第138話

 サイド:マーリン


「創造の原初(ビッグ・バン)」


 ドーム後方で爆発が響き渡る。

 そして、人間が消滅する。


 ふむ……? 流石は腐ってもSランクオーバーの集団じゃな。

 今ので7000の内の5割は削ったと思ったが、中々どうして……咄嗟に集団で魔法防御陣を組みおったか。


 まあ、5割が3割に減ったところで壊滅的損害じゃろうがな。


 と、いうことで我はこれでしばらくは打ち止めじゃ。


 かなりMP消費を抑えたが、連打ができぬ。

 術式の再チャージにはしばし時間がかかるでの。



「はははー! はははー! どうせ雑魚なんだからチマチマくんな! まとめてこい! まとめてよっ!」


 人が飛んでいく。


 ゴミクズのように飛んでいく。


 殴打で。


 蹴りで。


 投げで。


 流水のように静かに、獣のように獰猛に。


 荒々しく見えて冷静に、攻守一体の攻撃を多人数戦で、まるで詰将棋のように、踊るように組み立てていく。


 一切の反撃も許さず、ただただ一方的な蹂躙。


「はははーっ! はははーっ! どうしたどうしたー! 俺様ちゃんの首を取ってみろよっ!」


 それはガサツに見えるほどの、けれど徹底した体術理論を踏まえた、呼吸の一つの動作までに至る学術の結晶。


 ――これぞ完成された武


 劉海の多人数戦での舞踏を見たのは久しぶりじゃが……あれでは相手に同情してしまうの。


「しかし、本当に君たちは無茶苦茶だね」


「まあ、お主も大概じゃがな」


 と、涼し気な顔の龍王は、流れを変えるべくこちらに一気に切り込んできた集団に掌を向け――


「龍帝咆哮(エンペラー・ジェノサイド)」


 ノーモーションで龍のブレスを右掌から出しおった。


 今の広範囲爆撃での死者は70といったところ。


 この男の恐ろしいところは、これを連打で放てること。


 まあ、無限というわけにはいかんが、我のように一発打ち止めというわけでもなし。


「ところで、どうして龍化しないのじゃ? さすればもっと威力もでように」


「優雅ではないからだよ」


「うぬ?」


「ホストの姿こそが最も美しく、そしてエレガントなんだよ。それくらいわかるよね?」


「う……うむ……」


 そうして、嬉々として量産型勇者を殴り飛ばしながら飛び回っている劉海に視線を送る。


「しかし、お主はホストじゃし、アレも男の娘じゃし、変わり者ばかりじゃのう……」


「いや、テメエも中身がババアなのに好き好んで見た目を幼女にしてんじゃねえかっ!」


 地獄耳じゃの。

 相当に距離が離れているのに話を聞いておったのか。


「はははー! どうしたどうした! まだ半分以上残ってんぞ!? 既に戦意を喪失しているように見えやがるが……辞めねえ! 辞めてやんねえ! ははー! 本当に仙術は慈悲なしだZEEEEE!」


 量産型共は劉海にビビリまくっているようじゃ。


 証拠に、全員が顔を真っ青にして「どうするよ?」とばかりに出入口をチラチラ気にしておる。


 うむ。まあ気持ちはわかるがの。


 開幕早々に大爆発で自軍の3割を削られ、オマケにたった一人に物理で無双され、こちらに近づけば龍帝の咆哮が飛んでくる。


 ――こんなの逆の立場なら我でも怖い


「ま、こちらはどうにかなりそうじゃの」


 後は転生者とかいう集団がこの場にどう介入してくるか……と言ったところか。


 と、我はその場に座り込んで、劉海の演じる人間飛ばしの高みの見物に入ったのじゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る