第2話 スキル:鑑定眼を、現代日本の高校で使用してみた

 夕方から時間が少し経って、今は日没間近といったところの時間か。

 場所はやっぱり旧校舎のトイレの個室内だ。

 どうやら俺が転移してからこちらの世界では2時間程度しか経っていないらしい。

 トイレの個室から出て、数歩歩いたところで俺は―― 



「うおおおっ!」



 と叫んでしまった。

 トイレの鏡に映った俺の見た目は――――


 聖剣エクスカリバー。

 英雄の盾。

 覇王の鎧。

 龍血のマント。


 

 そんな感じで異世界全開の服装なのだ。



「ビックリするくらい学校のトイレに似合わないな」



 自分でもドン引きしながらマジマジと鏡の中の自分を見つめる。


 うん。

 やっぱり現代ではビックリするくらい……この格好は色々浮いている。

 場所がトイレだからなおさらそう感じるのもあるんだろうが・・・。


 そこで、俺はひょっとすると今までの色々は全て夢だったんじゃなかろうかという気持ちになってきた。そしてひょっとすると、今ここにいることすらも夢なんじゃなかろうか・・・と。


 まずは、右手をグーパーしてみる。

 うん、ちゃんとグーパーできる。


 次に、頬をつねってみる。

 うん、きちんと痛い。


「どうやら夢ではなさそうだな」


 そこで俺は、ふと気になったので言葉に出して言ってみた。


「ステータスウインドウ表示」


 ヴォンっ!

 異世界の時みたいに、薄い板みたいなウインドウ画面が空中に現れた。


 おお! 出た! 

 しかし……異世界では全く気にならなかったけど、ステータス画面は学校のトイレでは違和感半端ないな。


「まあ、とりあえず今は何時なんだろうか。後、本当に日付も俺が転生した日なんだろうな?」


 ふと、トイレの窓から新校舎――俺たちが普段使っている校舎の方に目を向ける。


【スキル:遠視レベル10(MAX)が発動しました】


 おお! 神の声も健在かっ!

 ってか、スキルも普通に使えるんだな! 

 200メートルほど先の、隣の新校舎の教室の黒板と時計を見るに、今日の日付は4月23日で時刻は午後6時となっている。

 うん、どうやらバッチリ俺が異世界転移した日付だ。

 好きなアイドルの誕生日だったから日付はちゃんと覚えているんだ。



 さあ、とりあえず服装を何とかしなきゃな……と俺はそこでふと思った。

 スキルが使えるならアレもできるんじゃないか……と。


「スキル:鑑定眼レベル10(MAX)を行使」


 鑑定したのはトイレの鏡だ。



・鑑定結果 

 縦90センチ横50センチの鏡。

 品質は異世界基準では最上級。

 この大きさでこの品質の鏡であれば、そもそも世に出回るようなシロモノではない。

 値段のつけようがないシロモノであり、幾ら金貨を積んでも買えるものではない。

 が、現代ではホームセンターに行けば簡単に手に入る汎用品である。

 なお、この製品はニトリで買われたものであり、お値段は2,980円となっている。

 ちなみに、お値段以上の品質であることは言うまでも無い。


「すげえな! 何でそんな小ネタまで知ってんだよ鑑定眼!」


 ってか……鑑定眼を初めて使った時は異世界モノっぽくて感動したんだけどなァ……。

 やっぱり現代で使ってしまうと、ビックリするほどファンタジーっぽくないというか場違いというかしっくりこないというか。


 まあ、それは良しとして服についてだ。

 このまま外に出たら一発で不審者として通報されてしまう。

 スキルときて神の声とくれば、当然これも使えるはずだ。


「アイテムボックス召喚」


 ヴィンっという効果音と共に1メートル四方程度の大きさのアイテムボックスが出てきた。


「よしよし、やっぱりこれも使えるんだな」


 アイテムボックスとは文字通りに四次元ポケット的な道具で、MPに依存する容量の異次元空間に荷物を保管できる優れものだ。

 まあ、異世界のお約束というやつで、俺のMPは勇者だから相当に高い。

 重量で言うと10トンくらいは余裕で入るんじゃないかな。


 アイテムボックスを開いて、ゴソゴソと中身を物色する。


「うっし。保存しといて正解だった」


 学生服ゲットだぜ。

 無論、俺が転生した時に着用していたものだ。

 異世界に辿り着いて2日目にはアイテムボックスに入れていたものなんだけど……。


「鑑定眼レベル10(MAX)を行使」


 気になったので鑑定眼を使ってみた。

 鑑定眼のスキルを取る前にアイテムボックスに保管してそのままだったから学生服を鑑定したことなんて無かったんだよな。



・鑑定結果

 公立春日部山高等学校の標準サイズの学生服である。

 黒の詰襟という至極オーソドックスなタイプであるが、所有者の体臭が繊維に移り、脇部分と股間部分が悪臭(微軽度)に汚染されている。


「やかましいわっ!」


 俺の言葉を受け、鑑定結果に次の一文が追加された。


『ちなみに、微軽度の汚染とはマジマジと嗅いでみても気付くか気づかないか程度であり、日常生活に支障はないので心配する必要はない』


「ひょっとしてこれってフォローされてるの!?」


 何とも言えない気分になりながら俺は学生服に袖を通す。

 ちなみに脇を臭ってみたけど、鑑定眼の言う通りに匂いはほとんどしなかった。



 ――そして。

 学生服を着用し、異世界装備をアイテムボックスにしまった俺は家路へとついたのだった。

 ちなみに、異世界では不老の効果があるエルフの飲み薬を飲んでいたので俺の見た目にほとんど変化はないから、そこについては心配していない。








 結論から言うと母ちゃんのカレーは美味かった。

 色んな思いがこみ上げてきて、ちょっと泣きそうになってしまった。

 でも、俺は男だから何とか……こらえることができた。


 そうして風呂に入った俺は自分の部屋に戻ったんだけど……数年ぶりだとやっぱりちょっと変な感じがするな。


「部屋はそのままか……」


 数年ぶりとは言え、勝手知ったる我が部屋だ。


「確かこの辺りにあったよな……」


 ベッドの下の紙箱を取り出して、俺は箱の中からエロ本を取り出した。

 俺もやっぱり男だし、モンモンとしたモノは溜まってしまう。

 女の二人を連れての旅だったからな。

 相手もいないというか俺は童貞だし、一人で発散しようにも、変な現場を見られるとあの二人に幻滅されてしまう。だから、そっち系の処理は本当に困ってたんだ。


 と、ベッドの上でエロ本のページをめくろうとした時――


【スキル:鑑定眼レベル10(MAX)が発動しました】


 えっ!? 神の声っ!?

 ってか、勝手にエロ本に対して鑑定スキル発動かよっ!



・鑑定結果

 コミック:週間パックンチョ

 週間エロ漫画雑誌の中ではメジャー雑誌となっている。

 10万部の発行部数を誇り、定価は648円(税込み)。

 ハード系から純情系、お姉さんものからロリものまで幅広い作品をカバーしており、いかなる性癖の男性にも実用的である。

 ただ、汎用的に各ジャンルをカバーしている為に、専門誌に比べるとマニア向けの需要を満たすには物足りない。


 所有者:森下大樹 

 使用回数32回



「マジですげえな鑑定眼!」



 まさか使用回数まで書かれているとは思わなかった。

 さすが……鑑定眼レベル10は伊達じゃないってことか。










 ――そして俺はスマホを弄りながら深夜2時まで時間を潰した。

 スキル:気配察知を行使して家族全員が寝静まっている事を確認して窓を開く。

 そう、俺はこれから外に出て――確認しなければならないことがあるのだ。



「このステータス……この世界では実際のところどれくらいの力になるんだろう」






名前:ダイキ=モリシタ

種族:ヒューマン

職業:勇者

状態:通常

レベル:78

HP :6455/6455

MP :120/1850


攻撃力:4650

防御力:3209

魔力 :2700

回避 :2824


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