第141話

 サイド:ゼロ


 で、ウチは方舟地上のドーム空間グラウンドに出た訳やけど……。

 しかしまあ、こいつ等無茶苦茶やな。


 量産型の役立たず共が完全に総崩れやないかい。


 戦線は崩壊して、散り散りバラバラに逃げ出そうとする輩を、ピンク色の髪の男の娘が嬉々として追いかけまわしてシバキ倒しとる状況。

 で、外につながる道を……金髪ロンゲが仁王立ちで塞いどるし、もうほとんどカオスやね。


「お初にお目にかかりましてや」


 で、ウチは男の娘に背後から声をかけてみた。


「あ? 何だテメエ?」


 目つきと言葉遣いの悪いやっちゃなあ。

 まあ、すぐに引きつった感じでウチに許しを乞うようになるんやけどね。


「ウチの名はゼロ。あんたに死を告げる女の名前や」


 ドヤっ!

 決まったで! カッコよく決まったで!


「まあ、要は今から俺様ちゃんにボコボコにされる女の名前ってことだな」


「はは、これはこれは舐め腐っとるな。聞いて驚けや。ウチのスキルは未来演算。システム上でも最強のスキルや」


「ほう、そりゃあ面白そうなスキルをもってやがんな」


「お? 知っとるんか?」


「俺様ちゃんたちが最も警戒しているスキルの一つだかんな」


「せや。ウチのスキルは最強や。未来を見通すウチのスキル……槍でも鉄砲でも持ってこいってなもんやで!」


 ボキボキと拳を鳴らし、男の娘はやる気満々のようだ。

 はは、アホやなこいつ。


 このドアホ……ウチのスキルの恐ろしさを知っているらしいのに、やる気まんまんやで。


 思わず笑いそうになりながら、ウチはスキルを発動させた。



 ――演算条件:当方の無傷と眼前の敵の無力化……制限時間は30秒以内。シミュレート開始……30秒以内……該当ゼロ。演算条件を1分以内にして再度演算開始……7万通り攻守のシミュレートの結果該当ゼロ。演算条件を3分以内にして再度演算開始……18万通りの攻守のシミュレーションの結果、該当ゼロ……


 ――敵のステータスの再分析終了。演算条件:当方の無傷と10分以内の勝利……。シミュレート開始…………該当ゼロ。演算条件を20分以内にして再度演算開始……該当ゼロ。1時間以上……該当ゼロ。条件変更。時間を問わず、当方の一定ダメージも許容する。再度演算開始……該当ゼロ。条件変更。当方のダメージの程度のいかんによらず、時間も問わない……ただ、勝利に至る方策を……演算開始


「該当……ゼロやと?」


 なんぼ検索してもゼロ、ゼロ、ゼロって……。

 ああ、そういやウチの名前もゼロ、それやったらそないなこともあるかもなー……ってなんでやねん!

 あかん、これはアカンでっ!


「どうやらテメエ自身の未来が見えたようだな?」


 どないなっとんねんこれ。ありえへんやろ?


 モーゼズ兄やん……いや、あのクソ眼鏡……冗談きっついわあ……事前に聞いてたこいつ等のスペックと全然ちゃうやん。こいつ等ほんまに滅茶苦茶やん。


「いや、あのクソ眼鏡……そもそも円卓会議の諜報担当を名乗り出たのもおかしいか」

 

 意図的にウチ等に偽情報を流しっとな……あのクソ眼鏡っ!

 そうして、ウチは諦めたように肩をすくめた。


「なるほどな。最初から外なる神とリュート=マクレーン以外は戦力外っちゅうことか。で、それを取りに行くためにだけにウチ等を利用した……ってとこやろな」


 だとしたら、憑依できんかったのも正解やったかもな。

 絶対の力を手にした瞬間に、ウチ等を用済みとして皆殺しまでありえたで。

 あのクソ眼鏡やったら「世界には私とコーデリアさん以外は存在する必要はない」とか言い出しそうやし……いや、多分……それがあのクソ眼鏡の目的やったのかもな。


「ちなみになんやけどな、あそこのロンゲはナニモンや?」


「変な事聞くんだな? まあ、冥途の土産に教えてやるよ。あれが龍王だ」


「……なるほどね」


「無限の連打。テメエの見える未来のとおりにくれてやる――無限舞踏(エンドレス・マリオネット)」


 瞬間移動に見えるような速度。

 目にも見えへん、反応もできへん。


 こんなん、初手を防ぐことなんてできるわけもあらへんがな。


 オマケに初手を喰らったら無限の連打……ほんまに悪い冗談やで。


 で、案の定降り注ぐ無限の連打。死の間際、ウチは思ったのだった。



 ――龍王はん……めっちゃイケメンやん……と。



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