第148話


「……対象の完全消失の遂行を希望する」


「ああ、任されたぜリリス。行くぞ、コーデリア!」


「うんっ!」


 既に相当落下し、外なる神は頭上百メートルに迫ってきている。


 二人で空に向けて跳躍。


 一直線に、文字通りの破壊の権化に向けて剣を振りかぶる。


 先に俺、少し遅れてコーデリア。


 俺のエクスカリバーに、コーデリアのヒノカグツチ。


 ――共に神殺しの属性を持つ剣だ。この剣なら……神を冠する最悪の生物兵器にも攻撃は通る!


 しかし……と、全身に風を受けながら思う。



 ――龍王、劉海、マーリン。そして……リリス。


 結局、人に頼ってばっかりじゃねーか。一人じゃ何にもできやしねえ。


 いや、俺の悪い癖だ……それで良いんだよな、コーデリア。


 人は一人で生きちゃいけない。


 だから、誰かを頼り、頼られて……。


 互いに支え合い、互いに困難に立ち向かい、そしてみんなで馬鹿なことばっかりやって、大騒ぎして、腹を抱えて笑って。


 一人じゃ、そんな当たり前の日常も暮らせやしねえ。


 なあ、そうだよな? それで良いんだよな、コーデリア。


 そうして俺は落下途中の外なる神に向けて、神速の突きを放とうとした。


 飛行能力の無いこいつは、ただ落下するだけの木偶の坊だ。故に、回避などはできる道理もない。


 と、そこで……俺は……身を捻ってソレを避けた。


 ソレは、外なる神の口から放たれた熱線。


 レーザー光線と表現するのが一番近い。ともかく、それを避けたと同時――


 ――地面で終末とも思える光と爆音が轟いた。


 光の中で、瞬時に防御障壁を張るが、それでも体表がガンガン焼かれていく。


「おいおい、直撃してねえのにコレかよ」


 間違いなく、マーリンのビッグバンよりヤバい奴だ。


 やはり、尋常ではない。

 宙に浮かばせている間に決めないと、勝機は無いな。


 と、剣を握りしめ……俺は絶句した。


「エクスカリバーが……」


 折れる、いや、刃の根元付近で溶けていた。


 先ほどの熱線はエクスカリバーを微かにかすめ、そして……このザマということらしい。


 やべえな。これじゃあ攻撃手段が無い。

 俺の状況を察したコーデリアは――


「足場(エアーステップ)!」


 魔法で足場を作り、空中で加速。

 すぐに俺を追い越して、外なる神へ一直線に。


 ――ヒノガグツチ


 国産みの神を焼き殺したとされる、神の名前を冠した炎の剣。


 武器は申し分なし、そして、先ほどの熱線を出したことから外なる神に大きな隙も生じている。


 そもそもが飛行能力もなく落下するだけの相手、見る限り、コーデリアの攻撃は当たるはずだ。


 ――でも、コイツの膂力じゃ致命打にはなりえない。


 だから、俺は――


「リリスっ!」


 言葉が聞こえたかどうかは分からない。だが、意思はきちんと通じた。

 っか、何で分かるんだよ。


 ――はは……うん、本当にお前は最高の相方だよ。


 直下にできた足場(エアーステップ)を使い、更に思い切りに跳躍する。


 先行したコーデリア。

 その背中に回り、俺は背後から抱きしめるように両手で彼女を包み込んだ。


 そして、剣を握るコーデリアの掌を、その上から俺の両掌で優しく――けれど力強く握る。


 二人で剣を持ち、そして、大上段に構える。



 ――俺は勇者になんてなりたかったわけじゃない


 ――世界を救いたかったわけでもない


 ――ただ、こいつを守る力が欲しかった


 ――結果として、それが世界を救うことになっただけだ


 俺だけじゃダメ。


 コーデリアだけでもダメ。

 

 二人で一緒に――剣を振るうっ!


「さあ、一緒に世界を救おうぜ! コーデリア!」


 外なる神まで残り数メートル。


 ――間合いに入った


 そして、俺とコーデリアは同時に咆哮した。


「「いっけえええええええ!」」


 大上段から、上方に向けての打ち下ろし。

 脳天から股までを一直線に剣が突き進む。

 そして――



 ――両断された外なる神はそのまま地面に落下



 その場にボトリと落ち……その後動くことはなかった。



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