第133話


 ――俺、何をやってんだろう?


「お願いリュート! 正気に戻って!」


 おいおいコーデリア? そりゃあないだろう。

 傷つき崩壊しかけているこの体でも、まだ俺の方に相当に分がある。

 考え無しに突っ込んできちゃあどうにもなんねえだろ。

 それに、剣の振り方ってのは……こうだ。


「きゃああああああっ!」


 コーデリアの肩口から鮮血が飛び散る。


 ――まただ


 殺すつもりで剣を振ったのに、手元が狂う。


 ――俺、何をやってんだろう?


 こんなにボロボロになって、体中も痛いのに。

 ああ、そうか。四聖獣の宝珠を取りに来たんだっけか。ここはどこだ? 

 懐かしいな、龍の祭壇じゃねーか。

 まあ、そんなことはどうでも良いか、仕事を終えて、モーゼズに渡して……。

 それで……。


「……捨て身の時間稼ぎ……感謝するコーデリア=オールストン。金色咆哮(ドラグズ・ジェノサイド)」


 金色の光が俺を包む。

 肉が焼き焦げ、再生も追いつかない。

 ああ、なるほど。

 連携の為にコーデリアは捨て身で突っ込んできたのか。で、本命はこっち。

 確かに今のリリスの金色咆哮なら、俺にもダメージは通るだろう。


 ――強くなったなこいつら。魔人状態の俺相手に食い下がってやがる。


 コーデリアもリリスも、ここまで叩き上げる為に必死に自分を追い込み続けたんだろう。

 こいつらの努力は聞かなくても分かる。


 でも……。


「……リュート。戻って来てほしい。いつものように私の頭を撫でて欲しい」


 足りない。

 俺を殺るにはまだまだ足りない。


 そうして俺はリリスの背後に回って、背中から斬りつける。


「……ぐっ」


 やはり鮮血は飛び散るけれど、皮の下の肉を少し削ったくらいだ。

 既にコーデリアの斬撃を20以上、リリスにも10以上はくらわしていて、二人とも血達磨だ。

 全部、殺す気でやったんだけど、何故か途中で手元が狂う。


 そして、俺もまたズタボロだ。龍海とマーリンに喰らったダメージも抜けちゃいない。


 はは、世話あないな。3人揃って慢心創痍ってのはこのことか。


 ――ああ、本当に何やってんだろ俺


 何回か分からない問いかけ、自問自答。

 誰も答えてくれず、答えも出ない。

 そして、やがて瞳が重たくなってくる。

 いや、グチャグチャにトロけていく。


 ――ああ、これで終わりか

 

 それだけははっきりわかる。何度も意識が飛んだが、これで本当に最後だ。

 俺の意識は今回のこれで完全に途絶える。

 

 多分、さっきのリリスの攻撃で、致命傷に近い状態……。

 体の奥底から生命の危機と共に、本能が強く出て理性が抑え込まれるのが良く分かる。


 ――そして


 俺は、ドロドロに溶けた意識の海に落ちていく。

 視界が暗転し、どこまでもどこまで続く黒の空間が訪れる。


 ただただ暗い視界の中――


 ――温かい


 ゲル状のぬるま湯の中、闇夜の大海原を浮かび、ただひたすらに漂うような……。


 ――もう考えるのは疲れた


 何かに抗わなくちゃならないと、ずっとそんなことが頭の中にある。

 そのことを考えると、とにかくダルくて……だから、もう、どうでも良い。

 何がどうなったって知ったこっちゃない。


 そうして、まどろみの中、眠るように俺の意識は闇へと溶けた。

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