第147話

 ――背面に林、前面に荒野。



 方舟地上部のドームを眼前に俺たちは待ち構える。


 そして――それは来た。


「俺様ちゃんの長い人生、遠目には実物を見たことは何度かあるが、ここまで間近で見るのは初めてだな」


 さて、外なる神の見た目は……体長二メートルの光り輝くちょっとした巨人ってところだ。


「……人間とほとんど変わらない」


 と、リリスの言葉に劉海が応じた。


「魔人と基本構造は同じだからな。人間の遺伝子を戦闘仕様に特化させて、俺様ちゃん達とは次元が違うレベルのナノマシンで完全武装させている。それが旧世界を滅ぼした生物兵器の正体って訳だ」


「で、どうすんのよリュート?」


「アレの絶対防御は対物理障壁に対魔法障壁、そして物理魔法混合障壁。都合三層となる」


「だから、具体的にどうすんのって聞いてるんだけど?」


「元々、完全状態のアレの討伐は可能性の一つにあった。当然、対策も考えてある。つまり――やることは最初から決まってる」


 龍王、マーリン、劉海、リリス。

 四人に一人ずつ視線を送り、そして俺はギュっと拳を握る。


「アレは地上兵器で、空を飛ぶことはできない」


「うん、それで?」


「上空に打ち上げてしまえば陸に上がった魚と一緒で何もできない。なら、宙に浮かんでいる間に――龍王、劉海、マーリン、そしてリリスのそれぞれの渾身の一撃で防壁を抜く」


 そうしてパンと掌を叩いた。


「で、ラストは俺とコーデリアで一刀両断だ!」


 そのまま全員が外なる神に対して駆け出した。


「……一気に畳みかけるぞっ!」


 あらん限りの大声で最後の指針を全員に伝える。


「対魔法障壁は龍王! 対物理障壁はリリスっ! 混合障壁は劉海とマーリンだ! 任せたℤぞっ!」


 そうして俺は龍王にアイコンタクトを送った。


「高く高く打ち上げてくれっ!」


 言葉と同時に龍王が巨大化――龍化する。

 体高10メートルってところで、本当にちょっとした怪獣だ。

 そうして龍王は外なる神の懐に首を潜り込ませて――



「龍帝咆哮(エンペラー・ジェノサイド)」



 上方へ向けての、龍の長の咆哮。


 物理攻撃属性のブレスが外なる神の対魔法障壁を砕いた。

 そして、物凄い速度で上空に外なる神が打ち上げられていく。

 打ちあがった距離は目測千メートルというところだ。そして、外なる神が地面に落ちてくる前に、全てを決める。


「――次!」


「うむ。既に練り上げておる……準備万端という奴じゃ」


 マーリンの全身に静かなる蒼の炎が宿る。

 ビリビリと側にいるだけで感じる圧倒的な破壊の波動。

 炎は杖へと流れ、そして一点へと収束していく。


「思えば……長い付き合いだったな。まあ、最後の最後にテメエとセットてのも悪くはねえか」


「ああ、そうじゃな。魔法学院のヒヨコの時から一緒じゃからな……」


 そうして二人はニコやかに右手を挙げて、パシンとハイタッチを交わした。

 続けざま、落下途中の外なる神に向けてギロリと鋭い眼光を放った。


「お次は魔法と物理のハイブリッド防御術式。物理でも抜けねえし、魔法でも抜けねえっ! なら、どうするか――!」


「こうするのじゃっ!」


 マーリンはその場に屈み、劉海の背中に魔法を放つ。


「大爆破(ニュークリア―バースト)!」


 爆発魔法で加速度を得て、上空に打ち上げられたマーリンは外なる神に向けて渾身の右ストレート放った。


「俺様ちゃんが殴ったところで――」


「禁術:|創造の原初(ビッグ・バン)っ!」


 大爆発。

 否、超爆発。

 流石に爆発特化の本家本元の魔界の禁術使いはリリスの比じゃねえな。


「これぞ物理と魔法の二重構造――奇跡の人間大砲! はははーっ! 本当に仙術は最強だZEEEE!」


 そこでコーデリアと俺、互いに同じ師を持つ二人は肩をすくめた。


「もう、あの人達は本当に何でもありの無茶苦茶ね。ってか、どうして師匠にビッグバン効いてないの?」


「知らなかったのか? あのクソジジイ……魔法が効かないんだ」


「……マジで?」


「ああ、信じがたいことにマジらしい」


「もう、本当に何でもアリね。ところで……アンタは半年くらいで逃げ出したんだっけ?」


「学ぶことは学んだから消えただけだ。一緒にいたら暑苦しいしな」


「私はアレと一年よ?」


「……そりゃあご愁傷様」


 そうして俺達は顔を見合わせて笑ったのだった。




 サイド:リリス



「……二層の防御術式の消失を確認。次は任された」


 体内の魔力は既に錬成されている。

 後は、最終確認を終えて、トリガーを引くだけ。ただそれだけだ。


 ――結局、私は……マーリン様にも劉海にも力では私は足元にも及ばない


 でも、それで良い。

 私はリュート=マクレーンの右腕。任せられたのは一番突破が容易な最後の壁――対物理防壁。


 だけど……これは要。

 私がしくじれば全ては水泡と帰す。


 ならば、リュートの右腕として、この一撃を任させる程度の力があればそれで良い

 故に、与えられた仕事は滞りなく完遂しよう。


 ――だからお願い、父さん。力を貸して


 額の第三の目が開く。そして父さんの声が頭に響いてきた


 ――リリス?


 ――父さん?


 ――辛い恋をしているようだね。父さんには赤髪の女の子の方に分があるように見えるよ?


 ――ふふ


 ――どうしたんだい?


 ――辛くはない。これは至福。愛するリュートに全てを捧げる。例え報われなくても、それだけで私は幸福


 ――人はそれを辛い恋というんだよ


 ――違う父さん


 ――どうして違うんだい?


 ――愛の可能性は無限大。たとえ報われない恋でも、必ず報われる


 ――必ず……報われる? それはどうして?


 ――理由などない。何故ならこれは理屈ではないから。リュートを愛した分だけ私は必ず報われる――だから頑張れるっ! 何がどうなろうと、例え恋が破れようと――最後に精一杯に恋をしたと、後で笑うことができるのならば、自己満足で私の勝ちなのだからっ!


 ――はは、そこまで言い切れるなら上等だ。ねえ、リリス?


 ――何? 父さん?


 ――良い恋をしているようだね


「……そう、私は絶対に後悔をしない。リュートを愛したことを後悔したりなぞしないっ!」


 そうして、私は外なる神ではなくコーデリア=オールストンを睨みつけながら、私の全力を放った。


「……究極金色咆哮(アルティメット・ドラグズニューコリアー)!」


 爆炎と共に魔術的シグナルを確認。

 まあ、当然の結果だと思う。何故なら、愛の可能性は無限大なのだから。


「……全ての防御障壁の消失を確認。さあリュート、これで対象は丸裸」


 そうしてリュートの肩をポンと叩いた。


「……対象の完全消失の遂行を希望する」

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