第134話
サイド:リリス
――幼い頃、父さんに教えて貰ったオリジナル魔法がある
「ねえリリス? この魔法は絶対に使ってはいけない魔法だよ。絶対に使わないと約束してくれるかい?」
「絶対に使ってはいけないのに、どうして教えてくれるの?」
父さんは困った顔をして、私の頭を撫でてくれた。
「まだリリスには分からないさ。でも、絶対という約束でも曲げる時が来るかもしれないんだ」
そうして父さんは空を見上げた。
「リリスの子供や旦那さん……大切な家族。そんな家族を守らなければならない時が来るかもしれない。大人になった時、約束を破るかどうかはリリスが決めれば良い」
今なら、父さんが何故に禁じたかは分かる。
それは原初魔法。
土龍族の魔法研究家だった父さんが構築した、龍魔法でも、人の魔法でもないオリジナル。
当時の私――魔術師としての素養も低い私でも扱える、原始的な魔法。
つまりは、生命を燃やして魔力に変換する、故に効果も絶大の――
――自爆魔法
「リュートの気の質が変わった?」
コーデリア=オールストンの言葉通り、発生する漆黒のオーラの量が増えた。
目は完全に正気を失い、そして――
「きゃああああああっ!」
コーデリア=オールストンの悲鳴。
今までは皮の下の一枚を斬る程度だったが……次の段階へと来ている。
このまま正気を失い続ければ、いずれ私達は殺される。
いや、それ以前に失血多量で私達二人は遅かれ早かれ戦闘不能だ。
コーデリア=オールストンに向けて、リュートの斬撃が延々と繰り返される。
舞い散る鮮血の量も先ほどより遥かに多い。
そして、確定的なことが起きた。
コーデリア=オールストンの右手の指が飛んだのだ。
回復魔法で復元できるレベルだが、リュートの攻撃の質が身体欠損を伴うものへと、明らかに変わった。
最早、一刻の猶予も無い。
――ねえ父さん? 父さんはその魔法を使うことがあるの?
――はは、分からないな。でも、リリスを……家族を守る為なら……父さんは……
あの時の父さんの困ったような顔。
その気持ちが良く分かる。
――事実、私は今……とても困った顔をしているだろう
リュートは私について、遠距離砲台として以外の要素の全てを無視している。
何故なら、近距離では私はこの次元の戦いでは戦力にはならず、それは正しい。
近づいても、できることなど何一つない。そう、ただ一つの方法を除いて。
だからこそ奇襲足りえるのだ。
私達もボロボロだが、リュートもまた満身創痍。ここでダメ押しの一撃を加えれば、流れは変わる。
そして、私はコーデリア=オールストンと戦うリュートの背後へと回って……背後から優しく抱擁した。
「……ここで全てが燃え尽きても構わない」
完全に私をノーマークにしていたリュートは驚いて振り返る。
――ねえ父さん?
――私は間違えているのかな?
心の中、魂の奥深く。
神龍の守護霊として私を見守っていてくれている父さんが、やはり困ったような顔をしたような気がした。
――父さんには分からないよリリス。でもね?
――何? 父さん?
――全てを投げうっても守りたいものであれば、父さんは反対はしない
そして、あの日あの時、遠かりし日々の追憶の彼方に見た、父さんの笑顔が脳裏によぎる
――何故なら、父さんもリリスを守る為ならこの魔法を使うと言ったのだから
「……最後になるかもしれない。その覚悟がある……だからお願い。私の思いと覚悟を受け取って欲しい。必ず……必ず戻って来て……リュート」
そのまま、私はリュートの唇に自らの唇を重ねた。
リュートとキスもできた。思い残すことはもう何もない。
私のMPを、そして命を魔力に変える。だから、私の思い……リュートに必ず届いて欲しい。
「コーデリアーオールストン! シャクだが……後は任せた! 私が死んだら後は二人で付き合うなり同棲するなり……結婚でも何でも、好きによろしくやるが良い! ただし……その前に必ずリュートを正気に戻せっ!」
抱擁する掌に向けて、心臓から魔力を、そして命を流し込む。
狙う先は私の掌の接着点、リュートの首筋から少し上の延髄。
「……龍躯一閃(ラストシャインニング)っ!」
そして私の意識は暗転し、闇に呑まれた。
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