第115話

 サイド:コーデリア



 3ヶ所での人工的大厄災を止めた私たちの耳に、大陸一の版図を誇る神聖帝国の首都陥落の報が届いた。


 そうして一旦、私たちは龍族の里に向かった訳なんだけれど……。 


「神聖帝国を中心に周辺の国々が瞬く間に呑まれている。無数の量産型(オーヴァーズ)に打つ手無く、ロクに抵抗すらできずに……まるで悪夢の展開ね」


 リリスが司書を務めていたという図書館のロビーで、私は苛立ちと共にそう言った。

 ロビーにはリュートとリリスとコハルちゃん……あと、エルフのお爺さんとギルドマスターとなっている。


「いや、想定どおりだ」


「想定どおり? どういうこと?」


 と、そこで赤髪の男が図書館に入ってきた。


「久しぶりだなリュート」


「おっちゃんは変わらないな。10年近くの付き合いだが、年とらねえのな」


「お前もここに連れてきたときから本当に変わらん。まったく……いい加減に口の聞き方をだな……」


「固いこと言うなって。逆に俺が敬語とか使い出したら気持ち悪いだろうに」


「まあそれはそうなんだがな」


「で、依頼したモノは?」


 赤髪の男は懐に手をやって、リュートに手紙を差し出した。


 そうしてリュートは何やら難しい顔をして文面に目を通して、小さく頷いた。


「良し、こっちも想定どおり」


「手紙? 誰からの……?」


 リュートはしばし考えて、そうして再度小さく頷いた。


「モーゼズだよ」


 その言葉を受けて、私はしばしフリーズした。


「……へ?」


「古風なものだが、決戦の果し合い状を送ったんだ」


「えと……その……ちょっと意味が分かんないかな?」


「連中としては俺たちが横槍を入れてくるのは想定内。俺らとしても連中に横槍を入れるのは想定内だろ?」


「まあ、そりゃあそうよね」


「で、今は連中は大陸中に量産型(オーヴァーズ)を放っている。連中としても最大戦力で俺たちとぶつかりたい訳だ。俺らとしても戦線が無駄に拡大している状態ってのもやりにくいしな」


「……それで?」


「快諾だったよ。3ヵ月後に正々堂々と勝負するってな。場所はエビナス平原で盛大な殴り合いって話だ」


 しばし考えて、私は首を左右に振った。


「モーゼズが約束に従うと?」


 そうしてリュートはニコリと笑った。


「いや、全く思わん。恐らくその前に準備が整い次第に向こうから仕掛けてくるだろうな」


「え? 本当にどういうこと?」


「時間と場所を指定することで逆に連中を縛ったんだよ。連中としても1ヶ月くらいの時間は必要だろうしな」


「……?」


「奴らの戦力は何だと思うコーデリア?」


「1万人の量産型?」


「いや、転生者だ。量産型については簡単に吹き飛ばせるとまでは言わんが……こっちにはマーリンがいる。向こうはそれでマーリンの動きを封じる予定だろうが……こっちにはリリスもいるしな。龍王と愉快な仲間たち以外は連中は眼中にないはずで、モーゼズの焦った顔が目に浮かぶ感じだが……まあ、本題に戻そうか」


「つまり、結局は超越した個人同士の戦いになるってコト?」


「そういうことだ。で、連中の最大戦力である転生者……その扱う武器が揃っていない」


「武器って?」


「半分はゆりかご発動条件を整える為の遠征だが、もう半分は各国に保管されている古代文明の遺産……俺で言うとエクスカリバー、コーデリアでいうとヒノカグヅチみたいな物騒な神器を集めるための遠征のはずなんだよ」


「……なるほど」


「連中としても戦力が揃う前に戦闘ってのもおかしな話だろ? で、こっちから逆に時間稼ぎのための助け舟を出してやった。約束を反故にして俺たちをハメるつもりだろうが……そこも含めて想定内だ」


「……でも、どうしてリュートは相手の内情を筒抜けで知ってるの?」


 そこでリュートは拳をギュっと握り締めた。


「死に戻って生まれ変わる前に、モーゼズがクソ野郎ってのは身に染みて分かってるからな……そこの差だ。龍族の里でリリスを助けた直後あたりに龍王を通じてありとあらゆる方法で奴を監視していたんだ」


「何でもお見通しって訳ね……アンタが味方で良かったってつくづく思うわ」


「で、俺たちとしても、それだけ時間を稼げれば十分だ」


「何をするつもりなの?」


「俺たちがモーゼズ達とやりあって、そのまま勝っちまったらその場で『外なる神』が結界を乗り越えて介入してくるかもしれん」


「旧文明を破壊した生物兵器って奴よね?」


「ああ、人口調整の管理者としても、今のこの世界に介入していないのはモーゼズのことを知っているからだ。管理者としても人類を抹消するのは本意ではないから様子を見ているだけっていう話なんだよな」


「あのさ? 『外なる神』って……リュートや龍王様、劉海様やマーリン様でもどうにもならないの?」


「一回だけ、最果ての土地の……人類の生息が許された結界のギリギリのところから見たことがある。そうだな、もしもアレとやりあうなら……一体相手に総力戦なら……」


「総力戦なら?」


「5分程度はもつかもな」


「リュートでも……そんな状況なの?」


「ああ、土台が違うからな。アレは破壊神として完成された生物だ。そもそもが俺らはシステムを利用しての……システムに許された中での人間の強化で、連中は超古代の軍事兵器としてのタガが外れた生物としての強化が為されている訳だ」


「……」


「そんなのが数十、数百って規模でいるんだぜ? どうにもならん」


「分かった。それで一ヶ月っていう時間を稼いでどうするつもりなの?」


 リュートは大きく頷いた。


「話をつけにいくんだ」


「話って……誰に?」


 リュートは立ち上がり、赤髪の男に語りかける。


「ってことで当初のとおりだ」


「ああ、まさか我々もこうなるとは思わなかったがな」


「すまんが、よろしく頼む。天岩戸の伝承ヨロシクって奴だな。古事記の時代から神々ってのは引きこもりが好きみたいでな……」


 と、リュートはその場にいる全員に語りかけた。


「お前ら……やり残したことはないよな? ここから先はノンストップで〆(シメ)まで行くぞ?」


 はてな……? と、私たちが小首を傾げたところで――


「ってことで旅装を整えたらさっさと行くぞ? 既に龍王と愉快な仲間たちは現地入りしている」


「だからどこに?」




「極地の最果てだ。古代文明の壊都:渋谷に管理者である女神に会いに行く」



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