第136話


「コーデリ……ア?」


 気が付けば、全てがボロボロだった。

 龍の祭壇はリリスの魔法と思われる爆撃で破壊され、そこらに石が飛び散っているし、床も血で染め上げられている。


 俺の体も焼け焦げてズタボロだし、コーデリアも全身血まみれで息も絶え絶えで座り込んでいるし、リリスに至っては息をしていないように真っ青な顔で転がっている。



「って、おい! リリス!? 大丈夫か!?」


 急いで駆け寄……れない!

 膝が完全に笑っていて、足が言う事を聞いてくれない!


 動け、動け、俺の足!


 必死に、もつれる足を動かして、リリスの脈をとってみる。

 次の鼻先に手をやって――


「息……してねえじゃねえかよっ!」


 と、そこで今までの……モーゼズに洗脳されて、魔人化していた時の記憶が映像としてフラッシュバックしてきた。


 ――本当に何やってんだよ俺!


 いや、後悔は後だ。今はリリスを……っ!


 恐らく自爆系の魔法を使ったんだろう。だったら、蘇生の確率は紙よりも薄い。


 でも、とにかく今は呼吸だ。そうして俺は昔習った延命治療を思い出しながら、リリスに心臓マッサージと人工呼吸を施そうとする。


 心臓を押して、鼻を塞いで唇と唇を重ねて、息を吹き込む。

 

 泣きそうになりながら、何度も何度も同じことを繰り返す。


 ああ、こんなことなら運転免許を取った時にもう少しちゃんと救命の授業を受けてりゃよかった!


 そして、数十秒同じことを繰り返した時、リリスの口元が微かに開いた。


「リュ、リュ……リュート……」


「リリス!?」


「も、も。も……」


「も? 何だ? 何が言いたいんだリリス?」


「も、も、も……」


「何だ!? 何だ!? 何だリリス!? どうしたんだ!? 何が言いたいんだ!?」


 そしてリリスはクワっと瞼を開いて、恍惚の表情でこう言った。


「……もっとキス……して欲しい」


 思わず頭をはたきそうになったが、俺は「はは……」と力なくその場で力なく肩を落とした。


「……おはようリュート。目覚めの気分は最高。ちなみにもっと胸を触っても構わない。いや、むしろそうして欲しい」


 いつもならゲンコツを落としているところだけど、今度ばかりはリリスのこのノリがありがたい。

 生きていてくれてありがとう。

 その感謝しか出てこない。


「しかし、どうしてリリスは助かったんだ? まさか俺の下手くそな人工呼吸ってワケじゃねーだろ」


 しばし考え込み、リリスは胸に掌をあてて小さく頷いた。


「……神龍の守護……父さんが守ってくれたんだと思う」


「お前の父親が?」


「前よりも弱々しい。けれど、私の中で生きている。そして私も瀕死に近い……でも、生きている」


「どういうことだ?」


「生命の力。私と父さんでキッチリと半分……そういうことなんだと思う。一人だけなら死んでいたのは間違いない」


 一人だけなら死んでいた……か。


「ああ、そうだな。俺も一人だけなら終わってた」


 と、そこでコーデリアがヨロヨロと起き上がり、こっちに歩いてきた。


「すまねえコーデリア。迷惑をかけた」


「こういう時はすまないじゃなくて、ありがとうって言うもんだと思うよ」


「ああ、ありがとうコーデリア……そしてリリス」


「それにね」とコーデリアは洞窟の天井を見上げた。


「そもそも、ありがとうとすら言わなくても良いんだよ」


「ん? そりゃあまたどうしてだ? お前らに命を張らせて、こんなに迷惑かけたのにか?」


「だから、それが間違ってる。迷惑かけたって良いんだよ。アンタは私達がヤバい時に体を張って助けてくれる。だったら、アンタがヤバい時は私達が体を張る。アンタ……今まで散々私達を守ってくれたんじゃん。これくらいのことやっても、十分にお釣りがくるよ」


 慈愛に満ちた表情で、けれど、勝気な瞳でそう言ったコーデリアに「こりゃあ適わない」とばかりに肩をすくめた。


「ともかく……後は俺がモーゼズをぶっ飛ばして、それで終わりだ」


「だから、それは違うでしょ?」


 ああ、そうだなと俺は観念して笑った。


 これからコーデリアとは長い付き合いになるだろう。

 仲間として、友達として、あるいは恋人としてかは分からない。

 でもまあ、今、この瞬間……俺はコーデリアには今後、尻に敷かれるのは決定しちまったかもな。


「俺たちみんなでぶっ飛ばして、それで終わりだ。だからコーデリア、リリス? 力を……貸して欲しい」


 そうして、俺は恐らく、今回の人生を生きてきた中で、一番情けない顔を作り――けれど笑顔でこう言った。

 

「どうやら俺は側にお前らがいないと駄目みたいだ」


 と、俺の言葉でコーデリアとリリスは満面の笑顔と共に頷いたのだった。






・補足


 書籍版では商業的理屈で、全て王道のオンパレードで締めまで行くと決めていたので、リュートの自己中なところも含めてコーデリアは全肯定して、最後まで振り回されています。


 ネット版はある程度邪道になっても、やりたいようにやろうと思っているので、この形ですね。




 作者的にはもうこれでやり切った感凄くて完結です。


 が、色々と散らかっていますので、残りのフラグを消化してエンドとなります。


 ここから先は何でもアリで楽しく書きます。


 もうちょっとだけ続きますので、よろしくお願いします。









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