第4話 勇者 VS ヤンキー 前編
朝のホームルーム前。
「おい森下ァ……? 昨日はどんな手品を使いやがったんだ? 急にどこに消えちまったんだよ?」
金髪の歯抜け――不良グループのリーダー格の村島が俺の席の前で仁王立ちを決めた。
「ちょっと……遠くにな」
しかし、見れば見るほどアホ面だ。
金髪、ゴリラ顔、マッチョ、歯抜け。
身長が大きいから威圧感はあるが、龍種の威圧スキルに比べると屁でもない。
昔はどうして俺はこんな奴が怖かったんだろうな……。
しかしこいつ、意外にホクロ多いな。あっ……鼻毛も出てるじゃん。
笑いをこらえていると、村島はポンと俺の肩を叩いた。
「まあいいや、今日の夕方は旧校舎体育館裏に集合だかんな」
「断ると言ったら?」
言葉を受けて村島はニヤリと笑った。
「ははっ、こいつは面白い。断るって……お前でも冗談を言うんだな。まあ、来なかったらボッコボコだ」
「分かったよ。仕方ねえから今日は付き合ってやる」
まあ、こんな連中とこれ以上俺は付き合うつもりは毛頭ねーし、付き合ってやるのは本当に今日だけだがな。
そして夕方。
――殴る蹴るの暴行だった。
村島、中田、宮迫。
金髪、茶髪、青髪ピアスの三人トリオは俺を好き放題に殴っている。
代わる代わる順番交代でかれこれ30分――ことの始まりは俺が「もうイジメはやめろよな」と、村島に言ったことが原因だ。
そうして逆上した村島はリンチという手段を取ったという訳だ。
と、その時、俺の後頭部に全力の右ストレートが飛んできた。
おいおい、こいつら本当に馬鹿なんだな。下手したら障害残る箇所だぞ……。
ゲンナリしながら俺は抵抗もせずに打撃を受けてあげた。
というか、これは打撃と言っても良いのだろうか。
攻撃であるから打撃な訳で、俺にとっちゃこいつらの全力パンチなんて春のそよ風と変わらない訳で……。まあ、そんなことはどうでも良いか。
「おい、森下?」
村島が俺の学生服の胸倉を掴んできた。
ボタン取れたらどうすんだよこのゴリラ。
若干イラっとしながら俺は村島を睨みつける。
「なんだよ?」
「お前もこれ以上は殴られたくないだろう?」
殴られるというか、お前らの為にこれ以上時間を使いたくはねーわな。
「まあ、そういうことだな」
「だったら土下座しろよ土下座」
よっしと俺は心の中でガーツポーズを決めた。
30分の暴行だけではイマイチインパクトに欠けると思ってたんだよな。
内心ニコニコしながら、俺は苦渋の表情を作った。
そして――
「す、す、すいませんでした」
俺は3人の前で土下座を決めたのだった。
更に嬉しいことに村島は土下座する俺の頭を右足で踏んづけるという行為までしてくれた。
しめしめ、これは数え役満だ。
翌日の夕方――
「すいませんでしたああああ!」
学校の応接室で、教師たちの見守る中、村島と中田と宮迫と、それぞれの両親……総数9名が俺に土下座していた。
「いやいや、皆さん……頭をあげてくださいよ」
俺の言葉で一同は頭をあげた。
その表情が緩んでいることから、彼らの心に希望の光が差し掛かったことが見て取れる。
「それじゃあ……許していただけるので?」
村島の父親の言葉に俺はニコニコと満面の笑みで応じた。
「ごめんで済んだら警察要らないっていう言葉……聞いた事無いですか?」
ソファーに腰をかけながら俺は天井を見上げて何やら思案するフリをする。
ちなみに、昨日のイジメの一部始終はデジカメで動画撮影していた。
そんでもってUSBメモリに移した動画を、手紙を添えてそれぞれのご自宅に送り付けたってのが現在の状況の原因だ。
手紙には、警察への被害届を提出予定であることと、民事訴訟における依頼予定弁護士のプロフィールを添えておいた。
つまりは、とことんまでやるっていう意思表示を行った。
そして現在の状況――
――こうかはばつぐんだ!
実際問題、こんな連中は瞬殺でボコボコにしても良かったんだけど、弱い者イジメは好きじゃない。
かといって、なあなあで終わらせるってのも違う気がする。
ってことで、ここは一度社会のルールってのを認識してもらった方が青少年の育成上都合がよろしいだろうという判断で今回の方法を採用した訳だ。
「とは言え……村島君たちも反省しているようですし、今回だけは法的手段を取らず、学校側の停学処分だけで手打ちということにしましょうか」
――翌日。
街を歩いていた俺は拉致された。
信号待ちで歩道で待っていたら、ハイエースが近くに停車した。
中から2人の覆面の男達が現れて、そのまま俺は羽交い絞めにされて担がれて……車内に引きずり込まれたのだ。
車内に入ると同時、アイマスクと風邪マスクをつけられてその上からガムテープで目をグルグル巻きにされた。
まあ、為すがままにされてやってんだけどな。
運転手は中田で俺の隣に座っているのが宮迫、そして後部座席に村島だろうか。
しかし……暴走族とつながりがあるとは聞いていたが、まさかこいつらがここまで頭が悪いとは思わなかった。
「へへ、森下ァ? やってくれたな? 退学という最悪の状況はどうにか免れたが……今後は警察だの裁判所みたいな冗談を言いださないように……恐怖と痛みでキッチリと調教してやるからなっ!」
おいおい拉致監禁傷害だぞ……。
しかも退学が最悪の状況って……下手せんでも今回のこれは余裕で少年院行きだ。
まさかこの馬鹿、自分が警察の厄介になるなんてファンタジーの世界か何かだと思ってやがんのか?
そうして車を走らせること30分くらいは経過しただろうか、車のエンジン音が止まったところでドアが開いて俺は今度は引きずり降ろされた。
「おい、森下ァ? アイマスクを取ってみろよ?」
言われたとおりにガムテープを外して、俺はアイマスクを外した。
「……森の中か」
金属バットとナイフで武装した3馬鹿トリオが下卑た笑みを浮かべていた。
「森下。お前はやりすぎちまった……今からお前は……ナイフも使ったところで痛めつけられるんだ。お前……ナイフで切られたことはおろか、見た事すらねえだろ? へへ、切られるとな……痛いじゃなくて熱いんだぜ? 日常生活では中々できない珍しい経験ができて良かったな?」
いや、そんなことを教えていただかなくても、俺はナイフどころかベルセ〇クのガ〇ツの大剣ばりの物凄いので、背中を切られたことありますが。
と、そこで宮迫が金属バットを振りかぶって俺の脳天めがけて打ち下ろしてきた。
おいおい、と俺は苦笑する。
普通の人間だったら障害が残るか……下手すりゃ死ぬぞと。
仕方ねえな……と俺は覚悟を決める。
穏便にすましてやろうと思ってたが、流石にここまでの馬鹿相手に遠慮することはないだろう。
【スキル:体術が発動しました】
また勝手にスキル発動しやがった。こんなことは異世界ではあまりなかったのにな。
異世界の時よりもこっちの方が神の声は新設設計なのだろうか。
まあ、ともかく、別にこの連中相手にスキルのサポートは要らない。
打ち下ろされる金属バットの刀身に対して俺は真上へのアッパーカットで迎撃した。
カキィーンと夏の甲子園でお馴染みの心地良い金属音が森に響き渡る。
まあ、俺の拳をボールとすると、金属バットのフルスイングにジャストミートしたということだな。
衝撃を支えきれずに宮迫がバットの柄から手を放し、クルクルとバットは回転しながら天高く打ち上げられた。
「拳で……バットを弾いた? あんな……高くまで?」
呆気に取られた3人はバットの上昇軌道と落下起動の一部始終を見届けた。
そして、落下したバットを見て、村島が口をパクパクと開閉させる。
まあ、そりゃあそうだろう。
金属バットが直角に折れ曲がっている光景を目撃するなんて、日常生活では中々できない珍しい経験だろうからな。
「お、お、おま……森下ァっ!」
「何だよ?」
「そういえば一昨日殴りまくった時も……今考えればお前はダメージを受けた様子は無かった」
「実際ダメージゼロだしな」
「それに……停学の件だって……お前は大人しい性格で……本来ならあんな手段はとらないはずだ。お前が変わったのは……一昨日の……消えた時からだ。そうだよ! あの時から何か変なんだ! おい、お前! あの時……何があったんだ!? どこにお前は消えたんだ!?」
「頭悪い割には勘は良いみたいだな。んでもって、俺があの時どこに消えた……か」
そして、しばし言葉をタメた後、俺は村島に言い放った。
「――異世界ですが何か?」
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