第128話
そして数日かけて、私達は一旦龍の里に戻った。
リリスの持っていた通信の宝珠で龍王様、劉海師匠、マーリンさんに緊急通信をして一旦仕切り直しをした形になるわね。
「そいつはヘヴィな状況になってやがんな。俺様ちゃんもビックリだぜ」
龍王様の館の会議室。
お煎餅をバリバリと食べながらそういうのは、何を隠そう私の師匠の劉海さんなんだけど……。
何ていうか、顔に緊張感がない。むしろ、何か楽しんでいる感じだ。
「どうして楽しそうなんですか?」
「え? だってリュートと戦れんだろ? 流石に俺様ちゃんもマーリンとか龍王とかの仲間とガチンコでは死合うことはできねえからな」
うん。
知ってたことだけど、やっぱこの人は戦闘民族というか、脳筋というか……。
っていうか、どうして男の癖に女の恰好をしているんだろうかこの人は。オマケに美人なところが腹が立つ。
「でも、これからどうするんですか?」
と、そこでリリスの師匠である禁術使いのマーリンさんが口を開いた。
「ふむ。待てばよかろう」
この人はリリスよりも小さくて、1000年生きているという話だから……ロリババアという言葉が良く似合う。
マーリンさんとリリスで、師弟揃ってちんちくりんなところが良く似てて、始めて聞いた時は噴き出しちゃったっけ。
まあ、実際に眼前で笑ったら核攻撃で消し炭にされちゃいそうだけど。
「待つってどういうことですか?」
「奴らが≪ゆりかご≫を発動させようとしている以上、最終目的地はここになるはずなのじゃ」
「え? どういうことですか?」
と、私の疑問を龍王様が応じた。
「ゆりかごを発動させる為には、この世界を守る四聖獣の宝珠が必要だ。人口調整を強制的に行うシステム上の劇薬だからね。システムも本来は人類の保護が目的なんだし、安全装置は必要だ」
「転生者達は長い時間をかけて、計画に邪魔になってくるシステムの守護者を葬り去ったという話ですよね」
「その通り。つまり、発動条件である国家の統治者になるということ以外に、守護者が守るトリガーが必要となる」
「それが宝珠であると」
「ま、そういうことだね。元々、僕たちは現状のシステムを維持し、殲滅者である≪外なる神≫の討伐までも視野に入れていた。正確に言うとその方策をずっと3人で練ってきたんだ。まあ、結局は不可能という結論になったんだけどね」
「……?」
「少し話が難しかったかな。僕たちはナノマシンという武装を放棄することでシステムからの管理外となる道を選んだんだ。でも、今の事態の元々の現況は?」
「人口と文明が進み過ぎた時、殲滅者である外なる神が全てを破壊しにくるってことですよね?」
「ああ、けれど箱庭の住人が殲滅者に対抗する術を持っていたとしたら?」
「……敵を排除して、そこで終わります」
「そういうことだね。システム上のバグを利用すればその線もあったんだが……まあ、それは今となっては言っても仕方のない可能性だ」
「で、結局どういうことなんですか?」
「武装放棄という手段を選ぶと決めた際、こちらも色々と先手を打っていたんだよ」
「それが宝珠?」
「そういうことになるね。連中に全てを押さえられる前に、朱雀と玄武の宝珠は既にこちらが確保している。局地的なごく狭い範囲内での実験程度しか奴らはできないだろう」
「なるほど、だから待つということですか」
と、そこでリリスがボソリと呟いた。
「……ここまで説明しなければわからないとは。さすがは脳筋だ」
「うるさいわね!」
と、ここで喧嘩をしていても始まらない。
「要はモーゼズ達は必ず宝珠を奪い取りに来ると?」
「ああ、向こうの最大戦力であるリュートでの遂行だろうね」
「どうしてリュートだって分かるんですか? 転生者もいれば量産型の勇者も大量にいるんでしょうに」
龍王様は三本の指を立たせた。
「理由は三つある。一つは量産型の勇者は各国の制圧に使われるであろうということ」
「転生者やリュートがいくら強くても、多方面作戦では物量がないと時間がかかるということですね」
「そういうことだ。次に……僕たちが強すぎると言う事」
「強すぎる?」
「転生者達は確かに特殊なスキルを保持しているが、個々のステータスはそれほどには大したことはない。必然、自らが出向くにはリスクが高すぎるんだ」
「自分の命は張らずに……世界を変えるような大それたことをしようとしていると? リュートたちがいた元々の世界の人間って性根が腐っているんですか?」
「それはこの世界の権力者も同じだろう。リスクは他人に取らせて、美味しいところだけを持っていくのは強者の知恵だよ」
「……そんな知恵は認めたくありません」
「同感だ。僕もまた戦いに重きを置く誇り高き龍族だからね」
そうして龍王様は険しい顔で小さく息を呑んだ。
「最後の一つだが、実は僕は龍の軍勢と冒険者ギルド……グランドギルドマスターを率いて先手を打とうと思っていたんだ。連中は武力で世界各国を制圧した後、王権を奪取してゆりかごをの発動条件を整える予定だったろうからね。だから、それをさせないために動いていた」
「それで?」
「龍族が詰めていた拠点の一つがリュートに潰されて……瞬く間のできごとだったらしい。そこでリュートの魔人化が確認されたんだ」
その言葉を受けて、劉海師匠は「ヒュウ」と口笛を吹いた。
「そういえばモーゼズとかいう奴の研究は人工進化だったな! 遂にやりやがったのかっ! これは楽しくなってきたぜ!」
「あの……魔人化って何ですか?」
「俺様ちゃん達がずっと調べていたシステムのバグ。まあ、リュートが目指していた力の頂上だ。神喰らいのスキルを上手い事使えば可能性はあったんだが、そこまで奴は届かなかった」
「……?」
「えーっとだな、アルティメットゴブリンってのがあるだろ」
「大厄災の代名詞ですよね?」
「ああ、システム上、進化先としては存在するが進化ができない種族。故に自然では発生しない魔物。ゴブリンの到達点だな。大厄災というシステム上のイベントで、強制的に一段階の種族全体の進化が条件となる」
「ふむふむ」
「で、人間でも同じことが言える。勇者の更に上が魔人。そしてその上に人魔皇ってのがあるんだよ」
人魔皇?
そういえば元々はモーゼズは私をそれにすることも視野に入れてたって話だよね。まあそれは良いか。
「つまりは、人間のアルティメットゴブリンのような存在ということですか?」
「不完全な神喰らいだったが、リュートは半分は条件を達成していたんだ。それをモーゼズが弄繰り回して底上げしたんだろう」
「えーっと……それってつまりリュートが更に強くなったってことですか?」
「ああ、多分だけど3倍くらいは厄介になってる」
「3倍……?」
「ステータスが全て50%UPする。オマケに自動回復能力もオーガエンペラーが裸足で逃げ出すレベルで瞬時に致命傷からでも復活する。MPの続く限りな」
「……それってもう無敵じゃないですか? MPが尽きるまで攻撃し続けなくちゃいけないってことですか!? リュートを相手に? それにアレってMP100万とかある……本物のお化けですよ!?」
私の言葉に劉海師匠はニッカリと満面の笑みを浮かべた。
「ちなみにリュートは仙術で大気中の魔素を吸収してMPを無尽蔵に回復できるからな」
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