第129話

 

「ちなみにリュートは仙術で大気中の魔素を吸収してMPを無尽蔵に回復できるからな」


 その言葉で私の表情は凍り付いた。

 まあ、そんなことも以前に聞いていたような気もするけどさ。



 良し、ちょっと落ち着いて考えてみよう。

 とりあえず、リュートは滅茶苦茶強い。それが更に50パーセントUP。

 しかも自然回復で致命傷からでも復活するらしい。

 普通に倒すだけも無理っぽいのに、どんだけ攻撃しても無限のMPで回復してしまう。


 うん、無理。

 こんなのどう考えても無理。


 味方にすると何でもぶっ飛ばしてくれる安心感凄かったけど、敵にするとやっぱり絶望感が本当に半端じゃない。 


「マーリンさん? 先ほど、待っていろとおっしゃいましたが……リュートを迎え撃つってことですよね?」


「左様。魔人化してようがどうであろうが、やることは変わりゃあせん」


「でも、アレって強すぎるっていうか、デタラメっていうか……はっきり言っちゃうと無敵っていうか。それが更に強くなってるんですよね?」


 私の言葉でコクリとリリスも頷いた。


「……同意。リュートを相手にするとか無理ゲー」


 私とリリスの絶望の表情を見て、劉海師匠が声を荒げた。


「なあお前らな? 舐めてんよな? はっきり舐めてんよな?」


「舐めてる?」


「龍王と愉快な仲間たちを舐めてんよな?」


 龍王と愉快な仲間たちって……と私が大口を開くと、師匠は更に言葉を続けた。


「そもそもな? リュート研究家の俺様ちゃんからするとだな」


「……リュート研究家?」


「あ? 言ってなかったっけ? いや、アレってぶっちゃけ俺様ちゃんの超好みだからさ」


「……え?」


「あいつ、稽古つけたらやらさせてくれるって言ってたのに結局一回もやらせてくれずに逃げやがったんだよな」


「……」


「……」


「……」


「……」


 この言葉には私やリリスだけではなく、龍王様やマーリンさんもドン引きだ。

 っていうか、男同士でそういう話はちょっと……耐性が無いので苦手です。


「……弟子として恥ずかしいので辞めてください師匠」


「何だよお前ら冗談通じねーのかよ」

 

 と、そこでパンと劉海師匠は掌を叩いた。


「リュートは俺様ちゃんたちで何とかする。で、一番肝心なのは――」


「リュートをどうやって正気に戻すかですね?」


「その通りだ。おい、リリス? そもそもリュートは自力では仙術も含めて魔法は使えないわな?」


「……そう。魔術演算は私が担当しているから。私とリュートの魂は一部溶け合い、そのおかげでリュートはMPを魔力に変えて行使できる」


「じゃあ、どうしてリュートは今は単独で莫大な力を行使している? お前とは距離が離れているし、魔術演算もしてねえだろ?」


「……恐らく。賢者モーゼズ」


「その通り。恐らくだがモーゼズとリュートは、リリスと同じく魂のリンクでつながっている。スキルの力か何か知らねーが、今はあのクソ眼鏡がやってやがんだろ」


「……それではモーゼズもリュートと共に戦場に出ていると? それでモーゼズを叩けば……」


「システム関連は以前から調べているから知ってるが、洗脳(ブレインジャック)のスキルってのは遠隔操作可能なんだよ。演算システムも恐らくそれに則っている。リュートが圧倒的な以上、操縦者である自身が弱点なのに、危険地帯に出てこれるか?」


「……では、打つ手はないと?」


 いいや、とそこで劉海師匠は首を左右に振った。


「リュートが無敵だと思ってモーゼズも俺様ちゃんたちを舐め腐ってる。だから、そんな不用心なことができるんだ」


「不用心?」


「当然、スキルの力は遠隔だと支配力が薄まる。一旦……瀕死に追いこんじまって、意識を途絶えさせて命令をリセットさせればそれで洗脳は消える可能性が高い」


 ふーむ……と私はアゴに手をやり思案する。


「つまりどういうことなんですか?」


「リュートを殴ってぶっ飛ばして気絶させて……そんでもって正気を取り戻させる。HPを0近くまで追い込めばこっちの勝ちってことだ」


「それ凄い分かりやすいです!」


 しかし……と私は溜息をついた。

 

「……でも。現実的にそんなことできるんですか?」


「だから、龍王と愉快な仲間たちを舐めんじゃねえぞ!」


 いや、まあこの人達も人外中の人外だもんね。師匠が賞賛アリというなら、それは有りなのだろう。


 リュートVS龍王と愉快な仲間たち……いよいよ怪獣大決戦みたいになってきたね。

 まあ……私やリリスの出る幕はないってことなんだろうね。


「で、その≪ゆりかご≫に必要な四聖獣の宝珠ってどこにあるんですか?」


「試練の洞窟だ……その最深部にしまってある。洞窟を要塞化して、リュートを迎え撃って寸法だな」


 その言葉でリリスはギュっと掌を握った。


「……試練の洞窟。私とリュートの思い出の場所」


 何やらメラメラと静かに燃えている感じのリリスを見て、龍王様は優し気に笑った。


「そうだねリリス。あの場所は戦闘を想定されて作られた龍族の古代墓所。決着をつけるのであれば、一番良いだろう。あの時はリュートが君を救ったが……今度は立場が逆だ。必ずリュートをみんなで助けよう」





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