあ、どうして分からないんですか?」


「スキル取得について良く分からなかったのよ」


「レベルアップや魔物討伐で手に入れたスキルポイントを割り振って、スキルを取得して強化するだけですよ?」


「違うのよ。何を取れば良いのかが分からないのよ。こういうのにはセオリーがあるでしょ? 私はゲーム関係は効率厨なのよ?」


 ああ、そりゃあそうか。

 スキルポイント系って無限に手に入るゲームは少ないし、実際に無限には手に入らないからな。

 そりゃあ使用するには慎重にもなる。


「索敵を取ってみたらどうでしょう?」


「索敵?」


「とりあえず……何だか良く分からないんだけど阿倍野先輩は数日おきに、夜な夜な異常発生した下級霊やら下級妖魔やらを追い掛け回して殺しまわっている訳でしょう?」


「ええ、そうよ」


「それで親戚同士で狩った順位で勝敗をつけて、家督争いだか遺産相続争いやらをしている訳でしょ? だったら、敵をすぐに察知できた方が良いんじゃないでしょうか? それに索敵は基本中の基本スキルで汎用性も高いですしね。俺も勿論持ってますし」


 実際、寝込みを襲われたりの際に危険察知と並んで役に立つスキルだ。

 と、言うか併用して使うスキルだな。

 

「分かったわ。とりあえず索敵を取得してスキルポイントを強化に全振りしてみるわ」


 レベルアップが1上昇する際に得る事のできるスキルポイントは10だ。

 スキル取得に5消費して、スキルレベルが1なら強化にポイントが2、スキルレベルが2なら強化にポイントが5といった具合に必要ポイントが上がっていく。

 ちなみにスキルレベルが5以上になると、そこに加えて今までのスキルの使用頻度と回数に応じた熟練度も必要になってくる。

 従って、そこから先は、そうはポンポン上がらない。


 逆に言うと、レベル5までならポンポン上がるという事でもある。


「……取得してみたけど……凄いわね森下君。正直……自分で引いてしまうわ」


「何でしょうか?」


「……家の中の大体の状況が手に取るように分かるようになったわ」


「その気になれば俺は半径2キロ圏内分かりますよ」


「……異世界って物凄いのね」


「俺も含めて地形破壊できる奴がゴロゴロいますからね」


「……なるほど。あら、もうこんな時間。私はこれからステータスウインドウを暫く弄ってから寝るわね。それじゃあおやすみなさ――」


「ところで先輩?」


「何かしら?」


「別に俺は見返りを期待して先輩に色んな事を教えたり、実際にオークを出したりした訳じゃないんですけど……」


「何が言いたいのかしら?」


「一言くらい……何かあっても良いんじゃないでしょうか?」


 俺がイレギュラーな存在であることは極力、人に知られたくはない。

 実際、こっちも危ない橋を渡っているのだ。

 中2世界の実存で、テンパってしまっていたのは確かにあるけれど、何やら困っているらしい阿倍野先輩を助けるべく、色々とやっている訳だ。


 別に本当の事を言わずとも、適当にあの場でごまかすという方法をも俺にはあった。

 でも、俺はそれをしなかったのだ。それをクソ野郎とかボロカス言われて、正直……良い気はしない。

 さすがにここいらでガツンと言っておかなくてはならないだろう。


 そこで電話口から溜息が聞こえた。


「ねえ、森下君?」


「何でしょうか?」


「私はゲームが好きなのね。そして昔に……隕石衝突で滅亡間際の星を駆けずり回りながらモンスターっぽい動物を狩って集める的なゲームがあったのね。時代設定は近未来だったかしら……とりあえず、人間が他の星に移住することになって、滅亡する星に住む動物達をオスとメスを一対ずつ集めて種の保存を……みたいな設定だったはずよ」


「……はい。それで?」


「銃器だと威力が強すぎて殺してしまうので捕まえられないって設定だったかしら。それで、基本は肉弾戦なのね。狩った動物を加工して武器にしたり、食肉にしたり、あるいは町でそれを売ったりね。希少動物で条約に認定されている動物は普通の街では売れなかったり……けれど、アングラマーケットでは普通に売れたり、他にも動物の腹を捌いて内容物を取り出す的な事もできたわ」


「結構ダーク寄りなゲームなんですね」


「そうよ。そして希少動物なんかは数が捕まえられないから、オスとメスのセットを預けて性欲を異常刺激するホルモン注射を打って強制繁殖させるような施設もあったわ。季節が廻れば繁殖が成功していればかなり数が増えているとか……そんな感じだったかしらね」


「……で? 何が言いたいんです?」


「超レア動物で……主人公の隣の家の優しいおじいさんとおばあさんの夫婦がいるんだけど、実は人間に擬態している動物だったのよね。ゲームの終盤で『小さいころから知っている主人公になら捕まえられても良い。連れて行ってくれ』って自首してくるのよ」


「良い話じゃないですか」


「そうよ。そして……私はその夫婦を速攻で、性欲を異常刺激するホルモン注射を打って強制繁殖させるような施設に――――送ったわ。それはもう速攻即決即断だったわ」


「酷えなオイっ!」


「そして季節が廻った後……結構……数は増えてたわ」


「老夫婦頑張ったな!」


「つまり……私はそういう女なのよ」


「どういう女なんだよ!」


「……素直になれないお茶目さんなのよ」


「その結果……老夫妻は性欲を異常刺激するホルモン注射を打って強制繁殖させるような施設に送られた訳か」


「つまりね……森下君」


「どういうことだい? 阿倍野先輩?」


「素直にお礼なんて……絶対に私が言う訳がないという事。ああ、そうそう、そういえば2日後には狩りがあるので、明後日は電話はできないわ。でも安心して、明日の11時半には電話できるから。それじゃあ――おやすみなさい」







 翌日。

 学校では特に事件も起きず、珍しく平和な一日を過ごすことができた。

 そんでもって俺は母ちゃんの晩飯を食って、風呂に入ってリビングでニュースを見ながらウトウトして……。


 そして目が覚めると11時55分だった。

 11時半を過ぎている……と、ハっとした俺は自室で充電している携帯のところにダッシュで向かった。

 

「予想通りだ……大変な事になっている」


 俺は青ざめた表情で携帯の液晶をマジマジと眺める。




 ――着信184、留守番メッセージ3

 



 とりあえず、どうしようもないので留守番メッセージの再生を行ってみた。


『もしもし? 私……輝夜。今、商店街を歩いているの』


 そうして次の留守番メッセージを聞いてみる。


『もしもし? 私……輝夜。今、森林公園を歩いているの』


 そうして、次の留守番メッセージを聞いてみる。


『もしもし? 私……輝夜。今、駅前の交番を通り過ぎたところなの』


 これは……と俺は絶句する。

 間違いなく俺の家に近づいてきている。



 ってか、完全にホラーじゃねーか!



 と、そこで携帯が鳴った。

 俺は玄関に向かうと共に携帯を通話モードにした。


『もしもし 私……輝夜。今、貴方の家の前にいるの』


 電話を切って、俺は玄関のドアを開いた。


「どうして……ウチまで来たんですか?」


 阿倍野先輩は半泣きになりながら――涙目で……鼻声で……鼻水をまき散らしながらこう言った。




「だ、だ、だって…………電話にででぐでながったがらっ!」

 



 そうして俺は、それから近くの公園で30分間阿倍野先輩に説教をされた。

 何故に説教されたのかは自分でも分からない。

 っていうか、何が起きているのか正直、意味が分からなかった。


【スキル:精神攻撃無効が発動しました】


 正直、神の声がいなければ俺はその場で発狂していたかもしれない。

 ってか、無効系のスキルって……ガチな時に発動するので俺の心はマジでエラいことになっていたんだと思う。


 まあ、無効スキルのおかげでノーダメだったけどな。

 



 と、まあ、そんなこんなで、いよいよ明日は阿倍野家の夜の大運動会ということだ。

 一応、結果が気になるので俺もこっそりゲスト席で観戦させてもらう予定だ。

 

 




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