第5話 勇者 VS ヤンキー 後編
「異世界ですが何か?」
「何を言ってやがるんだお前は……?」
俺は村島のお付きの宮迫に近づき、その右手首を軽く掴んだ。
「おい、おまっ……!?」
「よいしょっと」
少しだけ力を入れて捻ると、ポキリと枯れ木のような音と共に宮迫の手首が粉砕された。
ありえない角度で曲がってプラプラと揺れる自分の手首を見ながら、宮迫はすっとんきょうな声を挙げた。
「ハァ……? なんだこりゃ……?」
そして数秒間、宮迫は更に自らの手首を凝視し――
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
どうやら、あまりの事に痛みに気付くのに時間がかかったらしい。
宮迫はその場に倒れこみ、地面をのたうち回りながら悲鳴を上げ続ける。
「おい森下お前――グビュっ」
更に村島のお付きの中田のアゴにデコピンをお見舞いする。
アゴ骨を粉砕すると同時に意識を刈り取ったようだ。
「おっ、おっ、おっ、おま、おまえ……何しやがった? 何が一体どうなってやがる?」
残った村島は立て続けに二人やられたことと、互いの戦力差を正確に理解したようだ。
半狂乱になりながら大声で叫びながら金属バットをその場で振り回している。
金属バットを振り回す威嚇にどれほどの意味があるか……まあ、ともかく村島の顔色は青白く、瞳の色は完全に恐怖に染まっていた。
俺は怯える村島へ向けてゆっくりと一歩を踏み出した。
「来るな! 来るな! 来るな来るな来るな!」
「つれないこと言うなよ。毎日毎日……放課後は俺とお前ら3人はベッタリだったじゃないか。毎回毎回お前らに呼び出されてさ」
村島の繰る金属バットが俺の脳天にクリーンヒットした。
カコンと金属音が森の中に再度響き渡り、村島の口元に笑みが浮かんだ。
「おい、お、お、おま、おまあおまおまああああああああああひびあか、ああ、ああ、ああああああああああああああ!」
とうとう恐怖の余りに村島は叫びだしてしまった。
金属バットの直撃を受けても微動だにせず、笑みすら浮かべている俺を目の当たりにしたんだから……まあ、当然と言えば当然だろうか。
逆の立場なら、こんなの俺でも怖い。
「ってことで、金輪際俺に関わってくれるなよ?」
村島の腰を両手で持って、高い高いの要領で持ち上げる。
そして俺はただ村島を上方へ向かって放り投げた。
15メートルほど村島は上空へ放り投げられ――そして落下軌道へと移行する。
「あびゅっ!」
叫び声と共に村島は地面に打ち付けられて、そのまま意識を失った。
足から落ちるように調整したし、骨は確実に何か所かイっていることは間違いないだろう。
「さて、これで全員気絶したな……まずは回復魔法だ」
俺の掌に緑色の粒子が包む。
ちなみに、俺は中位回復魔法まで使えるので四肢欠損くらいまでなら瞬時に回復できる。
内臓グチャグチャになっちゃうと……治せるとは断言できない。
姫さんの持ってる完全回復魔法なら即死以外なら何でも治せるんだけどな。
と、俺は瞬く間に倒れる3人の怪我を回復させた。
「お次は記憶操作だ」
精神混乱魔法の上位魔法である洗脳魔法を応用すれば記憶操作も可能だ。
とは言っても、せいぜいが直前20~30分頃までの、まだ脳に完全には定着していない記憶を操作する程度しかできないので、何でもかんでもって訳にはいかない。
まあ、この状況をごまかす分には申し分ないだろう。
勿論、記憶操作の際にこの3人が俺に抱いた畏怖と恐怖までは消さない。
これからこいつらは、何だか良くわからないが俺に手を出すとヤバいとだけ感じてくれるようになるはずだ。
「はァ……本当に面倒くさかった」
こうして俺は村島達との過去の因縁を断ち切って、新生活を営むことになるのだった。
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