第140話

 と、そこでウチは覚悟を決めて出口に向けて歩き始める。


「おい、ゼロ?」


 新生円卓会議、転生者のナンバー2がウチの肩を掴んだ。


「ウチが先陣を切って出る。こっから先はウチが仕切らせてもらうさかいな。みんなもウチについてきい。勝機はここしかあらへん」


「あの化け物を相手にするのか?」


「転生者最強のウチが出るしかないやろドアホっ!」


「転生者最強は私だが?」


「転生者近接最強。SSSランクオーバーのヨアヒムやったかな?」


 と、周囲を見渡すも全員が不審な表情を浮かべている。


 チっ……能ある鷹理論で爪を隠し過ぎたってことやな。誰もウチの力を信じてへん。

 

 まあ、ウチもクソ眼鏡と同じく特殊能力特化やさかいな。

 能力抜きの実力的にはSランク~SSランク程度や。


「分かったわ。誰が仕切るにふさわしいか力を見せたる。時間もあらへん。ほら、かかってきいな」


 ――演算条件:当方の無傷とヨアヒムの無力化……制限時間は20秒以内。シミュレート開始……20秒以内……該当ゼロ。演算条件を30秒以内にして再度演算開始……3万通り攻守のシミュレートの結果該当ゼロ。演算条件を1分以内にして再度演算開始……7万通りの攻守のシミュレーションの結果、該当ゼロ……条件解除……再検索。2分以内での討滅……該当有り……これより脳内にシミュレート結果を複写。小脳と魔術回路の最適化を行います……プロセス成功。これによってあらゆるイレギュラーの存在を考慮しても無傷による勝利の可能性が99.999999999パーセントとなりました


 はい、ありがとう。

 これで文字通りにほぼ100パーでウチの勝ちや。


「かかってこーへんのかいな。なら、ウチから行くで」


 まあ、かかってこーへんのは知ってたけどな。


 何故ならウチには既に未来の可能性は全て見えてるわけやし。


 で、ウチは間合いに入ると同時に白銀の剣を一閃。


 剣術やったら零点の攻撃やけど……これで良い。


「血迷ったかゼロ!? それにあまりにも稚拙な攻撃。格上相手にはお粗末にすぎるぞっ!」


 カウンターとばかりヨアヒムは拳を振り上げる。

 ま、ヨアヒムが剣を抜かんのも想定通り。


 ヨアヒムの右拳がウチのドテっ腹に向けて放たれた。全く遠慮のない輩やな。

 ま、普通にやったらこの速度の攻撃はウチには避けられへんねんけど、ここにこの動作で足を置けば――


 ――ツルリ、そしてすってんころりん。


 どやっ!

 大理石でウチはすっころんで、トリッキーな動きで回避成功や!

 そんでもって、不格好にその場に倒れこんでゴロゴロと横に転がって……。


「コケた……だと?」


 立ち上がってウチはニヤリと笑った。


「いや、避けたんや」


「どういうことだ? しかし……このレベルの戦いで、コケるなんてそのような事か……起きるというのか?」


 ヨアヒムが小首を傾げると同時、ウチは剣を大上段に構えた。

 そうして、ウチはヨアヒムに向けて駆け出した。

 そのまま大上段からの振り下ろしをしようとして、絨毯にできた凸凹の凸に足を取られて綺麗に滑った。

 そうして、滑る動作と共に剣がヨアヒムに繰り出される。


「なっ!?」


 予測不能なウチの動きに、呆気に取られた表情をヨアヒムは浮かべた。

 そうして、ウチの剣に回避行動を取ろうとして……ヨアヒムもまた絨毯にできた凸凹の凸に足を取られて綺麗に滑った。


 もつれあうようにウチ等はその場で転倒する。


 そして気が付けば、ヨアヒムの肩口に深々とウチの剣がめりこんでいた。


「何故……ありえない? こんな戦いが……有り得て良いのか? お前にとって都合の良いことが……起きすぎている」


「未来演算。まあ、そういうスキルということでよろしく。ま、計算では20連発やな」


「20連発?」


「20連発で……アンタは沈むんよ」


 言い終えると同時にウチはヨアヒムに突進する。


 初手。


 上段撃ち降ろし。

 ヨアヒムは回避を取ろうとするも、先ほどの転倒で舞い上がった埃がヨアヒムの目に入る。

 そこで再度、ウチが足を滑らせて、トリッキーな動きに対応できずにヨアヒムは被弾した。

 深々とヨアヒムの皮膚を切り裂く。



 2手目。


 ウチはその場で剣を高々と放り投げ、ヨアヒムは剣の飛んだ上空に目線を切った。

 そのままウチはバックステップを取りながら、懐からナイフを取り出し、ヨアヒムの肩口に投げる。


 ヨアヒムはナイフを避けるも、再度、埃が目に入って視界が一瞬ブラックアウト。

 で、ウチの剣がヨアヒムの右手上腕部を切り裂く。



 そして、そこから先の攻防は似たような感じでずっとウチのターンってわけやね。

 格闘技術は明らかにヨアヒムの方がウチよりも上だ。


 せやけど、ダース単位で仕掛けられるヨアヒムの攻撃の全てが、まるで最初からそうなることが分かっているように……いや、実際分かっとるんやけど。


 ま、予知能力のように避けられていくっちゅうわけ。


「こんなものを剣技なんて……俺は認めない。子供が木剣を振るうほうが、まだいくらかマシだ!」


 ま、ほとんど冗談と思えるような動きと、そして剣筋やからね。


「ともかく、これでおしまいや」


 既にボロボロになり、地面に伏せているヨアヒムの首筋に剣をあてがう。

 そして、周囲の連中に高らかに宣言する。


「数百万通りの局地的な戦闘を見通す未来の魔眼。これがウチの未来演算や!」


 ドヤっ! とばかりに胸を張る。


「出るで! 転生者共っ! 地上で暴れとるアホ共はウチが皆殺しにしたるっ!」


 けれど……全員が視線を床に伏せる。


「何や、こーへんのかい?」


 今のでアホでも分かるように力は見せたはずなんやけどな。

 ま、そもそもこいつらはただのビビリやさかいな。スキルの力もっとるのに、裏からコソコソコソコソ……ほんましょうもない奴らやで。


「まあええわ。ウチが一人でアホ共を殲滅して、その後にオドレ等の根性を叩きなおしたる。その後は……ウチの、ウチによる、ウチの為の新生円卓会議の発足や。オドレ等転生者を力で支配し、世界そのものも支配したるさかいな!」


 そうして、ウチは出口に向けて歩を進めた。



「ようみとけ! これはウチの生きざま……泉州魂やっ!」

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